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カリン姫 ③スィーツランド編後編

<前回までのあらすじ>

カリン姫は自分探しの旅を始め、あっち行ったり、こっち行ったり、してスィーツランドに辿り着いて、観光とかしました。

               以上

夜は夜でカリン姫歓迎の宴です。
迎賓館と呼ばれる羊羹で出来た洋館です。
宴にはお酒がつきものですが、スィーツランドでは、甘酒とアルコールのほとんど入ってない子供用シャンパンしか出てきません。
それでも悪酔いするものも出てくるのですから、よっぽどお酒に弱いのでしょう。

「昔は俺たち、人気あったんだよな、兄貴たち? なあ? なあ? 」

特にだんごの3兄弟は、酒ぐせが悪かったです。

ハーゲン『セール除外品』大統領とファーストレディ、ボーデン夫人の間に生まれたお子様の名前は

『ピノ』

という6つ子の箱入り娘でした。

「アッチョンプリケ」

とか言っててかわいいです。
でも、見かけとは違って結構な年齢になってるそうです。

ホワイトリカーちゃんは、ほとほとウンザリしてましたが、この宴でなんとか話の合うものを見つけました。
アルコール王国から留学しているウィスキー家の御曹司です。
ウィスキー家のボンボンと呼ばれています。
始めはアルコール王国の思い出話で盛り上がっていましたが、ボンボンは話してるうちに泣き上戸になっていきました。

「僕はこっちに来てから、みんなに好かれようとチョコレートのコートを着込んでるんだ。
でも、こんなに歩み寄ってるのに、異端児扱いされるんだ。
子供向けじゃないって。
生まれ育ちは隠せない…」
「そんなあなたが好きな大人たちもいっぱいいるわ。」
「でも…大人たちも僕を認めない。
僕を食べるとき、何を飲んでいいのかわからないって言われるんだ。
食べたら絶対に喉が渇くのに…」

ホワイトリカーちゃんは、ウィスキー家のボンボンに優しく

「好かれようとする余り、アルコールとしても、スィーツとしても、微妙な扱いされてしまうなんて不憫だわ。」

と言葉をかけました。
が、顔は爆笑してました。
リカーちゃんは裏表のない透明で隠し事ができないタイプでした。

その光景を部屋の隅から見ている氷砂糖さん。
血の気が引いてもう透明になってます。
ホワイトリカーちゃんと同じ色です。

男と女は複雑だなーとカリン姫は思いました。

この宴に素敵な殿方がいました。
『大福』
さんです。
色白でポッチャリ体型で、何でも包み込んでくれそうな包容力がありそうな方です。

「カリン姫様、ここで会えて幸運です。
実は私、フルーツ王国に引っ越そうかと思っておるのです。」

これを運命と言わずに、何が運命でしょう。

「いっそのことなら、宮殿に住めば? 
フルーツ王国の王族になれば住めるようになるわ。」

カリン姫はウィンクしたつもりでしたが、大福さんは、なぜ両目で瞬きしたのかわかりませんでした。

「あっ、カリン姫様! 」

どこかで聞いたことのある声です。
振り返るとフルーツ王国で同級生だったイチゴちゃんがいるではないですか。

「イチゴちゃん、どうしてここに? 」

イチゴちゃんはカリン姫の質問には答えず、大福さんのすぐそばまで行きました。
すると大福さんはイチゴちゃんの肩を抱いたのです。

「僕のフィアンセです。」

ガーン!!!!!

カリン姫の頭の中で鳴りました。

「なぜか宮殿に住むことを勧められているんだよ。」
「えーっ、そんなもったいない。
ほんとにいいの? 」

大福さんとイチゴちゃんは喜んでます。

「いえ、いいわけはありません。
あなたたちはイチゴ大福になるなら、スィーツランドにいなさい。
帰るところがあるとか思っちゃダメ!!!!!
協力し合って、スィーツランドでスィーツとして生きていきなさい。」

