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『ソウルへ』

戦争が終わり、ふたたび世界中に光があふれますように。

 二〇一五年八月二五日~二七日
 前号の「旅の始まりの記」でご紹介した沖縄の旅の半年後、私いなーきーと娘の麻咲さんは韓国の仁川空港に降り立っていました。
 それに先立つ八月六日八時十五分、七十年目の広島原爆の日、私たち父娘は友人と『朝活♬平和を我らに』というお茶会を岡崎市の戦災復興記念公園である「籠田公園」で始めました。当時は安全保障関連法制、いわゆる安保法制の改変があり、集団的自衛権の限定的行使が容認される。
 学生たちの集まりである「SEALDs」や「安保法制に反対するママの会」などの結成と活躍に「私たちも何かしなくちゃ」。私たちは抗議や反対デモではなく、お茶でも飲みながら穏やかに話し合い、互いの意見を尊重し、自分の意見を整えるきっかけにしようという試みでした。
 ちなみに「朝活♬平和を我らに」は現在までに百回を越え、コロナ以降は毎週土曜八時にzoomで会合しこちらも丸二年を経て百回を越えています。
 「終戦後七十年」というその年は南京事件や慰安婦や尖閣・竹島の領土問題など中韓との外交摩擦や北の原爆開発などで騒然としていました。

【昌徳宮】
 「起きて、漢江(ハンガン)だよ。」
 仁川空港発のリムジンバスは小雨に煙るソウル特別市の河畔の停車場に停まった。国会議事堂のある付近だったと思う。
 「めちゃ大きいね。で、この辺りなの?いるかな?グエムル。」
 乗り物に乗るとすぐ居眠りが始まる麻咲さんがねむけ眼の目を凝らす。
 「うん、このあたりの河川敷が設定じゃないか?」
 グエムルとは韓国語で怪物のことであり、二〇〇六年に公開された映画『グエムル-漢江の怪物-』の通称でもある。
 漢江はソウルを流れる大河。『グエムル』はその川に駐留米軍の研究所から化学物質が廃棄され生み出された怪物(グエムル)が人を襲いはじめる・・というモンスタームービ―。 
 監督はポン・ジュノ、主演はソン・ガンホという、のちに『パラサイト』でカンヌやアカデミーを席巻することになる韓国屈指のコンビ。しかも脇をかためるのはペ・デュナ、パク・ヘイルという主演級の布陣で、韓国映画の実力を世界に見せつけた傑作である。
 モンスター映画としての面白さだけでなく、背景に米軍に駐留され翻弄される韓国の政治と生活の実情が自嘲的に、そして批判的に透けて見えるように描きこまれている。
 麻咲さんに教えられ観始めた韓国映画に私は魅了されていた。『息もできない』『殺人の追憶』『アジョシ』『チェイサー』『哀しき獣』・・・ここ漢江はそれらの韓国映画の「聖地」でもあるのだ。
 「聖地」というのは映画やアニメの設定の地や、ロケ地のことであり、そこに立ち寄って感傷にふけることを「聖地巡り」と今の若者たちは呼ぶ。
 バスはソウルの中心地・明洞(ミョンドン)で停車した。

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