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「縫製技術」を使った新しい価値への挑戦 福井センイ有限会社

「福井センイ有限会社」は1951年(昭和26年)創業。戦前、舞鶴には海軍の拠点があったことから、制服製造などに関連した繊維産業が盛んでした。
そんな中、福井センイでは、アメリカから持ち込まれたナイロン繊維を解いて編み直し、軍手や手袋を作り始めました。
現在は生地の種類を問わず、服や雑貨などをサンプル製造から裁断・縫製・仕上げまでノンストップで行うことに加え、福井センイオリジナルの企画を打ち出すなど、時代とともに変化し続けています。
今回は、新規事業開発に携わる「菅原一輝(すがわら かずき)」さんにお話を伺いました。

全くの異業種から心機一転。コロナ禍で決意した舞鶴で「チャレンジ」するということ

福井センイの新規事業開発担当:菅原一輝(すがわら かずき)さん

 菅原さんが福井センイで働き始めたきっかけは何ですか?

前職は、生まれ故郷の千葉県で気象情報会社に勤めていました。貴重な経験をさせてもらいましたが、自分の考えで動ける範囲は限られていて、それがなんだか自分らしくないなと感じていました。

そんな時にコロナ禍となり、子供達は自由に外へ遊びに出ることさえ難しくなってしまいました。コンクリートだらけのマンションの隙間で遊ぶ近所の子どもたちを見たときに、何か違うと思ったんです。妻も似たような事を感じていたようで、もっと自然の近くで子育てをしたいと思うようになりました。

コロナ禍による環境の変化や、自分で何かチャレンジしたいという思いが重なった時、舞鶴にある妻の実家が経営している縫製工場という選択肢が浮かんできました。これからの家族の生活を、その環境なら幸せにできるかもしれない、と考えるようになりました。

家族を背負って0から会社を立ち上げるというのは未熟で出来なかったのですが、すでにある会社で新しい挑戦をしていくことはできるかもしれない、そんな思いで飛び込んできました。

「新しい価値の創造がミッション」福井センイの今とこれから

メーカーから届く服の生地・服の始まり

実際に福井センイの仕事を始めて感じた苦労や、福井センイならではの強みを教えてください。

 国内アパレル業界は縮小しており、多品種且つ小ロット生産が主流となっています。生産する製品は日々刻々と変わっていくので、楽しさの半面、目まぐるしい変化に戸惑いを感じることもありました。

色々な技術や業界の商慣習を覚えるのは大変でしたが、ポジティブに言い換えると、メーカーからの要望に幅広く応えていく体力のある会社だということに気づきました。

福井センイではサンプルから仕上げまでノンストップで製造することが可能だったり、生地の種類を問わず縫製できる人材や技術、さまざまな種類のミシンなどの機材が揃っていたりするんです。また、分業でモノづくりをするという環境が舞鶴では崩れてしまったため、自分たちで何でもやってきた歴史があったんです。

単なる「縫製技術」という様な狭い範囲ではなく、「服を作る」という大枠な技術力がものすごく高い、これが福井センイの強みだと思っています。

生地の裁断から縫製、仕上げまで担うことができる福井センイ

もう一つ、早くから技能実習制度を活用し、外国人スタッフを受け入れてきたことも、この業界で生き残れた理由のひとつだと思います。意欲も技術レベルも高く、一緒に仕事をしていてとても心強いです。

さまざまな縫い方ができるミシンで完成していく服たち。
外国人スタッフの皆さんの縫製技術は圧巻のスピード

日本経済そのものが縮小する中、これまで積み重ねてきた「量産」という技術も転換期が来ていると感じています。

国内で服を作ることの意味、その付加価値をどう表現していくかを明確にすることが今後のミッションです。1着の価値をどう上げていくか。そのためには自社でどのようにデザインや企画をして売っていくのかということがより高く求めらるのではないかと思うようになりました。 

服の価値を考える・創造する『HAVE A NICE CLOSET!』

『HAVE A NICE CLOSET!』で誕生した服たち

企画をしていくことが必要だと話していただきましたが、現在何か取り組まれていることはありますか?

