東京

2ヶ月ほど前に東京へ引っ越した。

長距離運転とライブの繰り返しに疲れた。

環境を変えたくなった。

東京での仕事を増やしたい。

一度で良いから住んでみたかった。

こんな風に色んな人へ言い訳をした気がする。




お気に入りのラジオパーソナリティーが「昔、環七通りを夜中ずっと歩いてたんですよ。」とエピソードを話し始めた時。

好きな小説の中の「甲州街道を渡ったところにその店はあった。」という一節を読んだ時。

マツコデラックスがテレビで東京の色んな土地に住む人たちの特徴を面白おかしく話してた時。

敏感少年隊のサウンドオブ下北沢を初めて聴いた時。

知らない場所を想像する楽しさや尊さと共に靄(もや)のかかった景色の中に佇む自分は少し損をしているんじゃないだろうかと思ったことがあった。

私の好きなものに必ず出てくる東京の街たち。

その街の景色たちはいつも有色透明なカーテンがかかっていて、そこで暮らしている人たちの顔はいつものっぺらぼうみたいだった。

ガソリンの切れたバイクを汗だくで押しながら御堂筋を夜中ずっと歩いたことはある。

大阪市内に住み始めたころは中央大通りを渡ったところの業務スーパーによく通ってた。

天王寺が田舎の都会だったってことももう分かったし、難波や心斎橋ならGoogleMapsに頼らなくても大体辿り着けるし、梅田は何となく肌が合わないので未だに道を覚える気が起きない。

大学は吹田だったのに茨木も箕面も高槻もずっと通り過ぎるだけで全く縁が無く、でも豊中にはちょっとだけ更新したい思い出がある。

子供の時は羽曳野や柏原に住んでいて藤井寺や八尾や東大阪に住む友人たちもいっぱい居たからまたあの場所で遊びたいなと思える場所はたくさんあるのに結局あれから1度も会ってない。

551の蓬莱、ホテルニューアワジ、奈良健康ランド、かに道楽は今も歌えるけど、そのCMたちが今もまだテレビでやっているのかは全くわからない。

あー。

私は、大阪という街に住んでいたんだなと改めて思う。




東京での部屋探しをしていた時に1番ショッキングだったこと。

それは「西永福はかなり都会だった」ということ。

西永福JAMでライブをする度にめちゃくちゃイジってたけど今思えば八王子ぐらいのイメージでイジっていた。

今度、西永福JAMに東京ばな奈を持って謝りにいこうと思う。

東京の街を少しでも知っていけば私の好きなものを今よりもう少し味わって咀嚼できる気がした。

街の印象なんてひとりひとり人生の数だけ違うことなんてわかっている。

答え合わせの先に何も無くても、この先の人生をひとつずつ増やすことで、もう少し生きることを丁寧に実感したいと思った。

それは今後も何かを作っていきたいという覚悟でもある。

インプットの解像度やフィルターが変わるとアウトプットにも余白が増えるかもしれない。

しゃらくさい言い訳の果てに気付いたこと。

私は今の自分に飽きてきたんだと思う。




そのうち売れて「東京」という街に住むのだろうと思ってから約20年になる。

未だに『頬を刺す朝の山手通り』の情景は更新されない。

ここ10年は割と一心不乱に頑張って生きてきた気がするけどそろそろ生き方を変えなきゃいけない気がした。

このまま独房のような何も通わない部屋で、人間の生活を捨てて機械のようにコンビニ飯だけを食べてはぶっ倒れるまで四肢を六つも八つも動かし続ける。

壊れるまで止まれないと思考停止しながらもこのサイクルを壊す手段を考えた時、誰かに頼るか15年住み続けたこの部屋を出る勇気を行使するしかもう道は無いように思えた。

しばらくしたらまた大阪に戻ってくるのもいいかもしれない。

ここ何年かは東京の方が圧倒的に友達が多いと思っていたがいざ東京に来てみると、友達だと思ってた人たちはみんなただの知り合いだということがわかった(意外に自分から連絡しづらかった)。

この街でもずっとひとりで色が変わっただけの似たような日常を過ごすのかもしれない。

それでも今動き出せたのは口に出せない明確な理由や欲があるからなんだと思う。




東京に引っ越すとメンバーに告げた時に一緒に上京しないかと誘った。

同じタイミングで上京することになったのは「しゅり」だけだった。

毎回、三重から大阪や東京へ通うのはやはり体力的にかなり辛かったみたいだ。

あの重たいキャリーケースをゴロゴロ転がしながら3年もよく頑張ったと思う。

今のところ楽しそうにひとり暮らしを満喫してるみたいだが、しゅりのことだからきっとその内ホームシックになるだろう。

他にも上京する予定のメンバーはいたが色々と事情があって延期や中止になった。

全員東京に住めば活動はかなりしやすくなるが強制するのも違う気がしたので自分の責任で決めてもらう方がいいと思う。

よくこんなに住む場所がバラバラでグループやってこれたなと思う。

正直、結構大変だった。

今後もそんなに変わらないけどほんの少しだけ活動が楽になった気がする。

(この件に関してはファンの方からメンバーに今後どういう考えなのかなど詮索するのはやめてくださいね。)




新しい学校に転校するような気持ちで今私は挨拶もそこそこに新しい住居や家具たちへ人見知りをしている。

でも私は人にも物にもこれぐらいの距離感がベターな気がする。

新しい住所を何度も書かなきゃいけないのでやっと半分ぐらいは見なくても書けるようになった。

最寄り駅は聞いたことも無い場所だったけどきっとこの先忘れることの無い駅名になるんだと思う。

ゴミの分別のルールが変わり今はそれを忠実に従うことで何故かちょっとしたエクスタシーを感じている。

貰ったテレビのリモコンが無いことと中古で買った電子レンジが半分壊れてることは少しストレスかもしれないけど、居心地は悪くない。

6/29で色んなことがやっと一区切り付いたからなのか、久しぶりに20時間近く眠った。

翌日も翌々日も16時間ぐらい寝た気がする。

夏っぽいワンピースを買ったので見える場所に干してみた。

部屋の窓やカーテンを開けて太陽と風を感じるということを覚えた。

毎日寝る前に腹筋200回してる。

新しいこの部屋と少しずつコミュニケーションが取れている気がする。

エアコンが間に合ってよかった。



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