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カリン姫 ③スィーツランド編前編

ワイン国王の専用ジェット機で、カリン姫とホワイトリカーちゃんは、スィーツランドの上空を飛んでます。

下には、デザート砂漠と呼ばれるきな粉の砂漠が見えます。
時々、ラクダの姿が見えますが、動物ビスケットのラクダだそうです。
シルエットはラクダですが、別の角度から見るとペラペラです。

「世界って大概、見る角度を変えるとペラペラなのよねー。」

などとホワイトリカーちゃんは言いますが、カリン姫はその意味がわかりません。

「世界って、あのラクダみたいなのかしら? 」

目の前のラクダは、コブの辺りがやや欠けてます。

ポッカリ浮かぶ『東京ばな奈』の月と、
無数の金平糖

不思議な風景にカリン姫はウットリしていますが、ホワイトリカーちゃんは、ウンザリしている様子。

「胸焼けしそう‥」

あまりスィーツランドが好きではないようです。
氷砂糖さんがアルコール王国に年に数回顔を出すのが定番だったそうです。

遠くにはモンブランにまるで粉雪のような粉砂糖がかかってます。
モンブランのほぼ頂上にスィーツランドの首都マロングラッセがあり、このジェット機が降りるアーモンドチョ国際空港があるそうです。

スィーツランド、別名スィーツ連邦です。
敷地のほとんどがケーキです。
名産品は、チョコレートなどの甘いものと時計です。
時計は精巧で精密です。
精巧で精密過ぎて、日に4回も3時を示します。
あとスィーツ銀行が有名です。
スィーツを預けると、それ相当の脂肪が利子としてついてきます。
映画のために体重を30キロも増やしたりする俳優は、スィーツ銀行のお得意さんです。

空港に降り立つとひんやりした空気が肌を包みます。

「いい気持ちー。」

しかし、ホワイトリカーちゃんは、この寒い気候も、酸素の薄さも、至るところが甘いところも気に入らないようです。
渋々ジェット機から降りてきました。

パイロットのビールじゃないけどビールっぽいお酒ともお別れです。

「どうもありがとう。」
「お礼なんていいですよ。
どうせビールじゃないもんで。」

いじけたことを言います。
ちゃんと自信を持ってほしくて、カリン姫は気を使いました。

「何言ってるのよ。
あなたは味以外ビールそっくりなんだから、立派なビールの偽物だわ。」

ビールじゃないけどビールっぽいお酒は感極まって、泣き出しました。

「ひどい‥こんなひどいこと言われたのは初めてだ!!!!!」

号泣です。
カリン姫はしくじったと思いました。
でも、あとの祭りです。
このことは忘れることにしました。

ワイン国王専用ジェット機は荒々しく帰って行きました。
事故を起こさなければいいのですが‥。

空港にはカリン姫とホワイトリカーちゃんだけです。
アルコール王国では歓迎されたのに、どうしてでしょう?
実はこのスィーツランドは、時間に忠実なので、午後3時にはおやつの時間を取らなくてはいけないのです。
着いたのは午後3時ちょうどだったのです。
立ち尽くすこと15分。
ようやくやってきました。

一番乗りはホワイトリカーちゃんの彼氏、氷砂糖さんです。

「久しぶり!!!!!
君がスィーツランドに来るなんて、一体どうしてだい? 」

氷砂糖さんはいきなり抱きつこうとしましたが、ホワイトリカーちゃんは、スウェーバッグと鉄壁のブロックで上手くかわします。
そして、カウンターで、右ストレートが決まりました。
なかなかホワイトリカーちゃんのストレートをいただくものはいません。
ホワイトリカーちゃんもめったに繰り出しません。
それぐらい強いのです。
氷砂糖さんはのびてます。

『あー、これで別れるなんてことにならなければいいけど…』

とカリン姫は心配しましたが、復活した氷砂糖さんはどこか嬉しそうです。

「彼氏だからって、彼氏面しないでちょうだい。」
「そんな理不尽な君が大好きだよ。」

氷砂糖さんは冷たくされるのが好きなようです。
見る見るホワイトリカーちゃんにとろけていきました。

やがて、賑やかなパレードの集団がやってきました。
先頭はラッパを吹くエンゼルたちです。
金色のエンゼル1人と
銀色のエンゼル5人。
とても縁起がいいことだそうです。

そのあとからコアラのマーチングバンドが続きます。
全員、まゆげがあります。
とても縁起がいいことだそうです。

そのあとから紅白饅頭が歌いながらやってきました。
紅組と白組に分かれて歌ってます。
もう縁起がいいかどうかさえわかりません。

そのあとから動物ビスケットの牛が引っ張る牛車に乗った干菓子たちが通り過ぎていきます。

「よきにはからえ」

どうしていいのかわかりませんでした。

そして、リムジンを改造した冷凍車に乗った大統領のお出ましです。
カリン姫も名前は知ってます。
確か
「ハーゲン大統領」
だったはずです。
愛称です。
ほんとは
「ハーゲンなんとか」
だったと思います。
スィーツランド初のアイスクリームの大統領です。
スィーツランドは標高が高いのに、冷凍車に乗らないといけないほどデリケートなのです。
カリン姫は失礼のないように名前を確かめようとしました。
冷凍車には派手に名前が描かれています。
しかし、札に邪魔されて名前が確認できませんでした。