イチゴちゃんと大福さんは涙ぐんでます。
さすがに意地悪すぎたなーと軽く後悔しました。

「そんなにも私たちのことを…」
「カリン姫様、もうフルーツ王国を捨てて、スィーツランドでイチゴ大福として立派に生きていきます。」

彼らの顔などもう見たくないので言っただけなのですが、なぜか感動されてしまったので、おなかが痛くなりました。

「あっ、そう? うん、がんばってね。」

そういうのが精一杯でした。

「どうせ、みんな鮮やかで、可愛くて、糖度が高くて、ちょっと酸っぱい娘が好きでしょうよ。」

そうつぶやいて、バルコニーに出ました。

空には一面の金平糖の星が瞬いてます。
今夜の月は『かるかん饅頭』でした。

「どこかに私と運命の赤い糸で結ばれているものがいるはず。
でも、どこなのかしら? 」

夜空に向かって問いかけました。

「お嬢さん、なんか荒れてるねー。」

ふいに声がかかってカリン姫は驚きました。
暗闇の中に誰かがいるのです。

「あなた、どなた? 」

声の主は暗闇から少しずつ月灯りのある方へやってきました。
でも、黒いままでした。

「通りすがりのチョコレート菓子だよ。」
「どうしてこんなところへ? 」
「どうもハイソサエティなスィーツとは反りが合わなくてねー。」
「私もここのものたちとは、話が合わないわ。」

カリン姫は心の中で、

『ひょっとしたらこのものが、私の運命のものなのかもしれないわ。』

と思いました。

「あなたの名前は? 」
「いや、聞かないでくれ。きっと笑われて終わりだ。」
「絶対に笑わないわ。」
「…約束だぞ。」

彼は渋々口を開いたのでした。

「俺の名前は…いや、やっぱり止めておこう。」

ここまで来ると逆に興味津々になるものです。
絶対に口を割らせてやりたくなりました。

「絶対に笑わないし、誰にもあなたの名前なんか教えない。聞いてもすぐに聞かなかったことにするし、もし私があなたの名前を口にしたら針1000本飲むことを誓うわ。」
「いや、そこまでひどい名前でもないんだけど。」
「じゃあ、教えて。」

今度こそ思い切った感じで、名前を言いました。

「俺の名前は…ブラックサンダーだー!!!!! 」

カリン姫は、体に稲妻が落ちたような衝撃を感じました。
それも黒い稲妻です。
黒い稲妻がカリン姫を攻めるのです。
心体焼きつくすのです。

「だから、言いたくなかったんだ。
いいよ、笑ってくれて。
何がチョコレート菓子のくせにブラックサンダーだって思っただろう? 」

ブラックサンダーは、黒すぎて表情はわからないけど、へこんでるんだろうなーという声で吐き捨てたのでした。

「かっこいい!!!!! 」

カリン姫は思ったことを素直に口に出しました。

「えっ? かっこいい? ブラックサンダーが? 」
「かっこいいわ。
どこから聞いても1970年代の不良グループが名乗りそうな名前なのに、令和の時代に名乗ってるんだから、凄いわ。
ブラックサンダーなんて名前、今じゃ不良グループどころか、戦隊物でもなかなかつけられない名前よ。
それを名乗ってるんだから、とってもかっこいいわ。」
「それ褒めてるの? 」

そんなやりとりがあり、打ち解けていったのでした。
ブラックサンダーはトコトンかっこよく、カリン姫は惹かれて行くのでした。

「君は誰だい? 」
「私はカリン姫。フルーツ王国の第2王女よ。」
「王女!!!!!! 」

ブラックサンダーは、3歩ほど下がりました。

「王女様とは知らず、ご無礼のほどお許しください。」

ヘコヘコと頭を下げます。

「いや、王女ってそんなに偉くないのよ。国王の娘というだけで。さっきまでと同じように話して。」
「そんな大胆なこと、できません。私はそんな身分ではありません。」
「身分なんて、関係がないわ。あなたはとってもかっこいいんてすもの。」

