なぜMAKERS UNIVERSITYは「寄付」で運営し、学費は無償なのか?
MAKERS UNIVERSITYは、年間かかる運営費用から逆算すると1人あたり120万くらいの「学費」が必要となるはずですが、塾生となった皆さんからは「お金」を一切もらっていません。
こういうことを話すと「株を結構持っていかれるんですか?」とか「なんか裏があるんですか?」と警戒されるんですが(苦笑)、僕たちは全く怪しくありません、ピュアホワイトです笑。
2015年、MAKERS UNIVERSITYの立ち上げの際、さまざまな「収益モデル」を検討しました。
サステイナブルな運営のためには「稼ぐ機能」が必要じゃないか?と。
寄付モデル以外に検討したのは、
「学費モデル(後払いも含め)」
「採用予算モデル」
「株式による出資モデル」です。
MAKERS生は、一緒により良い社会を創るパートナー
まずは学費モデルは早々に却下しました。
もちろん一般的な大学やビジネススクールは「顧客」である学生(多くは親)から100万〜300万の学費をとって財源の多くを賄っています。
ただ僕たちは、塾生になるみなさんのことを便益を提供する「顧客」だと捉えていません。
僕たち運営側と、塾生の関係性はサービスを提供する側と、それを受け取る顧客か?
お金を払うからには「サービスを提供してよ」となるのは当然ですが、
僕らはみなさんと、そういう関係性になることを望んでいませんでした。
むしろ社会をより良くしていく「仲間」「パートナー」だと捉えています。
そういう関係性で、一緒により良い世の中をつくっていきたい。
そう考えたときに「学費モデル」は早い段階で選択肢からなくなりました。
徹底的に、MAKERS生の理想の実現に向き合いたかった。
次に検討したのが「ベンチャー企業の採用予算」でした。
当事者から取れないのであれば、この構造で利益を得る可能性がある第三者からの収益を検討するのがビジネスの王道です。
ベンチャー企業であれば、起業への意欲が旺盛な、みなさんのような存在を新卒で採用したいと思うのは当然です。であるならば、MAKERSの出口で「起業」じゃなくて「就職」しようということになったMAKERS生をベンチャー企業に紹介して、もし「採用」になった場合は「紹介フィー」をもらう。
もしくは、このMAKERSコミュニティには、そういう起業家精神溢れる人材が集まってるから、MAKERSに「協賛」して、みんなと接点を作る、みたいな枠組みはアリそうなモデルです。
でもこれも当初、少し実験的に進めてみたものの早々に辞めました。
なぜならば、僕たちは徹底的に、みなさんの理想の実現に向き合いたかった。
例えばメルカリやDeNAやサイバーエージェントは、ここに集まるMAKERS生であれば大活躍できると思うけど(むしろ社会不適合で、絶対、組織無理そう、というメンバーも多いですが苦笑)、じゃあ、僕たちが積極的にMAKERS生をそういうところに送り込みたいか?と問われれば、答えは激しくNoだった。
(すみません、進太郎さん、南場さん・・・。)
もちろん、どこかの組織で一定期間「修行」を積んで、力をつけてから「再度、起業」というキャリアを否定するつもりはありません。起業にトライした結果として、力不足を感じて、大きな自分の理想を実現するために数年間の「まわり道」をするのは賢明な判断とも言えます。
でも、僕たちは、そういう賢明な判断が出来ない、愛すべきクレイジーこそ応援したいと思っています。
僕は就職人気ランキングってやつが死ぬほど嫌いです。
本来は、人の可能性が最大化した先の未来って、もっと「多様性」があるはずです。
もっと「彩り」があるはずです。
僕は20代前半で、MAKERS生のような(周りからはアホだ、クレイジーだと言われてしまうような)生き方の選択ができる若い人たちを、もっと増やしたい。
そう考えたときに「ベンチャー企業からの採用予算」を収益モデルの主軸にするのは、やはり理念と反すると思い、このモデルも却下になりました。
ビジネスモデルは、ミッションと紐づいてないといけない
MAKERSが設立から数年、赤字経営が続き、困っていた時にMAKERSのメンターにもなって頂いているmistltoe孫泰蔵さんに事業相談をしました。
いろんなグッとくるアドバイスをもらいましたが、今でも肝に銘じているが、
「ビジネスモデルは、必ずミッションと綺麗に紐づいてないといけない」ということでした。
つまりMAKERSのミッションである「自分が信じた道を突き進む人」が増えれば増えるほど収入も増えていく、収入が増えることがイコール「自分が信じた道を突き進む人」が増えることに繋がっていくことが大事である、と。
そんな泰蔵さんのアドバイスもあり「寄付モデル」と並行して、最後まで検討していたのが「出資モデル」です。
つまりは出資者を募り、それを原資に、みんなに出資する、というモデルです。多くのアクセラレーションプログラムは、この収益モデルを採用しています。
ただ出資モデルは、一部の卒業生が経済的リターンを生むことが前提です。
出資をしたMAKERS生が、いずれM&Aされたり上場した場合に、出資した僕たちが株式を売却することでリターンを得る。その売却益を財源にMAKERSを運営するというモデルです。
もちろんMAKERSには、タイミー小川くんを始め、エンジェルやベンチャーキャピタルから資本を集め、将来的なExitが期待されているメンバーがたくさんいます。
そう考えると十分に「出資モデル」は成り立ち得るし、孫泰蔵さんからの助言にもあった「収入が増えることがイコール『自分が信じた道を突き進む人』が増えることに繋がっていく」綺麗なモデルだと言えます。
ただ、じゃあ、もし「出資モデル」を採用した場合、
MAKERSにどういう変化が起こるでしょうか?
