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推し映画27-「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」について

本作の田部井監督と濱プロデューサーが「ちいさな映画なので、ぜひ感想をSNS等で発信してほしい」と仰っていたので、取り留めのない感想ですが綴ります。
本日、神戸国際松竹で鑑賞した際に、大学生くらいの若い方が数名いらして、どうやら親御さんから誘われたようでした。素晴らしいことです。ひとりでも多くの若い方に観ていただきたい映画です。これは“日本の若者たちの未来”を、しあわせにする映画だと思います。

「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」について

10月2日公開のドキュメンタリー映画です。もともと、エミール・クストリッツア監督のドキュメンタリー映画「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」の公開を楽しみにしていたのですが、タイミング的にどうしても難しく見逃してしまい、無念に思っていました。なのでこちらの方は観ないと!と楽しみにしていたのです。
本日、神戸国際松竹にて、田部井監督と濱プロデューサーのトークショーがあると知って観に行きました。行ってよかったです、映画を鑑賞する以上のギフトを受け取ることができました。

第40代ウルグアイ大統領ホセ・ムヒカ。「Mr.サンデー」制作ディレクター田部井さんによる突撃インタビューから、物語は始まります。
TV番組では、ムヒカのメッセージを正しく伝えきれないと悔いたおふたりが「映画を作ろう!」と決意し、合計6回インタビューを敢行。そしてムヒカを日本に招待します。
東京外国語大学での講演や、広島と京都を訪れたムヒカに密着したドキュメンタリー映画です。インタビューや彼の日常を通して、稀代の政治家 ホセ・ムヒカと日本の、濃く深い繋がりが明かされますが、それだけでなくて。
ムヒカの言葉や表情を通して、日本人と、日本の未来に向けた、暗闇に差し込む光のようなメッセージが、綴られていました。

2010年から5年間、南米の小国ウルグアイの大統領を務めた第40代ウルグアイ大統領ホセ・ムヒカ。彼は、収入の大半を寄付、公邸に住むことを拒み、愛妻と愛犬と共に小さな農場で質素な暮らしを続けた。そんな姿から、敬意を込めて“世界でいちばん貧しい大統領”と呼ばれている。
ムヒカの名を世に知らしめたのは2012年にブラジル・リオデジャネイロで開かれた国連持続可能な開発会議での名スピーチ。先進国の大量消費社会を強く、しかし優しい口調で批判。彼の言葉はたくさんの言葉に翻訳され、世界中の多くの人々に影響を与え、日本では「世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ」(汐文社)という絵本になり、ベストセラーを記録した。(公式サイトより)

幸せとは何なのか

映画を見終えて、スイッチが切り替わったような気持ちです。目が覚めた…というか、考え方を変えたいと、強く思いました。
2012年リオデジャネイロでの国連持続可能な開発会議におけるスピーチで、ムヒカは「これは環境問題ではなく、政治の話だ」と語りました。
環境を守る為に何ができるのか…と話し合うよりも、むしろ根本的に解決すべきは、社会全体の価値観であり、一人ひとりの生き方の問題だと。
この生き方を、人類は続けていけるのか。地球は耐えられるのか、続けていくことが幸せなのか。いったい幸せとは何なのか?

日本における“幸せ”のカタチ

私自身、物心ついたときから資本主義、グローバリゼーションが当然の時代の中で生きてきました。物欲や食欲、承認欲求、あらゆる欲望が満たされること。より便利で快適に、「丁寧な暮らし」をできるだけ長く続けることが、幸せだと信じてきました。
その為に大学に入って、良い会社に入って、お金を稼いで。そうすれば幸せになれると思い込んできました。心のどこかで(本当にそうだろうか?)と思いながらも、道を外れてしまうと「欲望をある程度満たせるレベルの暮らし」ができなくなる。そんな“負け組”にはなりたくない、と、心の奥底では思っていたわけです。
私は長年、新卒採用に関わる仕事に携わってきたので、大学生と接する機会が数多くありました。これまで出会ってきた多くの大学生も、人事担当者も、私たち自身も、「一流大学を出て、一流企業に入社して、出世して、“大きな仕事をする”ことが幸せ」だと信じて疑っていませんでした。
大学は、入学希望者を獲得する為に、就職率の高さや、輩出した官僚・政治家の多さをアピールしたり、入学直後から「就職前提のキャリア 教育」を熱心に行っていました。
企業は、“自社の業績を伸ばすことに秀でていそうな人材”を獲得しようと必死でした。

