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おきもちおにぎり

ムカァー!っと苛立ちが脳天まで達する直前、ギュッと目を瞑ると暗闇におにぎりを握っているおばさんが浮かんでくる。
にぎっにぎっにぎっ、という手元を眺めているうちに、苛立ちは湯気のように蒸発していく。

人が握ったおにぎりは食べられないという人がいた。
バレンタインデーにもらった手作りのチョコレートを食べられないという人がいた。
誰かが直接触っているものを口に含むのが苦手なのか、でもチョコレートは直接触らないから、両者は似ているようで違う。
バレンタインデーという、「好きな気持ちをモノに乗せて相手へ渡す」イベントが物語るように、チョコレートには(たとえ義理だと言われても)作り手の気持ちが乗っかっている。
その「気持ちが乗っかった食べ物」を口にすることが苦手なのかもしれない。

にぎっにぎっにぎっ
ごはん粒とごはん粒がくっつき合う音。
直接聞いたことはない気がするけれど、懐かしい思いがするのはなぜだろう。
今の私は、私のために作ってくれたごはんがとてつもなくいとおしく、ありがたいと感じる。
そして、私も同じように気持ちを込めたごはんを作ってあげたいと思う。
パートナーだけではなく、親にも。
ただ実家でごはんを作るハードルが高く、親には作ってあげられていない。
作っても感想を伝えられるのが気恥ずかしい。
だけど、そんな機会も少しずつ減っていくのなら。
せめておにぎりからはじめてみたい。

おいしいおにぎりがにぎれますように。