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なぜ健康が大事なのか

私は予防医学を専門とした医師ですから、これから健康を維持したり、予防したりするために必要な知識について様々お話していくことになります。


しかし、そもそもどうして「健康」がそんなに大事なのでしょうか。



何を今さらそんな当たり前のことを。そのように思われるかもしれませんが、まずはそんな大前提のところから考えてみたいと思います。

たとえば皆さんがよくご存じの糖尿病という病気があります。
血液の中の糖の濃度を測定し、空腹時の数値が126mg/dL以上だと糖尿病、という診断を下されます(ちょっと簡潔化して説明しています)。

しかしこの血糖値、仮に200mg/dLだったとしても、その瞬間には何も症状はでません。

たとえが良くないかもしれませんが、癌の末期で余命があと3か月とされている方の血糖値が200mg/dLだったとして、「基準上は糖尿病」という診断になりますし、血糖に関して「健康ではない」ということになりますが、このケースで血糖について頑張って治療を行う意義はほとんどありません。ここまで極端なケースであれば、皆さんも納得いただけると思います。


つまり、目指すべき「健康な状態」は人(年齢や、おかれている状態、思想や価値観)によって異なるものですし、もっと言ってしまえば「健康」そのものは別に「最終目標」ではないのです。


では、それでもどうして「健康」が大事なのか、といえば、それは「幸福であること:well-beingであること」に最も寄与する因子の一つが「健康」だからです。



皆さんもインフルエンザにくらいはかかったことがあるでしょうか。たかだかインフルエンザであっても、高熱のある数日間はどんなに好きな食べ物もおいしく感じず、どんなに好きな趣味であってもやろうとも思えなかったはずです。健康でなければ、どんなことであっても幸福度が下がってしまうのです。


とても当たり前のことを書いておりますので、「何を当たり前のことを・・・」と思っていただける方は問題ないと思いますが、日々患者さんと接していると、多くの方(場合によっては医療者さえも)がこの部分を誤解していることを実感しています。
検査の数値を下げる(正常化させる)ことが人生の最終目標のようになってしまっている方が少なくないのです。


私たちの最終目標、目指しているものは当たり前ですが「幸福であること=Well-beingであること」であり、数値上の健康を目指すことではありません。先ほどの余命3か月の方の例でいえば、血糖値を正常にしたところでその方の幸福度があがるわけはなく、多少血糖が上がろうと残りの3か月で幸福度の上がるようなことをしたほうが良いに決まっているわけです。(数値が下がることに至福の悦びを感じるまでに数値にこだわりがある方は、幸福のために数値を下げても良いと思います。時々そういう方もいます)。



では、健康はどれくらい幸福に影響しているのでしょうか。
この点については世界中で様々な研究が行われておりますし、このような研究は研究ごとに調べている因子も異なるので、当然のように結果も異なります。なので下記に紹介するものはあくまでもその一例ですが、

独立行政法人 経済産業研究所 から発表されている、日本人約2万人を対象とした研究の報告:幸福感と自己決定―日本における実証研究 (rieti.go.jp)
によると、(すごくざっくり要約するので、詳しくは原文を読んでください)

幸福感に影響した因子は、

健康状態、職場の人間関係、パートナーとの人間関係、性別、自己決定指標、世帯年収、個人年収、勤続年数、年齢、独身であること

などとなっていました。
学歴と労働時間は幸福度に関与していませんでした。


そう、私たちの最終目標が幸福であることだとして、それに最も寄与する因子の一つが「健康であること」なのです。(ここでは、自身が健康と感じている、という意味です)。


繰り返しますが、私は医師ではあるものの、私自身の目標は自分やまわりの皆様がwell-beingになること。つまり健康維持以外であっても幸福度をあげるために必要なものであれば、無視をすべきではないと考えています。

但し、性別(女性のほうが幸福度が高い)、年齢(35-50歳を底辺とするU字カーブとなっている)はそもそも全くコントロールできるものではないので、ここでは除外します。
(婚姻関係については独身女性が最も幸福とする研究や、子供がいると幸福度があがるという報告、一度結婚後離婚した女性が最も幸福とする研究など、研究によって結果が様々です。独身の男性は、基本的に幸福度は低いとする報告が多いようですが・・・・)。

そうなると、残る代表的な要素は

「健康」「人間関係」「収入」「自己決定権」


この4つは他の様々な研究でも幸福に寄与する因子として報告されており、make-wellを推進していく上では無視できないキーワードとなるはずです。
今後も折に触れてこのnoteでも上記の4つについては解説していきたいと思います。

もちろん、健康を含め、上記の4つもすべてがコントロール可能なわけではありません。それでも、健康にはある程度知識やスキルによってコントロール可能な部分があるのも事実です。

医療の専門家として、最も科学的な証拠に基づいたお話をお届けしやすい分野が健康であるため、このnoteでは健康についてのtopicsをより多くお届けしていきたいと思います。

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