一体いつから、日本はこうなってしまったんでしょう。私が出会った大学生たち。政治の道や、持続可能な社会づくりを志す大学生は本当に少数でした(体感値ですが、1割程度だったと思います)。社会貢献を意識する若者はここ数年増えてきましたが、9.5割が実業(民間企業)に就職します。まずは自分が“相応の生活”をすることが重要なので、当然のことです。働き始めたら、数十年はその世界にどっぷり浸ることになるので、はたして“個より公”の政治・社会に目を向ける日がいつになるか。
また、志ある学生たちは「あの人たち、意識高いよね」と遠巻きにされる傾向があったように思います。政治や環境問題に関心を持つこと、行動することが“意識高いよね”と冷笑されてしまう社会。
そして就職活動に直面したとき、決まって皆が口にするのです。「自分が何をやりたいのか、全然わからない」と。政治にも、環境問題にも、やらなければならないことが山積みだというのに。

これまで出会ってきた、私に相談してくれた学生たちに謝りたいような、会ってもう一度語り合いたいような気持ちでいっぱいです。もっと本質的な、考えるべきことが、私たちにはたくさんあったはずなのに。

欲望が世界を壊す

映画の中で、ムヒカが京都を訪れた際、お寺の石碑に刻まれた言葉を見て「ソクラテスの言葉のようだね。“汝自身を知れ”だね」と言っていました。
私はムヒカの言動を見て「足るを知る」ということかなと思っていました。
一人ひとりの欲望が世界を壊していく。もっと豊かな暮らしがしたい、富も物も名声も欲しい…その欲が満たされることが幸せだと信じているから、人は常に飢えています。
でも、本当にそれが幸せなんだろうか。自分を幸せにしてくれるものは、本当は、“身の回りにほんの少し”で十分なのじゃないか。

“情熱を傾けられるもの”を探す
東京外国語大学の講演で、ある学生が「人類すべてが幸せになれたら理想だけど、現実は難しいのじゃないか?」と問いました。
「まず自分が幸せになることだ、そうすれば周りも幸せになる。自分が情熱を傾けられること、幸せになれることを見つけることだ」とムヒカは言いました。

「人生で一番大事なことは,成功することではない。歩むことだ」「歩み,歩み,さらに歩み続け、それを他の人に引き継がせる。それが内容の伴う人生と言うものだ」(映画パンフレット「ムヒカ語録」より)


政治家の存在意義

ホセ・ムヒカの振る舞いを見ていて、つくづく、偉大な人だと思いました。
そして、彼のように、国民を愛し、国を導く明確なビジョンを持つ人。理想を持つ人に、国を率いるリーダーになってほしいと心から思いました。

誰のための政治なのか
ムヒカが“世界でいちばん貧しい大統領”と言われるような暮らしをするのは、「自分を大統領に選んでくれた多数の国民と同じ目線でいる為だ」と言っていました。
ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」で、小川淳也議員が言っていました。「49:51で勝った51は、49をも負う責任がある。51の為だけの政治をやってはいけないんだ」と。
Netflixのドキュメンタリー作品「監視資本主義: デジタル社会が もたらす光と影」を見て、世界をリードする立場にいる人間には、ビジョンと責任が必要だと強く思った。でないと、ごく一部の者の金儲けの為だけに世界が動いていくことになります。

日本の若者と政治
「日本の投票率は30%を越えないんだってね」とムヒカが言った時、ひどく悲しそうな目をしていました。若者が、未来に希望を持てていないのでは、とも言っていました。
高度成長期、強い日本に育ててくれた先人たちは、決して、そんな日本にしたかったわけじゃないと思います。けれどビジョンを持って率いていくリーダーが不在の時間が、あまりにも長すぎた。その結果が今の日本だと思います。
政治問題や主義について発信する芸能人は敬遠され、環境問題について声を上げる若者がバッシングされる。友達に、政治や環境について語ろうとすると敬遠される。未来や国の在り方について考える人の方が少数派で、肩身が狭い。そんな国に明るい未来は来ないですよね。

