【禍話リライト】サンタの欠片
今は大学を卒業して就職し2年ほど経っている、Aさんという男性から聞きとった、よく分からない体験談。
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Aさんの学生時代に、付き合っているのだか付き合っていないのだか、微妙な距離感の女性が居たという。
たまにお互いの家に泊まりに行ったりはするものの、付き合ってるともお互い何とも言わない、そんな雰囲気の付き合いだったそうだ。
「いやーちょっと変な事があって」
その彼女が大学三年生の頃に、急にこんな話をしてきた。
「玄関に100均で買った安いサンタの像が置いてあったんだけど。
昨日の休みにどこか出かけようかなって、パッと玄関を見たら、サンタの帽子の部分だけ綺麗に折れてて。
いつの間にか落としたのか、それともどこかにぶつけたのかなって。
それにしてはそんな記憶もないし、前から置いてある位置ともずれてなくてねえ。
とは言えいつの話か分かんないしね。注意深く見てないといつ折れたのかなんて余計に分からないだろうし。
それで、100均で買ったやつだからまた買ってくればいいかって、出かけることにしたのよ」
その週は雨が続いていて、彼女はどこかに出かけるにしてもバスを使っていたのだそうだ。
そのため、何日かぶりに自転車で出かけようと、久々に自転車置き場に向かった。
「自転車の鍵を開けて、前かごに鞄を載せようとした時に、かごの中に何かあるのに気が付いて。
何だろうって見たら、サンタの帽子の部分がかごの網にキレイに嵌ってあったのよ」
そこまで聞かされたAさんは、てっきり「不可解な話だよねー最近使ってなかった自転車に折れたパーツがあるなんて」という風に話が結ばれると思ったのだが。
「いやー私もムカッとしてなんか記憶が無くなっちゃったのかなーって」
微妙にずれた話のオチが来たという。
仮に何かにイラッとしたり、あるいはお酒を飲み過ぎて正体を無くしたりしたとしても、
玄関に置いてあるサンタの像をわざわざ自転車置き場まで持っていって、前かごに折れたパーツが残るような行動は普通取らないだろう。
そう思ったAさんだったが、それ以上に気になっていた事を聞いた。
「そもそもさ、そのサンタの像って玄関のどこに置いてあったっけ?」
Aさんは何度も彼女の家に訪問したはずなのだが、サンタの像が玄関にあったという事がいまいち思い出せない。
「玄関の、ほら靴箱の上だよ」
彼女の家の靴箱の上を必死になって思い返すが、やはり記憶の中にサンタの像はない。
「本当に飾ってた?」
「ほらあ、一緒に100均に行ったじゃん」
言われた100均ショップの名前は、確かに何度か彼女と買い物に行った店である。
Aさんには覚えがないため、気が付かない内に彼女が買っていたのか。
「ああそう…そうなんだ…」
「お揃いで買ったじゃん!」
「えっ!?」
「ああなんだ、どこかに仕舞っちゃったの?」
彼女は真顔で、冗談を言っているようには見えない。
「この間あんたの家に行った時は飾ってあったじゃん」
彼女と別れた後、家に帰って探してみたが、サンタの像は見つからない。
適当に買ってそのまま奥にしまい込んで忘れたのかとAさんは一瞬思ったそうだが、この前行った時にはあったと言われたのが引っかかる。
その後も家の中を探してみたが、やはりと言うかなんというか、いつまでたっても見つからなかったそうだ、
その後、Aさんと彼女は大学を卒業して、二人の関係も自然消滅してしまった。
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この話をしてくれたAさんは、最後にこう付け加えた。
「あれから2年か3年くらい経つんですけど、そろそろ出くわすんじゃないかなって。サンタの欠片と」
なぜそんな事を思うのか、なぜ像全体ではなく欠片なのか、という数々の疑問は、何とか口に出さずに飲み込んだ。
出典
禍話アンリミテッド 第八夜 40:57~
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