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父の日…

私は同じ物を色違いで何個も買い揃えてしまうタイプの人間である。

とはいえ、今朝は、何故かスニーカーの中に収まっている両足から伝わってくる感覚が、いつものようにしっくりとこない。

それなりに仲の良い友人と飲みに行っても、一杯目を飲み終わる迄の、その場を支配している、あの独特な空気感に近い。


6月16日(日)22:40 帰宅。


家族はすでに寝室で就寝、又は何かしらに執心している時間帯である、私は迅速に部屋着に着替え、用意されている夕食を「チン」する為の機械の中心に正確に置き、スタートボタンを押し、そして直ぐに取り消しボタンを押してみる。


そして又スタートボタンを押し、直ぐに取り消しボタンを押してみる。


そして又………



目の前で何度も何度も繰り広げられる息をもつかせぬスタートボタンを押しては取り消す一進一退の攻防戦、スタートボタンが勝つのか、取り消しボタンが勝つのか…


「どっちなんだい!!??」

私の中の「きんに君」がほぼ存在しないヤワヤワな大胸筋の無筋肉ルーレットに問いかけ続ける………


紆余曲折を経て、満身創痍になりながらも夕食を温める事に成功した私は、ダイニングテーブルの上に、いつもそこには無い異物に気がつく。


ラッピングが綺麗に施されている異物である。
異物処理班の出動、勿論ひとりぼっちの処理班の班長である私は、先ず初めに発見した異物とは別に、小さな封筒っぽい異物も発見する。


所謂、お手紙、らしい。


細心の注意を払いながら、恐る恐るその封筒っぽい異物を開いてみると、綺麗に折り畳まれた紙の素材が…


先ずは上の娘からの、紙の素材に書かれた文字を神妙な面持ちで眉間にシワを寄せ、顔を左斜め45°に傾けながら、メンチを切り、アゴをしゃくらせながら「アウアウ」と言いながら読んでみる。


「パパへ、いつもお仕事お疲れ様です!!これからも、もっともっと頑張って働いて下さい!!」


ブラック家族!!!


漆黒すぎる!!




朝も早くから身を粉にして働き、帰りは大体がこのくらいの時間だ、にもかかわらず「もっと頑張れ!」だと…
娘よ…私をこの世から葬り去りたいのか!!


「ふぅ…」

気を取り直し、下の子である倅からの紙の素材に書かれた文字を、同じく神妙な面持ちで、眉間にシワを寄せ、顔を左斜め45°に傾けながらメンチを切り、アゴをしゃくらせながら「アウアウ」と言いながら同じく読んでみる。


「おとうさん、いつもありがとう…」


短かっ!!!


倅よ、それは余りにも短かすぎやしないか!極めて異常なママっ子だという事は日々の言動と行動から重々承知している、がしかーーし、だ、普段は「パパ」と呼んでいるくせに、文字化した途端、急に「おとうさん」とか絶妙に、授業参観で発表する作文の様に距離感を取ってくるのは何でやねん!!


とか猛烈に「愛しさとー、切なさとー、心強さとー」とか、結局のところ、その3択のうちのどれやねん!とかいう思いとは裏腹に、鼻の奥が「ツンっ」としつつも、開けたてのビールの程良い苦味で、その境い目を曖昧にする。

文字の書かれた紙の異物にツッコミ過ぎる感情が過ぎて、忘れかけていた綺麗にラッピングを施された異物を手に取り、雑にリボン結びを解く、巾着状に閉じられた「アポロチョコ」的な火山口にも似た結び目を開くと、そこには普段絶対に履かない形状の「靴下」が………


「チッチッチ…ノンノンノン…」


人差し指を立て、一定のリズムで顔の前で振ってみる私…


そして明朝、Tシャツにおパンツに頂いた靴下、という、かなりの歌舞伎者なパリコレのランウェイのモデルの様なお姿で、「スパーーーン」と、颯爽とリビングに登場する私を、死んだお魚の様な目で凝視してくる子供達、プラス妻……


水を打ったような静寂…無音という音の世界……


音のソノリティ…。


その靴下を履いたまま出勤…



とりあえずは父なのです。









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