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狐晴明九尾狩、新しき晴明像その悲しい理由

ネタバレ⚠️

僥倖でした。
友人がチケットを取ってくれたので観ることが出来ました。自分でやってたら無理だったなぁ。 
1回しか観てないので、アレですが。感想ともレビューとも敢えて言いません、少しだけ書きます。

あらすじ
宮廷陰陽師として朝廷に仕える安倍晴明(中村倫也)は人並外れた陰陽道の才能故に狐との間に生まれた狐晴明と呼ばれていた。ある夜、凶星を見た晴明は急ぎ参内するが、そこに居たのは凶星の源、九尾の狐に身体を乗っ取られた幼馴染みで宗家の賀茂利風(向井理)であった。
晴明対利風、頭脳戦の火蓋が切って落とされた。

新感線の舞台もはじめてで、聞きしに優る圧巻の舞台でした。
元々安倍晴明が好きで(オタク)今回は『好きなもの(倫也)』×『好きなもの(晴明)』
テンションあがりました。
晴明神社はコロナ前に行きたい場所を聞かれて、連れて行ってもらったくらい晴明オタク。
史実の晴明はスーパーヒーローではないし、表舞台に出てきたのも40歳過ぎてからで、後世、かなり盛られて、ブランディングされています。
盛られた結果、虚構界で、平賀源内と並んで便利な人物です。超人ですからね。使い易い。
描かれる人物像はクールで、人間嫌いで、むしろ妖にシンパシーを持つか、妖にも人間にも厳しいニヒリズム的に描かれるか、どちらにせよクールな造形が多い印象です。
だからこそ、今回の晴明像が新鮮でした。
妖だろうと人間だろうと対等で、無邪気で熱い男として描かれている。また、多様性の象徴として妖がその役を担っていて、「人間も妖もすべてこの世にいる方がおもしろい」多用されるこのフレーズがその一端を表します。とても、現代的です。制作者のインタビューによれば今回の舞台を少年漫画に例えられていたので晴明もジャンプ主人公気質だったのかもしれないですね。
大陸から来る狐と言えば少年漫画であまりにも有名な「うしおととら」が想起されますし、「白面の者」っぽさのある、九尾の狐でした。
うしおととらはサンデーでしたけど(笑)
純真で人懐っこい、それでいて神秘さを醸す晴明。倫也びいきを除いても晴明が魅力的に描かれていて驚きました。これは俳優、中村倫也を念頭に置いて書かれたものであるということを考えると、あの純真さと神秘さが、絶妙にブレンドされたチャーミングな晴明を、舞台上に体現出来ると信頼を寄せてのことなのだと、演出家にとってなんと使い易い(褒め)俳優だな、と改めて凄みを感じました。
この無邪気な晴明は物語の核で、非常に重要なファクターです。
一方、理知的に描かれる利風のモデルは賀茂保憲でしょうか。師とも兄弟子とも言われる。たったの4歳しか違いのない間柄、作劇しやすく、想像力をたくましくできる人物です。利風とのエピソード、友情と嫉妬は、ここからも想起されます。
さて、物語が進み、利風との知恵比べの果てに、晴明が活躍する大抵の物語でクライマックスで使われる泰山府君の術(死者を呼び戻す秘術)を中ボス(変化途中)で使うとは贅沢な作りです。しつこい九尾に秦山府君も計算済み、どんでん返しが続きます。
最終決戦は、晴明が僅かに上、九尾は狩れましたが、その対価は晴明の感情でした。生命を取れなかった九尾は晴明の感情を持っていったのです。
ここで晴明があれほどチャーミングに造形されてきた理由が開示されるのです。
落差が必要なのです。
最初からクールな晴明では等価交換で失った感情が生きてこない。
すべてはこの結末のためだった。
晴明の払った対価は大きい。
九尾を倒す対価として、やや唐突に奪われる晴明の感情は、九尾にとって、敵は晴明だけでなく己の身体に残留する利風の意識であり、今の窮地はふたりの謀(はかりごと)によるもの。憎いのはふたりの絆であり、冥府に落ちる道づれは晴明の「こころ」なのだと悟った瞬間、それが闘いの最中であったからなのだとわかります。
すべてが終わり、感情を失った晴明は、はからずも涙をこぼします。最後の感情の欠片をのこし、晴明は虚無の世界を歩むことが明示され物語は幕を下ろします。
少年漫画主人公が乗越える大人への通過儀礼として失った感情はあまりに儚く美し過ぎました。
この舞台の為に造形された新たな晴明像が、早くも失われることが惜しくて堪りませんでした。
役者の説得力とは、こういうことを言うのでしょう。今回、悪役と良い役で明暗がわかりやすい利風も理知的で目を見張りました。しかしこの舞台は晴明の魅力にかかっていた。
そして見事でした。

観終わった後の、かなしく悔しいような感覚は、失われた晴明の豊かな感情を惜しむこころだったと、しばらくしてしみじみ噛み締めました。
後髪引かれる思いで劇場を後にしたのはこれだったのです。

新感線の舞台を他に知らないので、味わい方がこれが通常コースなのかはわかりませんが、心を奪われる体験でした。
身体能力の高いおふたりの殺陣は素晴らしかったです。もちろん全てのメンバーのアクションが素晴らしいのは承知ですが、更に言えば、見たことの無い晴明の二刀流は華やかで裾さばきも俊敏、鮮やかでした。
願うならば、あの軽やかでチャーミングな晴明に再び会いたいものです。無理を承知で。
こうやって書いてみると、すべて当たり前の事のような気がしますが、言語化しないと気が付かないことも多いですから。

虚無を纏った後の晴明はどうなるのか。渦雅は夢枕獏版の博雅の立ち位置でしょうか、彼との物語も、また観てみたいですね。

#狐晴明九尾狩  #中村倫也 #新感線






ちょっと寂しいみんなに😢