終わらない音楽だけが欲しかった

珍しく夜が怖かった 電気は付けなかった
冷ややかな瞼裏が少し心地良い
目を開けてしまえば 夜が僕を襲うから


「朝が来なければいい」なんて 夜を嫌う僕は言う
生温かいフローリングの上で 世界の終わりを願ってる
強く吹いた風が窓を叩く 死神が多分そこにいる
瞼を閉じているのかすら分からないまま

朝が来たら散歩に行こう バラードでも聴きながら
海沿いを歩こう 優しい潮風に目を細めて
僕はイヤホンを付けた まどろみに身を委ねた
音が鳴り止む度 薄っぺらな膜は剝がされていった

イヤホンを壁に叩き付ける 膝を抱えて怯える
こんな優しさが欲しかったんじゃないのに
朝焼けが僕を手招きする もう手遅れだ
欲しかったのは 慰めの音だけだった


携帯を確認する 朝と夜の間
こんな場所にいたくない僕は きっと世の中の間
窓枠が音を立てる度 僕の心臓は跳ね上がる
死神がノックした 出迎えてみようか なんて

陽が昇ったらカーテンを開けよう うんと背伸びがしたい
ふと零れた涙が イヤホンの線を辿る
知っていた どうせ無意味な願いだろ
音が止まった 夜は朝を上書きする

イヤホンを外す 長い髪を掻きむしる
堂々巡りだ このまま死んでしまおうか
吹き抜ける隙間風に 絶望的な後悔をする
終末の音が 優しい永遠でありますように


豆電球も無い部屋で一人 僕は泣いている
そこにいる夜に 迎えに来る朝に 体を震わせている
僕を覆い隠して欲しい 目には瞼を 耳には音楽を
終わらないでくれ 終わってしまえば僕は また


終わらない音楽だけが欲しかった
それさえあれば ここにずっといられるのに
音が止む度 僕は少しだけ死ぬんだろう
終わらない音楽で ただごまかしていたかったんだ
だって 音楽は僕を救ってくれやしないじゃないか


カーテンの隙間から陽が差す
臆病風が吹いた気がした
足元に転がったイヤホンを付けてみる
優しい歌声が僕を慰めてた

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