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風になって会いに行くよ。

目が覚めると、
青空だった。

雲ひとつない青空。

空気は暑くも冷たくもなくて、
日差しも心地よい。

青。
ただひたすらに澄んだ青。

あまりの美しさに
しばらくうっとりしていたが、
大事なことを忘れていた。

私は家にいたはずじゃなかった?


足の指先と
手の指先をゆっくり動かしてみる。

地面が無い。


恐る恐る顔を横に動かしてみる。


自分の下に町が広がっている。

自分の身体が宙に浮いている。


「うわあああああ」

思わず声が出て、
身体がバランスを崩し、
180度回転して真下を見下ろすことになった。

なんとなく、
見覚えのある建物が真下にあった。


私は今、家の上空に浮かんでいるのだ。


最初はとにかく恐怖したが、
深呼吸をして落ち着いてみると、
どうやら落ちることはないらしい。

「ははあん、これが幽体離脱というものか。」

もしくは夢を見ているのだろう。

どちらにせよ、二度と体験できなそうな気がする。
ここは思いきって、
空を泳いでみようじゃないか。

そうだ、行き先は主人が働いている会社にしよう。

働いている主人の姿なんて見たことがない。
面白そうだ。


ゆっくりと腕を動かしてみる。

平泳ぎのように空気をかきわけると、
前に進んでいった。

この調子だ。


思ったよりも主人の会社は遠くて
途中で心が折れそうなほど疲れてしまったが
ここまで来たからにはと頑張った。

主人は確か2階にいるはず。

身体を傾けて下降する。

窓の側に丁度いい木が生えていたので、
そこに抱きついた。
驚いた鳥が一羽飛んでいった。

その音に気がついたのか、
主人らしき人がこちらを振り向いた。

お、間違いない。主人だ。

主人はびっくりした顔をして、
そのあとにっこりと微笑んだ。

私が猫にでも見えているのだろうか。

それとも私に見えているの?


あ、

そのとき、
主人に会えるのはこれで最期だと感じた。

主人が窓を開けようと
窓に近づいてくる。

私の大好きな笑顔で。

「最期に会えてよかったな。」


ふわりと身体が軽くなった。

身体が頭上の明るい方に導かれていく。

ありがとう。

さようなら。

大好きだよ。


不思議そうな顔をして主人が窓から顔を出して、辺りを見回している。

残念。私は上なんだな。


あたたかい光に包まれて、

宙に浮いていた感覚が
そっと
なくなった。



具のない🍙まき子(@makicome1986

数多ある文章の海から、 みつけてくれて、ありがとうございます。 現在、不定期更新・お休み中です。 鹿児島から愛を届けています。