夏を名付ける

「心の傷ってやつを見せてよ」「終わりゆくものと知っている事」
「愛の居場所を教えてよ」「多分、あの青空のどこか遠く」
空が終わるものと知っていたから 愛とは傷なのだと知った
愛は藍で 君の髪が靡いて 僕は目を逸らせなくて

青空を飲み干して 全てを手渡せたなら
まだあの藍の下 二人は向こうを指差せていたかな
波打ち際を歩いた 潮騒に紛れる君を思い出した
空が沈む頃 指を下ろす頃 君は目を細めていたのかなって


「心の輪郭をなぞってよ」「雲をなぞるようなもの」
「恋の終着を見せてよ」「いずれ判ると祈ればいい」
恋をなぞりたいと思ったから 雲をそっと掴みたくて
白を目で追って 君は少し微笑んで 僕にはただ眩しくて

羊雲を一つ抱き留めて 胸の中で絞め殺せたら
まだ手を伸ばして 二人は息を切らせていたかな
砂浜に足を取られた 君の肌の白さを思い出した
判らなくなる頃 諦めた頃 君はまだ前を向いてたかなって


花が咲いた こんなにも近くで火が咲いた
潮騒をかき消して 砂浜を赤く染めて
僕はただ叫んで 愛も恋も全部 君にあげたくて
君の声が聞こえない 夏がどこかへ消えていく

暗がりの中 潮の香りがした
ただ、君の名前を思い出したんだ。


夏に別れを告げて 涙の一つを海と名付けたなら
あの焦燥の僕は 君を繋ぎ止めて置けたかな
足をそっと流した 君の言葉達を思い出した
夏が終わる頃 君はどこに消えたのかなって


「心の名前を教えてよ」
花が散る頃 静寂は耳を劈いて
潮騒がまた 罅を歪に埋めだして
あの頃僕は 心を君と名付けていたよ

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