ムヒカが若者に語りかけたように、“考え方の家族”を、“仲間”を作らないといけません。そうして動き続けた結果、政治家になる。国を率いていくリーダーに育っていく。そういう仕組みに変えていかないといけないのですね。

「お金が好きな人は,ビジネスをすればよい。ただし,民衆に対する愛情が求められる政治活動に入ってきてはだめだ。政治は,全ての人の幸福のための闘争なのだから」(映画パンフレット「ムヒカ語録」より)


トークショーにて

10月10日、神戸国際松竹にて。田部井監督と濱プロデューサーのトークショーで、面白いなと感じた点をメモしました。

映画制作の経緯

2015年、「Mr.サンデー」の仕事でホセ・ムヒカに突撃取材することに。すると「あれ?日本に詳しいぞ!?」と驚いた。
放送したものの,濱プロデューサーと田部井監督は落ち込んでいた。この伝え方はどうなんだと。「TVじゃ無理だ、映画がいいんじゃないか」と企画がスタート。そこに大島新プロデューサーが乗ってくれて、実現に向かって進んでいった。

構成について
田部井監督の“一人称”にしたのは何故か。当初、田部井さんはムヒカの“言葉の海”をストレートに伝える構成にしたかった。けれど大島さん・濱さんが「一人称にして,田部井が背負うべき」と主張し、バトルになった。フジテレビ制作ということもあって「こいつ出たがりか」って思われるんじゃないか?とか。
でも一人称の方が伝わるんじゃないか?と思い直した。ムヒカは世界中で語り尽くされている。つい先日もエミール・クスとリッツァ監督のドキュメンタリー映画が公開されたし,Netflixでドラマにもなっているほど(「12年の長い夜」)。では、いち日本人の視点でやるのがいいんじゃないかと。
※追記:サイン会の時に田部井監督と濱Pにお伝えしましたが、一人称で正解だったと思います!
一人称だからこそ、こんなにも、メッセージがストレートに胸に響いたし、共感できたのだと。

ムヒカに6回会って,どうだった?
いろんな面がある。農家の人。穏やか、かと思えば、話している時に鋭い表情をすることがあり“ゲリラ戦士”の顔もある。
哲学が大好きな、古代の賢人のような人。そして突然日本から押しかけた、見も知らぬ日本人からの取材を合計6回も受けてくれた、分け隔てなく接してくれる人でもある。

“種”を蒔く
立命館大学の岩本心さん。単独・アポなしでムヒカに会いに行き,突撃インタビューし、10月28日まで企画展示を開催している。
この映画を観た人にも、なにかしら行動に移してもらえたら嬉しい。

さいごに

ムヒカは種を蒔いた。それを受け継ぎ、日本で“映画制作”というカタチで種を蒔いたのが田部井監督と濱プロデューサー。私も種を受け止め、広げていきたいと、強く思いました。
いまさらだけど、政治と社会についてもっと知りたいし、日本を良くしたいと思いました。愚痴ばかり、インプットするだけして行動に移さない生き方はしたくない。
ずっと、「死ぬ時に“いい仕事したなー!”と思って死にたい」と思っていました。けれど、今はちょっとニュアンスが違います。
「あれだけ文句を言っていたのに、結局何もしなかったな」と思いたくない。次の世代の為に、ひとつでもいい未来を手渡したい。そのために学び、働き、考え、伝えていくことが必要で、それが“歩む”ということじゃないかと。

また、広島出身者として、ムヒカが原爆ドームと平和記念資料館を訪れてくれたことが、「日本に来て広島を訪問しないことは、日本の歴史に対する冒涜だと思う」と仰ってくれたことが、とても嬉しかったです。
同じ石で躓かない為にやるべきことが、ここにもある。

未来のためにやれることが、いっぱいありますね。閉塞感にうんざりして、未来に絶望してる暇はない。
とりあえず勉強しよう!と思いました。何が出来るかわからないけど、とりあえず、はじめの一歩から。

リンク集

「Rio+20 地球サミット2012 (国連持続可能な開発会議)」でのスピーチ

スピーチ和訳

2016年 東京外国語大学での講演

田部井監督インタビュー

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