カリン姫はウィンクしました。
ブラックサンダーは、なぜ両目で瞬きしたのかわかりませんでしたが、かっこいいと言われて気分が良くなりました。

「王女様、ありがとうございます。そう? そんなにかっこいいですか? 」

自信が生まれたことがありありとわかりました。
今がチャンスだと思いました。

「あなた、私と結婚しない?そうしたら」

と言う寸前に何か白いものがスタスタとやって来たのです。
それもブラックサンダーの目の前に立ち止まって、仁王立ちしているではないですか。

「あんた、何やってるの?!!!!! 」
「あっ、お前」
「また、名前でひがんでたんでしょう。ほんといい加減になれなさいよ。」

何なのでしょう?
このブラックサンダーに対する馴れ馴れしい態度は。

「あのー、あなたは誰? 」

白いものは、カリン姫の方を向いて話し出しました。

「うちのがまた、ひがんで、迷惑をかけたんでしょう?
もう、ほっといてくだされば、いいんですのよー。
あっ、申し遅れました、私、ブラックサンダーの妻です。」
「えっ、奥さん? 」
「はい、妻の
『白いブラックサンダー』
です。」
「白いブラックサンダー? 」

頭の中で

『じゃあ、ホワイトサンダーだろ!!!!! 』

とツッコミましたが、口にしませんでした。

「頭の中で
『ホワイトサンダーだろ!!!!! 』
って、思ったでしょう? 」

と白いブラックサンダーにツッコまれました。
首を横に振るしかできませんでした。

「嘘でしょ?普通、そう思うところなの。私だって思ってるんだから。なんか嫌なのよねー。まあ、北海道限定だからいいかーとか思うんだけど。」

シュンとしていたブラックサンダーが、

「君だって名前で悩んでるじゃないか。」
「悩んでるけど、ひがんでないわ。」
「君に僕の気持ちはわからない。」
「わかるわよ。ほとんど同じ名前なんだし。
おまけにこっちは『白い』までついてねじれてるのよ。」
「そのおかげで会話がはずんだりするじゃないかー!!!!!」
「ツッコミ待ちしてるみたいで恥ずかしいじゃないの!!!!!」

ブラックサンダーと白いブラックサンダーは激しく口論してます。
2割ほど白いブラックサンダーが、上回ってます。
場の雰囲気を白く染めていきます。
でも、どちらも物凄く楽しそうに見えました。
もう『白い恋人たち』です。

カリン姫は

男と女は複雑だなーとまたも思いました。

ブラックサンダーと白いブラックサンダーの痴話喧嘩から逃れて、部屋に戻りました。
やっぱりこういうムードは苦手です。
一階に降りても、なんだかつまらないのです。
みんな、会釈してさっと通り過ぎて行くだけ。
カリン姫の歓迎の宴なのにです。
そのまま中庭に出て、ポツンと佇みました。
夜空を見るとかるかん饅頭の月も金平糖の星も見えなくなっていました。
どんよりした気分をどうしょうもなく、小声で嘆きました。

「この10分ほどで2度も失恋する私ってなんなのよ…。」

カリン姫の目は涙で曇り、やがて声を上げて泣き出す寸前でした。
が、何かが頭にコツンと当たったのです。

「ん? これは飴? 」

飴が降ってきたのです。
スィーツランドでは、雨ではなく、飴が降るそうです。
やがて2個、3個。
そして、一気にドバーッと降ってきたのです。
見る見るカリン姫の前に飴の山ができたのです。
なぜかカリン姫の目の前だけにです。

「なんで? 」

すると一粒の飴が喋り出しました。

「カリン姫様、こんばんわ。」

カリン姫は、自分の名前を知ってることに驚き、目をまんまるにして呆然としました。

「僕たちはカリン姫様に会いに来たのです。」

ようやく意識を取り戻して言いました。

「どうして飴さんたちが私に? 」

首を振るように、体全体を振りました。

「僕たちは飴だけど、ただの飴ではありません。」

どう違うのでしょう?

「僕たちはのど飴です。」

のど飴とは、お菓子にも関わらず、薬局でもデカい顔をして売られている飴の中のエリート集団です。
なぜ、カリン姫に会いに来たのでしょう?