12月のMAKERS生の選考のときに「このMAKERS生候補は将来的に収益を生み出しそうか?」という基準が入ってしまわないか、そんなことを自問自答しました。
ビジネスモデルというのは強力な引力を持っていて、運営方針というのは当然、ビジネスモデルに引っ張られます。
でもMAKERSには、実に多様なビジョン、多様な在り方のメンバーが集まっています。
理想を追求して、より多くのユーザーに使ってもらい、そのプロセスで上場も目指す、というメンバーもいれば、一方で、既存の資本主義の構造からこぼれ落ちてしまうような、とっても大事なことを実現しようとしているメンバーもいます、ただただ自分が作りたいモノを信じて作っているメンバーもいます。
その多様性こそがMAKERSをMAKERSたらしめていると言えます。
多くのスタートアップピッチコンテストの審査員を務めるクラウドワークス吉田さんは、MAKERS生たちのピッチを聴いてこんなことを言ってくれました。
MAKERSは通常のスタートアップよりも対象分野がかなり幅広いので、
私自身、今後の社会の可能性を探る上では非常に良い機会という気がしました。
MAKERSの自由な感じが明日を創るイメージ。
独自性が高く意義がある取り組みだなと改めて感じました!応援!
また、資本主義社会の次を見据えながら、数多くのMAKERS生を応援するガイアックス上田さんは、こんなことをTweetしてくれています。
MAKERSの会はいつも楽しい!
ビジネスっぽいのもあれば、社会起業っぽいのもあれば、主義主張っぽいのもあれば、アートなものもある。
若手世代の当たり前ってこんなのだろうなぁ。
僕らの時代もそうだったのかもだけど、昔は、社会が僕らをビジネスに寄せさせてたんだと思う。
皆さんはそのまま走りきってね!
最後の
「皆さんはそのまま走りきってね!」
これが大事だと思っています。
MAKERSに集まるみんなは、それぞれが自分の理想を持っている。
50人いれば50通りの理想があって、そこには「トレンド」とか「マーケット」なんていう概念はない。
僕は少なくともMAKERSの期間は、世の中のトレンドはどうだからとか、マーケットの規模がどうだとか、そんなことは気にしないで、大いに青臭く理想を追求してもらいたいと思っています。
もちろん、事業化の試行錯誤のプロセスの中では社会や顧客に合わせる必要性はある。
でも、なんのために僕たちはMAKERSを運営しているのかと言えば、起業家を生み出したい訳でも、ユニコーンを輩出したい訳でもない。
自分がこれだと信じた道を、もがきながらも突き進む人を増やしたいんだ。
そんなこんなを総合的に考えた時に、
少なくとも今のタイミングで「株式モデル・出資モデル」は採用すべきではないと判断しました。
MAKERS UNIVERSITYには、ペイフォワードの精神が脈々と続いている。
そして最後に残ったのが、至ってシンプルな、
でも極めて難しい「寄付モデル」だった訳です。
とは言え、寄付文化のない日本において、
寄付だけで数千万円の年間予算を集めるのはとても大変なことでした。
経済的に成功している経営者であっても、エンジェル出資でお金を拠出するという概念はあっても、100万以上の寄付をだす、という人に出会うのは本当に難しい。
設立から数年は、寄付は思うように増えず、一部の心ある方からの大口寄付と運営母体であるNPO法人ETIC.がMAKERSの赤字を千万単位で補填するという年度が続きました。
それでもそれでも、MAKERSの先輩たちが社会の中で実績をだし始めてることもあり、徐々に「MAKERSに集まる若者こそが、この国の未来だ」と、寄付を託して下さる経営者が増えてきました。
そして設立の2016年から5年経って、ようやく先輩経営者からの「寄付」だけでMAKERSを運営できる光が見えてきました。
大変有難いことに、寄付者のみなさんは、金銭的に支援頂いているばかりか、MAKERSに集まるみんなの「メンター」として、自身の経験や繋がりを惜しみなくMAKERS生たちに還元してくれています。
たいていの寄付者のみなさんは、こう言います。
自分も若い頃、先輩の起業家や経営者の方にだいぶ助けられた。だから、その恩は次の世代に送っていきたい、自分にできることがあれば何でも言ってね。
まさにペイフォワードの精神。
MAKERSのメンターの小笠原さんが、こう言ってたのが、とても心に残っています。
起業家が育まれるエコシステムって、難しいこと言うけど、要するに、みんなが、次の世代に返していけばいいって、シンプルな話だと思うんですよ。
MAKERS UNIVERSITYには確かに、このペイフォワードの精神が脈々と続いていってます。
僕たち運営側の自慢は、これまでのMAKERS生の多くが
「最速でMAKERSのメンターになる!」
「早く寄付側にまわれるようにがんばります!」
と思ってくれてることです。
いまの寄付者のみなさんには、
「いずれそう遠くない未来に、MAKERS生たちからの寄付で運営がまわるようになるはずなので、どうかそれまで支えて下さい。」
とお伝えしてます。
とっても長いNoteになってしまいましたが、なぜ僕たちが「寄付」で運営しているのかをお伝えすることがMAKERSの大事な理念を伝えることに繋がるので、筆を取らせてもらいました。
ぜひ安心して、みなさん思う存分、青臭い理想を追求してもらえればと思います。
そして願わくばいつの日か、次の世代のMAKERS生たちが、同じように理想を追求することを支える側にまわってくれれば(お金じゃなくてもね!)、これほど嬉しいことはありません。
MAKERS UNIVERSITYを代表して 内野博礼