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【9ボーダー】将来明るくはない、けど何も手放さなかった3姉妹と彼ら【10話感想】

実況じみた細かすぎる感想、実は9話まで存在します。下書き状態で、約10,000字が4記事。推敲なしでも6時間半以上かけて。

さすがに自分でも狂気の沙汰だなと思って推敲および投稿を控えました。
(自分の)ほとぼりが冷めた頃にぽろっと投稿するかもしれません。(自分の)記録用に。

今回は10話に絞って、俯瞰で語ります。頑張ります。


恋愛

六月と松嶋くん

正直、3組の中で1番予想外であり、最もしっくりきた結末でした。

七苗の「好きにならなきゃ良かった」にずっと引っ掛かり続けた六月。今更「1人じゃ幸せになれないの?」なんて言い訳でしかない。

というか、松嶋くんが会計事務所に就職したのは春。付き合い出したのが7月頃で、プロポーズが10月。
……あなた、交際0日婚がKYだのなんだの言ってたけれどもどっこいじゃんよ。

ただ、彼女が踏み止まったのは多分そこじゃないんですよね。今まで積み上げてきた全てを捨てることもそうだけど、誰かに依存することへの恐怖や忌避なんじゃないかなって。そう思ったんです。

初めての結婚では、彼女なりに夫を支えるためガムシャラにやってきた。良くも悪くも、六月が悪くないことが多分にあっても、全部引っくるめてそれが「今」。

じゃあ、同じことを松嶋くんにして、同じことを松嶋くんにされたら?

六月は物語の7月時点で、「40代になったらこれでもかってくらい自分に手間もお金もかける!」と決めていました。

松嶋くんは32歳。六月が別居し出したのが39から4引いて35歳だから、六月の32歳はちょうど成澤さんのために頑張りまくっていた頃かもしれません。
だったらなおのこと、自分が自由であると共に松嶋くんを自由にしてあげたいと思うのは当然な訳で。

……と、ここまで考えて初めて、アレッ2人して視野狭くね?なんで結婚 or 別れなの?遠距離恋愛の可能性はないの?と思い至るわけです。

20代あるいは30代同士のカップルなら即座に思いついたでしょうに。

ここがこのドラマの上手さ、年齢のマジックだなと思わされました。

これからどうなるかさっぱり読めないけれど、自分の自由も松嶋くんの夢も、それでいて松嶋くんのことも諦めない。

六月はずるい女です。もちろん、良い意味でね。

八海と陽ちゃん

ここは、1話からちょっと展開読めてました。
でも読めてたから面白くないって誰が言った?(キレ気味)(誰も言ってない)

とはいえ、この関係性に至るには、陽ちゃんが七苗への想いを吹っ切るエピソードが必要でした。なので、七苗とコウタロウがごった返り始めた8話あたりから「あ、これ最終回に間に合わない?」とメタな焦りを覚えてはいました。

安心しなさい、過去の私。9ボーダースタッフは時間がなくてもきちんと回収していきました。

10歳差、幼馴染、姉に一途な頼れるお兄ちゃん。勝ち目なしの片思い。

でも、じゃあこの2人はまるきりファンタジーかというと……まあファンタジーなんですけどリアルでもあるんです。

それはアラウンド20代な女子特有の、少女から女性へと変化する様子を10話かけて丁寧に描いてきたから。

音声解説を聞いていると、「〇〇を気にかける八海」っていうフレーズを何度も耳にしてきました。
実際、八海が主人公!みたいなシーンは少ない一方、彼女が全然出てこないシーンもかなり少ないんです。八海はおおば湯の娘かつバルの店員なので、基本的にコウタロウの生活圏内にはずっといます。結果として物語の中心部分に常駐し、何なら七苗の知らないコウタロウさえ見ている。

七苗を気遣う立場にあって同じく物語の中心に居続けた陽ちゃんが、「ごめん」から「頑張ってんな~」になって、立花氏にモヤっていくのも、八海のことを憎からず思っていた限り時間の問題だったのかなあと思うわけです。

