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目の前がスローモーションになっても、あの音楽だけは頭の中でBPMを変えずに流れ続ける。 …
彼女の顔は、出会った時からずっとぼやけていた。僕の視力が悪いわけじゃない。彼女の顔は…
壁にかかる古い絵の中の林檎に縦の亀裂が入ると、それはゴツゴツした人差し指と中指でめき…
吸いかけの煙草が口元から落ちた。残り火が死んだセミの羽を燃やし、ミーンとひと鳴きさせ…
声色の変化と共に赤みを帯びた先端から白濁した体液が溢れ出す様を見て、触れていないのに…
男が規則的に落ちる血痕を追いかけると血を含みすぎたタンポンを片手にぶら下げる女がビル…
夏の眼球を舐めたくなって生唾を飲んだ。黒水晶のように煌めく瞳、白磁のような白目。そこに走る毛細血管から赤い金魚の尾鰭が優雅に靡く様を空想した。だから、寝不足の夏に目薬を差すはずの私は心ここに在らずで、夏の呼びかけで我に返った次第だった。 「雪子、何ぼーっとしてんのよ。目薬まだ〜?」 夏が無邪気に私の腕を握る。夏の手は私が蝋人形なら溶け出すほどに熱っぽかった。大学食堂のクーラーは効いておらず、七月の暑さが容赦なく私たちの体温を上げる。 「ごめんごめん、今差すから」 合図して
自分の名前を呼ばれた気がして顔を上げたのは、今夜知り合ったばかりの名前も知らない男に…