「ハーゲン」

のあとに

「セール除外品」

の札が貼られ、そのあとに

「大統領」

と書かれてました。

冷凍車の小窓が開き、大統領が顔を出しました。

「私はハーゲン…(小声で聞こえなかった)
セール除外品!!!!!
大統領である。」

一番大事なのは、
「セール除外品」
のところのようです。
あとで聞いたら、アイスクリームにとって勲章なみに名誉なことらしいです。

「こちらは妻、ファーストレディ、ボーデンです。」

ニッコリと会釈してくれたので、会釈し返しました。

「我々、スィーツランドの国民は、姫を歓迎いたします。」

一斉にファンファーレがなり、
くす玉が開き、
中から垂れ幕が下がりました。
書かれていた文字は、

「祝、かりんとう姫」

カリン姫はまたおなかが痛くなりました。

「これ、私じゃない。私はカリン姫…」

ハーゲン大統領は血の気を失いました。

「あれ? どうしたことかな?
えー…とう?とう?
あっ、これはそう!
カリン姫がとう、10歳を祝う垂れ幕です。」

ハーゲン大統領は上手くごまかせたと思いました。

「10歳は6年前に済んでるわ。私は16歳よ!!!!!」

「えっ? 」

驚きの声をあげるホワイトリカーちゃん。
心の中で

『なんだよ。未成年じゃんかよー。
未成年がアルコール王国来てんじゃないよ。
楽しめるわけないじゃん。
バーカ、バーカ、バーカ。』

と思いましたが、口には出しませんでした。
ホワイトリカーちゃんの仕事相手はほぼフルーツ王国のものだったからです。
ホワイトリカーちゃんは、スッカリ大人でしたから。

「あなた、ここはスィーツランドだから、つい甘いものの名前と間違えたと正直に言うべきよ。」

ボーデン夫人の一言で、ハーゲン大統領はカリン姫に謝罪しました。
カリン姫も謝罪を受け入れました。
ひょっとしたらスィーツランドに住むことになるかもしれないからです。
カリン姫も大人になりかけていましたから。

観光に連れて行ってくれました。
スィーツランドが用意してくれたパンプキンパイの馬車でです。
カリン姫は、甘い匂いも好きだし、乗り心地も好きだったのですが、ホワイトリカーちゃんは、

「何? この甘ったるい匂いわ。
シートのクッションもパサパサ。
ほんと信じられないんだけど。」

不満ばかりです。
氷砂糖さんは恐縮しまくりです。
国賓として扱われることも、
フルーツ王国の王女様と同席することも恐れ多いのだそうです。

「私のようにさほど活躍していないものが、こんな扱いうけるなんて…」

氷砂糖さんは、スィーツランドの名家「砂糖家」の御曹司です。
なので、これぐらいの待遇は受けてもいいと思うのですが、そうは割り切れないのだそうです。

父は、上白糖
母は、グラニュー糖

というサラブレッドです。
そのため
「二代目のプレッシャー」
に悩まされているのでしょう。

おまけに兄の角砂糖さんは、
スィーツランドの外務大臣として、
コーヒー共和国や紅茶王国との国交を強固なものにするため、世界を飛び歩いてます。
弟の金平糖さんたちは、夜空に輝くスターです。
なのに氷砂糖さんはめったに活躍の機会がやってきません。
ホワイトリカーちゃんとのユニット活動だけが世間に届く活動と言えるでしょう。
なので、物凄く卑屈になってしまいました。
ホワイトリカーちゃんに捨てられたらどうしょうと考えているようです。
カリン姫は見ていて不憫になりました。
あんなに氷砂糖さんとホワイトリカーちゃんのコンビは、ベストカップルなのに、どうして気にするのでしょう。

馬車は停まりました。
まずはモンブランの噴火によって出来た2つの湖、
『つぶあん湖』と『こしあん湖』
を見学しました。
全く底が見えない湖です。
この2つの湖には、伝説があって
『怪獣モッチー』
が住んでいると言われているそうです。
どちらの湖から出るか?
原料は餅米か? 白玉粉か?
によって微妙に名前は変わるようです。
そういう謎の生物は、普通

『UMA』

と呼ばれますが、スィーツランドでは

『UMASO』

と呼ばれます。

カリン姫は怪獣が出てきたら、怯えればいいのか、ヨダレをたらせばいいのか、わかりませんでした。

『きのこの山』と『たけのこの里』と『こんにゃく畑』を通り、
『グリ高原』に出ました。
300メートル四方の狭い高原でした。

スィーツランドの史跡も見ました。
スィーツランド初のクーデター事件『バームクーの変』の記念碑、
スィーツランド1のプレイボーイ『光源氏パイ』生誕の地、
『マルコ・チチボーロ』の乗った船、
座礁した『タカラブネ』、
などです。

カリン姫は世界史には疎いので、あまり楽しくなかったのですが、次に行った演芸場が大変楽しかったのです。

チョコレート菓子の『小枝師匠』を始め、
父親が大物芸人の『蜂蜜』、
チョコレートプラネット、
など数々のスィーツ芸人に癒やされました。
フルーツ王国には、パッとした芸人は、
『リンゴモモコ』

『バナナマン』
しかいませんから。

ベタにチョコレート工場も見学しました。
中にジョニーデップっぽい人や小人たちがいて、なんか体が風船ぽくなったりとかいろいろな大変な目にあいましたが、映画にすると115分ぐらいかかるので、割愛します。

これだけ観光したので疲れました。
それ以上に胃もたれしました。
甘いもの好きなカリン姫でもです。
ホワイトリカーちゃんは、もう意識朦朧としてます。

以下、後編に続く。

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                       イラスト あぼともこ

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