「僕たちのど飴は、カリン姫様をお慕い申し上げております。」

驚くカリン姫に、統制されたカリン姫コールが降り注ぎます。
かなりの美声です。

呆気に取られるカリン姫。
3分ほど経ってようやく話せるようになりました。

「どうして私、こんなに人気あるの? 」

リーダー格ののど飴が言いました。

「それはカリン姫がお優しいからです。のどにね。」

なんとカリン姫とのど飴は凄く深い関係だったらしいのです。

「カリン姫、どうかリーダーである私と結婚してください。」

まさかいきなりのプロポーズです。

カリン姫は、心の中で

『何よ、あの小さなコロコロした奴がフルーツ王国の王族に?
だけど私を見染めるとはお目が高いわ。
結婚はまあ、無理だけど、しばらく遊ぶ相手にはちょうどいいかもしれない。
そうこうしてるうちに、もっといいのが現れるかも…』

と妄想を働かせておりました。
が、いつの間にか不穏な空気になっていたのです。

「なんでリーダーというだけで、カリン姫のお相手になれると思ってるんだ?
ここはどう考えても俺だろう? 」
「待てよ。お前、天然ハーブエキスが売りだろう? なんでカリン姫と一緒になる必要があるんだよ? 」
「のどに良いものを、貪欲に取りにいって何が悪い! 」
「お前らうるさいよ。カリンエキスは俺のものだ! 」
「俺のもんだぞ、エキスは! 」

無数ののど飴達が争い始めました。
カリン姫の取り合いです。
今やカリン姫の「カ」の字も出なくなり、各々が
「エキス、エキス」

と言い合ってます。
限度を超えた愛されぶりに

「喧嘩を止めて、
みんなを止めて、
私のために争はないで、
もうこれ以上」

と言いましたが、
もうのど飴たちの耳には届きません。

やがてのど飴は暴徒となり、警察、機動隊、軍隊までやってきて、のど飴たちを取り押さえました。
これが『カリン姫暴動事件』です。
カリン姫はこの騒動の責任を取らされ、フルーツ王国へ強制送還されました。
この事件でカリン姫の名前は世界的に知られるようになりました。
フルーツ王国の国民にも55パーセントまで認知度が上がったのでした。

「心配したのですぞ。」

フルーツ王国の宮殿まで、ハーゲン・セール除外品・大統領の専用ジェットで送り届けられたカリン姫は、半分凍ってました。
唯一、迎えに来てくれた梨大臣がぬるま湯をかけながら、優しい言葉をかけてくれました。

「ありがとう。」

体の自由が効くようになると、夕食の時間でした。
カリン姫が席に着くと、バタバタと
ドリアン国王、
デラウェア王妃、
メロン王子、
サクランボ姫、
がやってきました。

「心配かけてごめんなさい。」

カリン姫は深々と頭を下げました。
すると一斉に声が返って来たのでした。

「何が? 」

カリン姫は、家族っていいなと思いました。

『怒ったり、あれこれ聞こうとしたりしないわ。なんて優しい家族なのかしら。』

カリン姫は優しさに涙しました。
でも、ほんとは誰もカリン姫のことを覚えていなかったからです。

「誰? 」

と聞きたかったのです。
しかし、同じ食卓を囲んでるのだから、きっと家族の一人なんだろうと想像しました。
それにそこまで重大なことでもないのです。
賑やかな方が楽しいのですから。
いつものカリン姫の生活に戻りました。

数日後、ホワイトリカーちゃんから手紙が来ました。
氷砂糖さんと結婚したそうです。
かわいい梅たちを養子に迎えたそうです。
写真も同封されてました。
たくさんの梅たちに囲まれ、色白だったのにちょっと褐色になって逞しくなったリカーちゃんが、歯茎をむき出しにして豪快に笑ってます。
お隣の氷砂糖さんは、さらに透明になり、かなり(会ったときの3分の1ぐらい)小さくなった氷砂糖さんが写ってました。
それでもほんと幸せそうなこれ以上ないほどの笑顔を見せて笑ってます。

男と女は複雑だなーと思いました。

今もカリン姫はベッドに入って目を瞑ると、のど飴たちの「カリン姫コール」が聞こえてきます。

『私はフルーツだったのねー。
あんなに慕われて、役に立つフルーツなのよねー。』

カリン姫はフルーツで良かったと思いました。

そして、

『いつか『カリン姫の休日』という恋愛映画ができるんじゃないかしら? 
きっと大ヒットするわ。
あのアバンチュールが後世にまで語り継がれていくんだわ。』

カリン姫自身にもどこがアバンチュールなのかわかりませんが、そんなドキドキワクワクする夢が見られるようになったのでした。

おしまい

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                       イラスト あぼともこ

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