赤色の後退曲

ふとあの日の夕焼けを思い出した イヤホンから流れた歌声が彼女だったから
頭にチラついた夕焼けが離れないんだ 忘れかけていた時間を鮮明に思い出させるんだ
言う程今が嫌いなわけでもないけど いやでも溜め息を吐くくらいには嫌いだけど
手に入らないものが美しいなんて言うなら やっぱり今を捨ててみてもいいかなと思う

死にたくなる青空があって あの日に還りたくなる夕焼けがあって 大きな忘れ物があるような気がして
揺蕩う僕の影をどうも好きになれない あの海沿いを歩いていた僕 何かに護られていた僕 そこで立ち止まってはくれないか

今でも僕は 未練がましくあの日を思い出します 眩しさに目を細めたあの道を思い出します
変わらないものは無いなんて そんな些細な当たり前だけが 僕を永遠に苦しめるんだ
どうしようもない今があって どうしようもなく過去だけに囚われていて 不甲斐ない僕は手を伸ばしてみただけ


ふとあの日の夕焼けを思い出した 風に運ばれてあの日の香りがしたから
漠然とした焦燥感だけがあった ここじゃないどこかに行かないと なんて陽だまりの中で思ってた
風景を写真で切り取るように あの時の全てを永遠にしてしまいたいな
一枚の写真を大切にして やがては色褪せてボロボロにして それでも僕は手放せないままなんだ

どこかを歩く度 何かを見る度 空を見上げる度 あの日々を思い出してしまう まるで呪いのように
陽だまりの中にいた僕 後ろだけに囚われていた僕 大丈夫 僕はまだ前を向けていないから

今でも僕は 戻れないあの日を思い出します 息苦しくなるような光に照らされたあの道を思い出します
優しい記憶にだけ包まれていたい 全部全部捨て去って その中で永遠に漂っていたい
些細な事で振り返っては 転んだまま立ち直れず このまま痛みに浸らせてくれとねだってみる 甲斐性のない僕は叫んでみただけ


イヤホンを外してみたって 彼女の歌声が離れない 吹いた風に運ばれてきた香りだって 何も離れない
美しい過去も 永遠にしてしまいたい過去も 僕はまだ首を横に振る


今でも僕は あの日々を思い出します 赤い赤い夕焼けを その輝きを思い出します
赤色に塗り上げられた空を 赤に染まったあの日の僕を 未だ忘れられないんだ

いいだろ別に 全部全部 捨てられないまま 腐らせたっていいだろ
あの日の夕焼けを思い出す 泣いてもいいだろ 惨めに涙を零したっていいだろ 思い出した夕焼けに 泣き叫んだっていいだろ
どうか、まだ離れないでくれよ まだ縋っていたいんだ まだ思い出していたいんだ

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