蒼の君へ

どこにも居ないような 誰かも知らぬような
そんな影を求めて「あの日」を彷徨い続ける
「君も探し物かい?」
「忘れ物すら分からなくなってしまった」
「それもいいさ 君は君だ」
きっと僕らはどこかのはぐれ者だった

廃れた公園 寂れた遊具
蝉の聲と鉄の音
蒼色した空 似合わぬ錆の色
溶けかけの氷菓に あの空を重ねて見る

夏に描いたあの理想を 透明な君がかき鳴らしている
どこにいるはずもないのに 確かに君はいないのに
「あの日」歩いた夏の道を 透明な君は覚えていない
ひたすらに追い続けた影さえも 僕は知らぬふりのままに


不確かな幸せは過去に 未来は確かな消化物に
もういない君を探して「あの時」を求め続ける
「探し物は見つかったかい?」
「そんなもの最初から分かっていた」
「でも私はいない 君は君だ」
勝手に傷付いてた僕の我儘だった

九月の空に 花言葉が舞う
向日葵さえも未来を見行く
夕焼けの赤と 濃密な哀恋の香り
失ったものは 夏だけじゃないのにな

夏に捧げたあの祈りを 透明な君が飲み干している
ここにいるはずもないのに 君は君じゃないのに
「あの時」求めた夏の続きを 君と描いていたかった
愚直になぞり続けた軌跡さえ 見て見ぬふりでいたかった


「あの日」の夏とか 「あの時」の君とか
蒼の空に消えていった何か
探し求めていた忘れ物 理想と祈りの狭間で消え失せて

それでも僕は夏に抗いたくて
夏の延長線上に立っていたくて


夏に愛したあの蒼を 透明な君が捨て去ってしまう
そこに君はいないけど 確かに君は君で

手を伸ばしていた夏に 次は僕が呑み込まれよう
あの赤を捨て去って 君に恋した蒼を叫んで

透明色した君を 群青色した朱夏が染め上げていく

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