メイン2人の解釈が難しいだけに、こういうわかりやすい甘酸っぱいカップルが1組いると本当に安心します。助かる命がここにあります。
気持ちはもう分かっているのに、照れて逃げる陽ちゃんと追いかける八海を見て、素直に「あー、こっから恋が始まるんだな。春だな」って思える。

まあ最終回は冬でしたけれども。

百合子さん

この物語で1番の貧乏くじと言ってもいいかもしれません。

恋人が出先で行方知れず、最後のやり取りのせいで自責の念に駆られながら数か月を過ごし、義父の意向で警察に届け出るのも遅れ。
いざ見つかったと思えば相手は記憶喪失、新しいアイデンティティを形成し、あろうことか彼には別の女性がいた。

しかも、これらの悲劇は全て1年未満に起きている。自分が彼と付き合ってきたのは3年なのに。

もし記憶喪失×恋愛をメインに据える作品であれば、彼女をメインにした方が映えるんじゃないかっていうレベルの人生です。

それでも百合子さんに救いがあったのは、彼女の方からコウタロウを振ったところだと思います。
百合子さんが好きだったのは、どれだけケンカするとしても仕事一筋な芝田悠斗その人であってコウタロウではなかったから。

百合子さんの年齢は最後まで明かされなかったと記憶していますが、コウタロウが30代後半であり親同士が勧めたとを考えると、彼女も30代と考えるのが自然でしょうか。
七苗よりも焦ってもおかしくはありません。

でも、最後に彼女が出てきたシーンは、同性の同僚と楽しくご飯の話をしながら出ていくところ。コウタロウに気づいてすらいない。

若いころから物怖じせずに意見を言える、プライドをもって仕事をしてきた百合子さん。大切な人のために退職さえ辞さなかった百合子さん。

そして、3年かそれ以上かけて愛してきた男性を、今や自分の愛してきたその人ではないと潔く振った百合子さん。

「9ボーダー」のメインストーリーから見ると、彼女はコウタロウに芝田悠斗をいわば“押し付けた”ヒール的立ち位置ですけど、なんだかかっこいいなと思っちゃいました。

百合子さんの生き方は、六月の「1人じゃ幸せになれないの?」の答えかもしれません。

なれるよ、ってね。

七苗とコウタロウ

私は10話を1回しか見ていないので何とも言えないのですが、これを素直にハッピーエンドと解釈して大丈夫なんでしょうか?

確かに、百合子さんとの関係は解消されましたし、七苗とは変わらず両想いであることは確認できました。

でも、コウタロウはすでに芝田悠斗として生きることを決めていて、神戸の「家族」や「友人」などを手放すことはできないと言っている。

六月たちのような遠距離恋愛をほのめかすこともなく、ただあの瞬間を楽しく過ごしたところで物語が終わった。ように、見えたんです。私は。

この回のキーワードからして、ハッピーエンドとバッドエンドのどちらかに括ろうとすることこそナンセンスだと言われたらそれまでです。

ただ、主要人物たちが焦ったりもやったりする物語にあって、メインカップルの結末を1番もやっとさせたところに、9ボーダースタッフ皆さんの覚悟や意思を感じました。

おおば湯

私の尊敬するぴこ山ぴこ蔵先生が提唱した「大どんでん返し」の頂点はここかな、と個人的に思っています。

創業99年なんていう「あー、9にかけたのね」くらいにしか思っていなかった設定も、そんな全体を撮らなくてもいいのに~程度にしか見ていなかった銭湯入り口のカットも、
全 部 伏 線 だ っ た ん で す ね ! ! ! ! ? ? ?

あの屋根1つに大企業の再開発を押しとどめる力があったという驚きと、我々視聴者はその事実自体は目にしてきていたんだという悔しさと、もう色んな感情が湧き出てきました。

もちろん、物語においてそれは再開発を一方的に押し付けられることを押しとどめる一手に過ぎませんでした。で、その鍵を握るおおば湯の方が歩み寄りを提案するっていうのがまた気持ちいい。

形勢逆転する心地よさと、勧善懲悪をカマさない令和らしい解決手法の両立。

人間模様じゃない分野で「0か1じゃない」というテーマを持ってこられたところで私の負けは確定していました(?)