 『HAVE A NICE CLOSET!』という服づくりサービスを企画しました。

ファストファッションが主流で、「買い替えれば良いか」、というスタイルに疑問を感じていたんです。もったいないなと。皆のクローゼットの中が大切で替えのきかない、思い出の服でいっぱいだったら良いんじゃないかな?そんな気持ちでスタートしたサービスです。

『HAVE A NICE CLOSET!』には『WHITE PARKA』と『BOOKMARK WEAR』という2つのサービスがあります。

描いた絵がそのまま服になる『WHITE PARKA』では、実物大の服の型紙をつかって自由にデザインしてもらいます。あえて手で描くという、アナログを突き詰めることを考えてやってみました。

お子様からのオーダーが多いのですが、家族の似顔絵や手形など、幸せが伝わってくる絵もあったり、自分の描いた絵が服になる楽しさや誰かを思って服を作る喜びを感じていただけると素敵だなと思っています。

自由な発想で描いたものが服になる『WHITE PARKA』

0から思い入れのある服を作る一方で、すでに思い入れがあるけどずっとタンスの中にある服も多いと思ったんです。それを「どうやって楽しんで着れるかな」と考えてできたのが『BOOKMARK WEAR』です。

せっかくの思い出を眠らせておくだけでなく、思い切ってTシャツにしてみませんかという企画です。それを着て歩けば「何その切り替え生地?」って聞きたくなるはずなんです。聞かれたらついつい思い出話に花が咲く、なんてことも。

友人にラグビーのユニフォームを切り取ってTシャツにしてもらったのですが、長い付き合いでも知らなかったラグビーへの情熱、ユニフォームにまつわる思い出話を聞かせてもらいました。1着のユニフォームから家族4人分のTシャツにリメイクしたのですが、本人もまさか思い出のユニフォームを自分の子供とお揃いで着る日が来るなんて想像もしていなかったと喜んでくれました。

昔着ていた服が生まれ変わる『BOOKMARK WEAR』

ただ服をつくるだけではなく、思い出を紡いでいくというのも縫製技術を使ったひとつの新しい価値なのかなと思っています。

動き出す福井センイの新たな取り組み

仕事をしていて一番楽しい時間や、やりがいがある瞬間はどんなときですか?また将来へのビジョンも教えてください。

現在、もともとあった旧工場を商品販売や、お客さんに新たな価値を提供できる場にリノベーションすることを計画しています。

今は商品を作っても発表する場がないことが弱点だと感じています。ネット販売が主流ではありますが、あえて作り手と受け手の顔が見える場に可能性があると思っているんです。良いものは良いと言ってほしいし、反対にダメだったら何がダメだったかを目の前で聞いても良いんじゃないかと思っています。

福井センイはモノづくりの会社なので、どんなものを作ったら良いのかを模索し続ける事が重要だと思っています。

このプロジェクトがもうすぐ動き出すので、今から作り込んで行くことが一番の楽しみです。

続いてきた縫製の力は大切に、次の未来へ

将来については、具体的にどんな形になるかはこれからですが、縫製されたプロダクトをファクトリーブランドのように世に出していく方法もそうですが、全く縫製ではない分野に挑戦してみるというのも考えています。

いろんな会社が変遷を遂げるのと同じように、ベースは縫製にあるかもしれませんが、今の時代に合ったやり方、存続の仕方や価値の作り方というのは全く違うものになるかもしれないと思っています。「縫う」という技術をコンセプトに、幅広い考え方で展開していけたらいいなと思っています。

培ってきた会社の強みを生かしながら、厳しい時代だからこそ新しい価値の創造にチャレンジする姿勢の菅原さん。服の新しい価値を考えて生まれたサービスや、新しく動き出すプロジェクトなど、福井センイさんの今後に注目です。


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