見出し画像

あの日に頂いた「ありがとう」

もう一年以上も前のお話。

私が外来看護師のときに出会った患者さん。

Aさんは胃癌により胃全摘をされた方、その後、肝硬変を患い肝不全の状態でした。

いつもご夫婦で来院され、亭主関白のAさんを奥様が苦笑いしながら和やかに診察をうける風景が印象的でした。

そんなAさんの肝不全の状態は

ひとつひとつ季節が進むうちに、少しずつ状態が悪くなりました。

腹部から下に浮腫が出始め、利尿剤を調整して浮腫の軽減を試みても思うようには改善せず。

一旦入院して集中して治療してもらいましょうと

関連病院へ紹介状を出し入院した。


一週間ほどで退院し、その後数か月してまた状態が悪くなり入院。

それを何度か繰り返し、

だんだんと家に居られる期間が短くなっていきました。


それでも、家に居られる期間は

通い慣れた医院で診て貰ってねと

入院中の治療の内容、処方内容

そして、状態が悪くなったらいつでも入院の連絡を下さいと

病院の医師からご連絡を頂いていた。


「病院なんて嫌だ、メシもうまくないし。家がいい」

「痛い治療はしたくないだ」

そう言うAさんに、私は何度も

「病院にいって治療してもらって、また帰って来ればいいんですよ。帰ったらまたココに来てください。Aさんが来て下さるの待ってますから」

そう言って病院に送りだしていた。

何度も送りだした。


しかし、ある時

医院の始まる時間よりもかなり早くに電話が鳴った

着替え途中の私は慌てて電話に出ると

それはAさんだった。

「どうしても調子が悪い。今日はやってるかい」

「やってますよ。ご家族と来られますか?気を付けていらして下さい」

そう電話を切ると

暫くしてAさんの娘さんの車が駐車場にやってきた

Aさんは自力で車から降りる事ができず

ストレッチャーに引っ張りだすように移乗して頂き

医院のお部屋で診察を待っていただいた。


先にお話を伺ったご家族からは

「もう入院した方がいいと思う。そのつもりで来ました」

と。

病院に連絡を取り入院の段取りをしてる途中、

Aさんが休んでるお部屋に立ち寄ると

私はAさんに呼び止められた

「Sさん(私の名前)」

「どうしました? あ、すみません。今ね、病院に連絡とっていて受診できるようにしてますから。お待たせしてすみません」


「いや、そうじゃない

多分もう帰ってこれない

Sさん今までありがとう」


そう話すAさんに

「Aさん、私 帰ってくるの待ってますからね」

と返した

必死で笑顔を作ったはずの私の頬には

涙が流れていた。

Aさんの手を握った私の手は

震えていた。


それが私とAさんの最期のお別れになったことは言うまでもない。


間もなく病院の医師から返書が来た

「闘病の気力尽き、永眠されました」と。


あれからかなりの時間が経つのに

私は死期を目の前にした方をケアさせて頂くたびに

Aさんと交わした会話を思い出す。


そして最後に頂いた

「ありがとう」の言葉に支えられている。


看護職は

感謝されがちな立場

けど、その状況に甘んじることなく

常に真摯でいたい。

患者さんの、利用者さんの最善を第一に。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?