新型・記憶喪失

他のライターさんも書いていらっしゃいますが、2024年の春ドラマは何といっても記憶喪失だらけのシーズンでした。
何なら、TBSが持っているドラマ枠3つのうち2つが記憶喪失ですからね。局内で被るんかい。

ただ、「9ボーダー」が本当に特殊だったのは、記憶喪失が戻らないまま物語が終わったこと。しかも、戻らないまま記憶喪失前の生活と後の生活を維持しようとしたこと。

コウタロウ、どんだけ欲張りやねんって。

でも、「あんただったらどうするよ?」って聞かれたら、やっぱりコウタロウと同じ選択をしたくなる気がしました。

自分にその記憶があろうとなかろうと、どちらも自分を思ってくれる人達なんです。どちらかを選んでどちらかを捨てるって、想像以上に難しいことだと思います。

かといって、両方選ぶっていうのもまた茨の道。中途半端になりかねません。再開発の話で板挟みになったくだりは、まさにその典型ですよね。

10話はコウタロウ単体のシーンは少なかったものの、視聴者には見えていないところでたくさんの葛藤があったことは容易に想像できます。その余韻が、全員を動かさなくてはいけない時間的制約だったのか、あるいはそれすら演出だったのか。

ここはもやっとしたままで良さそうです。喜んで手のひらで転がされましょう。

あと、あつ子さん好きとしては触れておきたい点。
今回コウタロウとの関わりが1番多かったのは彼女で、彼女の言葉がコウタロウの背中を押したのかなって思うと、ここの”親子関係”がエモかったです。

七苗との関係は別として、この2人の絆はお互いに一生心に残るものであってほしい。

0でも1でもないという贅沢

和を以て貴しとなす我らジャパニーズ。
もし「0か1だけじゃないんだよ~」だけがこのストーリーの結末だとしたら、

「いや、分かってっし」

ってなると思うんです。思春期か。

でも、この作品のキャラクター達は0も1も両方選ぼうとしている
そこがなんとも泥臭くて、おしゃれなセットや華麗な演出や脚本さばきと対極を成していて面白かったです。

六月は日本での生活を守りながら、松嶋くんの手を離さなかった。
松嶋くんは自分の夢を追いながら、六月に指輪をはめた。

八海はおおば湯とバルの両方に進路を見出して、おまけに陽ちゃんの気持ちも掴み始めた。
陽ちゃんは七苗を親友と割り切って関係を保ちつつ、八海との新しい恋に踏み出した。

七苗はおおば湯の経営に関わることでアイデンティティを再形成し、神戸から足を洗うことのないコウタロウを受け入れた。

そしてコウタロウは、神戸の生活と七苗と両方手に入れると決めた。

なんてわがままで、贅沢な決定なんでしょう!それでいて、彼らの掴もうとしている将来は全て不確かなんです。

作品タイトルが「9ボーダー」である以上、続編を作るにはまた10年経たないと多分だめなんでしょう。
そして、もし10年後を見てしまったら10話のその先がいやでも分かってしまう。

どうします?あの3組のうち1組でも別れていたら。
もう、ロスどころの騒ぎじゃありません。

とか言いながら、コウタロウと七苗があのまま結婚しようとすれば、婿入りか嫁入りかっていう現実的な話になってきます。これはもう、残念ながら0か1しかありません。
結婚しないでそのまま――となると、神戸の企業トップと東京の銭湯経営者の忙しすぎる遠距離恋愛。これもあまり未来が見えない。

他のカップルも然り。
それが、あの最終回から予想し得る未来なんです。

あー、見たいのに、見たくない!

ということで、0でも1でもない案として特別編を希望します☆

松嶋くんが帰ってくると言っていたお正月とか……季節はいつでもいいです。松嶋くんが日本にいて、コウタロウが東京にきていて、3姉妹と陽ちゃんがいつものように一緒で、久吾とあつ子さんの顔が見られればそれでいい。あっ、あとごろちゃんといつメンと(以下略)

本当に、見てよかったと思えるドラマでした。
離脱期間が長くて、1クールずっと追いかけていたファンの皆さんの足元にも及ばない私でもそう感じています。

「9ボーダー」を世に送り出してくださった全ての皆さん、ありがとうございましたっ!!!

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