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推し映画29-「はりぼて」について

元町映画館での上映を楽しみにしていた「はりぼて」、上映初日に行ってきました!五百旗頭監督の舞台挨拶&サイン会つき。場内はほぼ満員で、若い人が半数くらい。良いことです。
そろそろ今年のベスト映画10は…と考え始めていますが、「なぜ君は総理大臣になれないのか」と「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」と、そしてこの「はりぼて」は、3作セットで第1位!と思っています。

「はりぼて」について

2020年8月16日に公開され、じわじわ全国展開している政治ドキュメンタリー映画です。富山県では今月31日から上映されるそうで、反響がとても気になります。
2016年8月、富山の小さなローカル局「チューリップテレビ」が市議会議員の政務活動費に関する疑惑をスクープ報道。芋づる式に不正が明るみに出て、半年で14名もの議員がドミノ辞職していきました。そのスクープ報道と顛末を、生々しく描きだしています。


笑えるか、笑えないか

鑑賞前とのギャップというか、意外だったのは、取材記者と不正を働いた議員のやりとりが、ちょっとコミカルだったことです。ちょっとボケかけているおじいちゃんに、孫がぐいぐい正論詰めで迫っているようなやりとりに見えて。

「福岡出張で視察したまちづくりはどのようなものでしたか?」と質問され、はて???という顔で答えられない議員(のちにから出張を認める)と狸の置物がかわるがわるクローズアップされる絵面とか。笑いが起きてましたもんね。めっちゃ顔似てたし。

でも「笑っちゃうけど、笑えない」んですよね。頑張って納めた税金を不誠実な人達がちょろまかして、「やってません」「やったかもしれないけど、返しません」「返したんだから終わりです、議員は辞めません」。富山の人達からしたら、はらわた煮えくり返っちゃうだろうなと。

でも、多分、富山のケースは

「保守王国の安定感に自身を持った議会のドンが、議員報酬を上げよう!と持ちかけてうまいこと通した結果」

「不信感を募らせた意欲的な報道記者が熱意でもって丹念に調べ上げ」

「ザルな架空請求に慣れ切った議員たちは隠す頭もなかった」ために、すべてが明るみになった、ということだと思います。たまたまであって、多分いろんな場所、組織で同じようなことはある。自分の領域でそれが発覚したら、果たして私は笑えるだろうか?と思ってしまいます。


「はりぼて」な組織

サイトのコピーに「虚飾を剥がせ!この映画こそ日本の縮図だ‼︎」とあります。「日本の政治の縮図」ではないのですよね。

映画の中心は、政務活動費を横領した議員たちへの追求ですが、もうふたつ。情報開示請求を議員にリークした公務員たちと、そして報道記者たちが所属する組織と、そのふたつの“虚飾”が描かれます。追求されてしどろもどろになる政治家にはクスッときたけど、このふたつのケースには、胸が苦しくなりました。

このふたつの組織の人たち、きっと疑惑の議員から指示されたわけじゃないと思うのですよね。忖度と保身からくる不誠実さが罷り通って、誠実に正義を貫きたい人たちの道を阻もうとする。ちいさな“澱み”の集合体が有機的に作用して、息苦しくさせる。「此処ですら、そうなんですよ」と、五百旗頭監督が言っているように思えたクライマックスでした。

でも、と舞台挨拶で五百旗頭監督が言っていたことに希望を感じます。ラストシーン。ぶら下がり取材で頑張っていたある記者の姿。諦めない人たちが居るから、“諦めず、最後までこの国を見捨てずにやろう”(by矢口蘭堂)。そういうメッセージだと受け取りました。

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映画からはじまる変革

最近、「なぜ君」「ムヒカ」観賞後にいろいろ思うことがあって、政治に関する本を読んでいます(改めてnoteに書こうと思います)。日本社会の構造的な問題について学ぶほどに、「はたして、自分が生きている間に “ああ、日本は変わったね、良くなったね” と言える日は来るんだろうか?」と不安になります。

いま、いち市民として“信じられないもの”と感じるのは政治とメディア(テレビ・新聞)です。そのふたつが信用できないと、何も判断できないし行動できないじゃないか、と悩ましく思っていました。

けど、「なぜ君」と「はりぼて」のヒットを見ると、これはもしかして、もしかするかも?とワクワクしています。組織がらみの忖度が(そんなに)必要なくて、意欲ある人だけが観に行く舞台。映画というメディアは、政治への無関心と拒否感が根強い社会に変革をもたらす、最後の砦かもしれない。あとは観た人たちの行動変容が必要だと、強く思います。

観て「スカッとしたね」「ほんと困ったもんだよ」と言い合って終わり、じゃなくて。受け取った私たちは、何をするの?子供たちにどんな未来を手渡す為に、何ができるの?と、考えて動きたいと、強く思います。


仕事か、志事か

サイン会で、五百旗頭監督と、砂沢監督の今後の展望についてお伺いできてよかったです。(答えにくい質問をしてしまって申し訳ないなと思いつつ…)

劇中、強く印象に残っているのは、砂沢さんの異動に関する場面です。報道で正義を貫こうと燃えている人が現場から外されてしまった=仕事では無くなった時、いったいどうするんだろう。疑惑を追及できるポジションで居られなくなった時、何ができるんだろう。そんな風に、組織内で梯子を外され、忸怩たる思いで言動を封殺される人たちがいっぱい居るのが現実だと思います。

今回は映画公開という形で結実できたわけで。“仕事”ではなく、信念を貫く“志事”を持つ人の姿は、美しいし、憧れるなと、つくづく思いました。どうか砂沢さんが、また報道の現場に戻れますように。信念を貫く仕事ができますように、と願うばかりです。

あと、砂沢さんと五本議員のやり取りのシーンが、なんだかすごく好きです。「正義か、悪か」という白黒の対決じゃなくて、どこか人間と人間の、通い合う感情があるというか。五本議員の“憎めなさ”がそう思わせるのか、人間の弱さ脆さがこういう不誠実さの温床になるのか…そういう根深さ、割り切れなさを感じさせます。ただ、ネガティブなイメージだけでもなくて、そこに“変われるんじゃないか”という微かな希望も持てそうなんですよね。

観賞後に読んだインタビュー記事。めっちゃ面白いし、ここまで書いたことへの回答があるように思えて、嬉しかったです。受け取りました。

五百旗頭監督の次回作も、楽しみです。こういう人たちがメディア側に、きっとたくさん居るんだ、と知れて本当によかった。

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今年は劇場公開を見送ったり延期になった作品が多くて、寂しいなと思っていたのですが、こんなにも血が沸る、私も何かやりたい!と燃えさせてくれる作品に出会えて良かったです。

TVやスマホを見ながら愚痴を言うだけ…の毎日はもう飽きたんですよね。私に、何ができるかな。楽しみです。とりあえず本を読もう。そしてニュースを見よう、新聞を読もう、そこからです。





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