デビル・フレンド29 暴動
ジェミニマにキュミルが警察官を助けたという事件について、知ってる事を尋ねた。
キュミルの調査の為に、どうしても知りたかったのだ。
メイド姿の女性の客引きが目立つ電脳歓楽街。その街の裏路地は、エアコンの室外機のファンを回す音が反響して、大声を出しても掻き消される。
そこには人けが無く、ただ孤独な闇が深いところで絶えず囁いている。
そこで、一人の男が女性に向かって声を荒げていた。彼は興奮状態で唾液を吐きながら、目は邪悪に輝いていた。
女性が幾ら助けを求めても声は誰にも届かないはずなのに、突然現れたキュミルが、無言のまま男の首根っこを掴み、宙に持ち上げた。
その力はあまりにも圧倒的で、男は恐怖で声も出せず、ただ静かに身を震わせていた。
その場から急いで逃げ出した女性は、直ぐに警察に助けを求めた。
警官二人が現場に駆け付けると、無慈悲な暴力で男を痛め付けるキュミルの姿が会った。
警官がキュミルを止めると、無抵抗に見えた男が突然隠し持ってたナイフで警官1人の脇下を刺した。
すぐに止めようとした警官も刺されそうになった所で、再びキュミルが男に襲い掛かり、その隙に警官が応援を呼び、逮捕に至ったらしい。
後の調査で、その男は悪魔化してる事が分かり、キュミルを起訴するべきか検察や法執行機関内部でも意見が割れたという。
人を助けた功績は評価されるべきものだが、相手を殺そうと暴力を振るった事が、結果的に事件を引き起こしたと考える見方も出来る。
そこで、警察がキュミルの事を調べると、過去に何度も精神保健法に基づいて強制入院してた過去があり、その時に医師から心神喪失状態だったという診断を受けて居たそうだ。
ちょうど同じ時期に、軍や警察の内部では、政府要人や公務員に対する襲撃事件が多発してる事から水面下で、反社会勢力を特に捜査して居たらしい。
暴力蜂起を掲げてデモ行進を行う、武装革命団体への強制捜査などを実施し、事件に関与してる証拠を探したが、決定的なものは見つからなかった。
ジェミニマは、此処から先の話は、確証がなく自分の考えや推測が入ってる事を断った上で、「どうもキュミルが、革命勢力と思わしき人物から、金銭的な援助を受けて居たらしいんだ」と続けた。
彼の言おうとしてる事は良く分かった。
当然、キュミルの背景を知れば、捜査せざるを得ないだろう。
「だいたい、全体像が見えてきたよ、ジェミニマ。感謝してるよ」と、私は感謝の意を込めて答えた。
彼はうなずきながら、「もちろん、君に紹介したのは彼女に何の問題もないと判断したからだ。彼女のこと、何とかしてほしいんだ。少々、複雑な子だからさ」と、微妙に寂しげな表情で呟いた。
悪魔によるテロ行為にも思える殺人事件の多発する中で、占領国の都合で毎月の様に法律が変わり、社会常識が物凄い速さで書き変わっていく。
これから、悪魔はより一層疎外され、更に生きにくくなって行くだろう。
彼女を救うには、彼女の中に巣食う悪魔性を消し去り、みんなで共に生きる羊にするしかない。
悪魔との統合が進行し、人としての意思を完全に失調したら、2度とこちら側に戻れなくなる。
待っててくれキュミル、お前を決して見捨てない。必ず悪魔の角をへし折り、羊にしてやると強く誓った。
悪魔に未来など無いのだから。
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