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母に

冷凍の肉まんを食べて
突如思い出された記憶

ずっと忘れていた
思い出す必要もなかった

辺りは暗く、
家族向けの車のシートを
寝床代わりにしたこどもたち
運転する父に
母は何かを抱えてきた
ほかほかの食べもの
肉まん

私はこの非日常が嬉しくて
ぱくりとかみつく
すぐさま母が言う
あ、紙ごと食べた、と

紙を食べている自覚など一切なく
いわれて初めて気づきへらへら笑う
なにがそんなに大切なのか、よくわからなかった。

母よ
あなたは不断の努力を続けてきた
正しいことを伝えたいと思った時
できればこうあってほしくないと願った時
愛の行方分らぬまま、時にそれは鋭い切っ先となり
それさえも自分自身ではどうにもできぬ
けれど
肉まんの底についている薄い皮
それをうっかり食べないようにと
こどもに配慮すること
うっかり皮を食べたこどもとしては
ああそれこそ
貴方の努力の愛だったのだと

長い長い時を経て、

思うものもあるのです。

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