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天使ちゃんとシナモンロール

天国に旅立ってから7年経つけれど、ときどき自転車で職場に向かっていると、ふと彼女を思い出すことがある。2歳のときにレット症候群と診断を受け、食べることが大好き、プールが大好き、いつも元気に飛び跳ねてた女の子。くるくるの金髪で天使みたいな女の子。14年という短い彼女の人生の中で、月に10日ショートステイで関われた。発話がなく、手話も使わなかった彼女が、私に大きな影響を与え続けてる。やはり彼女は天使なのかもしれない。

当時勤務してたショートステイは、重度知的障害や重度自閉症の子どもを受け入れていて、子どもたちには自傷、他傷、極度の睡眠障害、多動などのいわゆる行動障害があった。

ショートステイの中は、刺激を少なくするため、壁には絵も、時計もなにもかけず。見える収納はNG。すべて鍵のかかる棚に。電気のスイッチも棚の中。食欲の制御ができず、吐いてもずっと食べ続ける子もいたので、サラダを先に食べてもらったり、1食分を2回にわけてお皿に盛ったりと工夫した。それでも「もっと!」と言う子には、はっきりと「ダメ」と言うしかない。

冷たい感じのする殺風景なところだった。年配の女性が多く勤務してて、みな少し厳しく、子どもと遊ぶよりは、おもちゃを与えて1人で遊ぶのを見てるだけ。

リーダー的存在の女性は、口が達者で、しかも意地が悪かった。他人のミスを見つけると怒鳴り散らし、他人の意見には聞く耳を持たなかった。どんどん彼女がエスカレートしていき、「自閉症の子には乳製品禁止とパン禁止」などと暴走した。もちろんシナモンロールとかケーキはNG。スタッフの中には健康志向の人が多くいて、あまり反対する人はいなかった。

ある日、突然、がしゃん!と音がしてキッチンに駆け付けたら、誰かが棚の鍵をかけ忘れたらしく、シナモンロールが床に転がり、天使ちゃんがシナモンロールを立ったまま食べていた。他のスタッフが天使ちゃんが食べてるシナモンロールを取り上げたので、私はものすごく悲しくなり、テーブルに牛乳とシナモンロールを並べて天使ちゃんを呼んだ。どうぞ!
シナモンロールをあげたことを、後で責められ、リーダー的存在から嫌がらせを受けるようになった。

その数週間後に、天使ちゃんはこの世をさった。食べるのが大好きな子だったけど、太ってはいなかった。「健康のため」と食べる楽しみを奪って、でも結局彼女は長生きできなかった。言葉を持たない子、自分で買ったり、調理して食べれない子に「よかれ」と健康的な食事を提供する。自分たちはお菓子を食べるのに、子どもたちはダメ。その「よかれ」と思う人のモラルが狂ってたら、全くの迷惑な行為だし、モラハラになる。

たった一つのシナモンロールだけど、誰かがいないときに勝手に取って食べるよりも、テーブルクロス敷いて、綺麗に並べて、みなで楽しく食べたらいいのに。

天使ちゃんがショートステイで過ごした時間は、幸せだったのだろうか。
おいしいものたくさん食べれなかったのではないだろうか。
欲しいと思うものを伝えて、それが手に入るということ、とても大切だと思う。
スタッフが障がいのある子どもの、あれこれをすべて決定するのは人権侵害ではないか。

スタッフの中には、子どものこだわりを押さえつけて、勝った!と思う人がいる。何年も経って、スタッフを指導する立場になった今は3度までは注意するけど、その後はボスに対処をまかせてる。

子どもたちが、楽しく過ごせているか。子どもたちの意見を聞いているか。
天使ちゃんを思い出すたびに、よし!がんばるぞという気持ちになる。

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