色と捉えて
無機質な絵を描いた。木綿豆腐の絵を描いた。
キャンパスは白い、木綿豆腐も白い。なのに、白い絵の具で塗らなければならないらしい。美術の先生がそう言っていた
同じ色で塗るという行為に、私は意味を見いだせない
「ミミ、なかなか上手く描けてるじゃないか」
そう言って父さんは私の肩に手を乗せた
あ、私はミミ。カタカナでミミ。耳の大きい赤ちゃんだったから、こう名付けられたらしい
今の時代にカタカナの名前は珍しいから、「変わった名前だね」なんて言われてしまうこともあるけれど、私はこの名前を気に入っている
父さんは、男手一つで私を育ててくれた。
母さんは私の名前が付く前に病気で亡くなったらしい。顔も性格も知らないから、他人のような気分だけど、唯一知っていることは、私と同じで耳の大きい人だったこと。私はそれでしか彼女との血の繋がりを感じる術が無い
私は無機質な絵を持ち上げた
たまに、自分の見えている世界も、同じようで違う、何か別のモノに塗りつぶされているんじゃないかと思う時がある
反対に、無機質なモノは、無機質なモノでしか塗れないのかもしれないな
「ミミ、絵の具が服についてるぞ。黒い服だと目立たないがな」
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