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凍えるシリア

 

2020年、アメリカはシーザー法という名の経済制裁をシリアに発動させました。目的はアサド政権にシリア国民に対する虐待を止めさせ、シリアが法の支配、人権と隣国との平和共存を尊重するよう図ること。そのために包括的な制裁を課す

しかし
シリアの通貨は急落(最近だけで3分の2下落)し、医薬品などの生活必需品の輸入がさらに困難になるとともに、物価が急騰し、国民生活の困窮は一層強まります。また石油・ガスが制裁の対象とされたことも日常生活に一層支障をもたらすことになりました。さらに建設業が制裁の対象とされたことで、戦闘が行われた地域の瓦礫の撤去が進まず、国民の生活の基礎である住の確保が進まない状態です。このように国民のためであるはずであったシーザー法はかえって国民の生活を一層脅かす結果を招いてしまっています。国際的にも原油の価格が高騰している昨今ですが、シリア人の生活はどうなっているのでしょう。

寒いシリア

 シリアと言えば、砂漠のイメージが強く、灼熱の太陽がぎらぎら。しかし、冬には、雨が結構降り、東京と同じくらい冷え込みます。家は石造りで底冷えがします。私が暮らしていた1990年代の半ばは、割と高級なアパートでは、お湯を循環して部屋を暖めるシステムを使っていましたが、大概は達磨型の石油ストーブ。スイカのようなタンクがついていて、そこからポタポタと点滴で灯油を垂らしていきます。この石油タンクのことを、バッティーハ(西瓜の意味)と彼らは呼んでいました。私が借りていたのは安アパートだったので、達磨ストーブでしたが、風が煙突から逆流して瞬間的に火が消えて、気化した灯油に残り火が引火して爆発することが度々ありました。2007年頃は、イラク国境のキャンプの支援でたびたびシリアに行っていたので、いまだにこの手のストーブが活躍しているのに驚きました。

昔ながらのストーブが活躍(2007年ごろ)

 さて、Team Bekoで支援しているアレッポのがんの子ども達のことが心配でその中の一人サラーハ君のお母さんに聞いてみました。10日間電気が来ていないとのことで最低気温は-1℃くらいまで冷え込む日もあり厳しい状況です。

あれ?タンクがありません。オイルの値段が上がっていて買えないそうです。リッターあたり政府の補助で25円程で50リッターまで買えるそうですが、15日で終わってしまったとのこと。一般で買うとリッター300円くらい。ちなみに日本では今リッター107円くらいですね。そこで、古着とか、その辺の木を切ってきてくべているそうです。サラーハ君のお母さん曰く、夏服はほぼ燃やしてしまったので、近所から古着を貰ってきているとのことです。達磨ストーブは、なんでも燃やせてしまうので便利です。今日本で使っているような石油ファンヒーターは石油しか燃やせないのでこういう状況では全く役にたちません。

それほど材木が落ちているわけでもなくプラスチックも燃やす。
時には雪も降り底冷えします
サラーハ君の暮らす街

 サラーハ君のお父さんは運転手をしていましたが、戦闘が激しくなり、一時はアレッポ大学の学生寮に避難していたこともあります。戦闘がおさまったものの家は破壊されてしまいました。その後お父さんは、行方不明になりいまだに消息がつかめないのです。お母さんは、郊外の廃墟になった町にある一室を無料で貸してもらって住んでいます。最初に書いたように建設関係への投資も経済制裁の対象になっており復興が進まないので、修理もできずに大家さんは、廃墟を放置していたのでした。
 サラーハ君は、がんの治療のために、一か月に数回はアレッポからダマスカスの病院に通わなくてはならず一回の往復で9500円もかかります。

お母さんだけで4人の子どもを育てるのも大変なのに毎月数万円の交通費がかかるのはとてもじゃないがやっていけないので、2年間クラウドファンディングでお金を集めています。
 2名の子どもを支援していましたが、悲しいことに一名の男の子が亡くなったという知らせが入り、すでに送金した分の半分をそれぞれの家族の灯油代として使ってもらうことにしました。25000円で大体一か月分の灯油代がカバーできる計算です。

西瓜タンクが再び戻ってきて暖を取るサラーハ君

シリア政府の政策は?


 先月末までにシリア国内の製品の価格を担当する貿易省は、石油、砂糖、米などの一部の材料に補助金を提供し、シリア人のすべての人に市場よりも安い価格で提供していました。現在、経済情勢の悪化と物価の高騰により、政府は補助金政策を変更し、シリア人全員ではなく、困窮している人のみを対象とすることを決定しました。現在、サポートを必要としている家族のために新しい基準が選択されています。シリアの経済が好転する見込みは厳しいですが、最底辺でも生きていけるように願うばかりです。

石油タンクが届いた。これで冬が越せそう


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