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#60 次に続く旅

※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです

チリのパタゴニア北限あたりに位置するプコン。
当初、この小さな町に来る予定は全く無かった。というか、名前さえ知らなかった(日本人御用達のガイドブックには名前すら載っていない)。ところが、これもアフリカで知り合ったチャリダーの旅人から「雪山登山ができる火山がある」という話しをFacebook上で教えてもらい、パタゴニアをもっと見ておきたいという思いで、行ってみることにした。

チャルテンでフィッツロイを見に行って以来、わたしの脚は「もっと歩きたい!」と日々訴えていて、その後に訪れたバリローチェでも、小さな山や丘をガシガシ登った。そこには大抵ゴンドラやリフトがあって、普通の人は歩いて登ったりしないらしく、道を尋ねた地元の人から呆れられたり、道に迷って2時間も林の中をさまよったりしながらも、自分のペースで歩くことが楽しくて楽しくてしょうがなかった。

プコンでは、登山の前の足慣らしのつもりで、いくつもの湖を湛える国立公園に行ってみた。
着いてすぐ、国立公園事務所の人が地図を見ながらルートを説明してくれた。けれどもスペイン語が全くわからないわたしが「もう一度、英語で説明を…」とお願いすると、ここまで同じバスで来た女性が「もし良かったらわたし達と一緒に行かない?」と誘ってくれた。なんてありがたい申し出!
その男女二人組はカップルで旅をしているのかと思いきや、プコンの宿で出会って、ここ数日一緒に行動しているという。

女性はフランス人のマチルダ、男性はスペイン人のイヴァン。
マチルダはかなりスペイン語が堪能そう、イヴァンは英語が苦手そうだったので、二人の間の会話はほとんどスペイン語で、わたしには理解できなかったけれど、それでも一緒に行って本当に良かった。というのも、「国立公園に行けば地図をもらえる」と宿の人から聞いていたのに、実際には、最初に立て看板の地図を見ながら説明を受けただけで、紙の地図をもらうことはできなかったから。わたし一人だったら、景色を楽しむどころか、何時間さまよい歩いていたかと思うと空恐ろしい…。

3人でいくつもの湖や小さな滝をゆっくりと巡りながら、往復6時間ほど歩いた。
その帰り道、メニューの看板が出ている小さなログハウスを見つけた。だいぶ歩いてほどよく疲れた頃だったので「お茶して行こう」ということになり、その家の扉を開けた。そこで、熱々のホット・チョコレートとクリーム・チーズケーキを食べながら、旅の話しになった。

マチルダはソーシャル・ワーカーで、今は仕事を休んで6か月間南米を旅している。
イヴァンはエンジニアの仕事を辞めて、2ヶ月くらいのつもりで南米を旅している。
わたしが「2年くらいで世界中の行きたい所に行くつもり」と答えると、二人はとても驚いていた。

年齢を聞いたわけではないけれど、おそらく同世代のマチルダは、今、ようやく旅する機会を
手に入れたと言う。
In my life, when I had enough time, I didn’t have enough money. When I had enough money,I didn’t have enoughtime」と彼女は言った。
ただ、遠く南米まで来て、ここで多くのヨーロピアンの旅人に出会った今感じるのは「もっともっと自分が住んでいるヨーロッパを旅したい」ということ。次は、まだ行ったことがないイギリスやイタリアに行って、もっとヨーロッパについて知りたいと言っていた。

その言葉に、とても共感を覚えた。
わたしもこの旅で、日本とは全く異なる文化・習慣・人種の国々を訪れて来て、ちょうど日本の裏側の南米まで来た今、この旅を終えて日本に帰ることができたら、もっともっと日本の良い所を発見する旅をしたい、と強く思うからだ。生まれ育った北海道でさえ、いつか行ってみたいと思いながらまだ行っていない所が、山ほどある。

今まで日本の中の良い所を知らなさ過ぎた自分に不甲斐なさを感じると共に、これから知るチャンスがある自分はとてもラッキーだ、とも思う。

透き通った大小の湖が点在
私の大好きな人と同じ名前の湖
空に向かって真っすぐに伸びたチリ松
森の中の池が鏡張りのようだった

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