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「生活をDIYする」

15年くらい前の学生時代に、学生寮に住んでいました。

築50年くらいの建物で、用意されてるのは20人で共用するキッチンとシャワーと決して広いとは言えない個室のみ。食事は自炊するか、近隣の良心的なお店にお世話になるかで、湯船に浸かりたくなったら回数券を買って徒歩20秒のところにある銭湯に行く生活です。

長い廊下に狭い個室が均一に並んでる、留置場とも言われそうな寒々しいところで、実際寒いし共用のトイレは部屋から遠いし、不便なことは多く、21世紀になってもわざわざそんなところに住むなんて経済的な理由以外に考えられない、そう思われるようなところでした。そこよりもはるかに通学しやすいところに、そこまで高くない家賃で住めるところはたくさんありました。

そんなところに二十歳前後の若者が100人以上集まって生活していたのですが、その寮は大学から距離が離れていることもあり、大学当局からも公権力からもほとんど介入されず、ささやかな自治が実現していました。不埒なことの一つや二つは実際あったかもしれませんが、それ以上に住民同士が「互いに介入しすぎない」ことが自然と成立していた、とても平和的なところでした。今思うと奇跡的なことだったと思います。

ある日寮生がいきなりどこかで掘ってきた大量の筍をバイクに載せてきたり、中庭にテント張ってキャンプ始めたり、畑を始めるとか、敷地内に残されてた廃墟のような建物をクラブにしたりライブハウスにしてDJ始めたり、学内に作ったウッドデッキを見て、それ作りたいと作り始めた人もいたし、退去者が残していった自転車を何台か分解して、部品を寄せ集めて1台作ってプレゼントしたこともありました。それぞれが思い思いにクリエイティビティを発揮しながら生活してました。

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これらはすべて私が実際に生活していた数年の間に起きたことですが、そのどれもが、日常生活そのものを面白いものにしていく行為だったように思います。列挙したこと以外にも、住民それぞれが知恵と工夫で日常の不便を解決したりして、それらのノウハウが緩いプライバシーの中で共有されていました。

タイトルにした「生活をDIYする」という言葉は、詳しくは覚えていないけれども、後輩がその学生寮の生活を言い表すのに使っていて、ものすごく的確で印象的に残っていたものです。

日常の機微を出発点に、安易にものを買って片付けるのではなく、クリエイティビティを発揮するということを当たり前のように実践していました。もっとも、経済的な理由も小さくはないし、学生という身分が可能にしていたことは大いにあるでしょう。

なんで今になってこんなことを書き始めたかというと、わりと近くで親しくさせてもらっている人たちが、自分の仕事場を構えてる街で、空き家になった社員寮を活用するプロジェクトを始めたのを知って、これは無視できないし、お金以上のサポートをするべき案件だと思ってしまったからであります。

学生寮なので住んでいるのは当然学生ですが、夜間部もあったので上は30歳くらいまでいたと記憶してます。同じ大学とはいえ専攻にそれなりの幅があったので、何かやるにしても、それぞれの得意というか、尖りすぎた個性が出たりして、知識と経験に裏付けられて馬鹿なことをすると本当に突き抜けることを実感しました。学内で同じ専攻で固まってたらまず起こり得ない現象です。

その「場所」の偉大さを当時は当たり前のように享受していたのですが、その偉大さに気づくのは卒業して、一人で生活するようになってしばらく経ってから。一人暮らしは確かに自由ではあるけれども、スケールの小ささと不意に現れる不自由や現実的なコストに不満を感じながらも、そういうことなんだ、と自分を納得させながら、いつの間にかそれが当たり前になっていました。

でも、よく考えてみたら、いま身近にあるDIYって、テレビや雑誌で芸人がやってるやつとかホームセンターで繰り広げられてる「こんなものが作れまっせ!」的なやつで、生活にまつわる身の回りのことを、その観察眼をスタート地点に自分たちでDIYするカルチャーってあるようでないんじゃないのかな。実際、部屋の壁に画鋲一つさすことも躊躇してしまうような家がスタンダードになっているわけです。

このプロジェクトの舞台となる元・社員寮は10年後に取り壊すので改装自由とのこと。実際に住みながらいろんなDIYを実践してみたら、あの時学生がやってたのとは違ったものになるんじゃないかな。と思っています。

ちなみに、私が住んでた学生寮は数年前に取り壊されてしまいました。取り壊される直前に集まる機会があり、行ってきたのですが、数年で入れ替わる学生が、代々積み重ねてできた空間を目の当たりにして、本当に素敵なところだと、少し客観的になりながら感じたのです。

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