【禍話リライト】第七公園
廃墟に泊まりに行くのが趣味というKさんの体験談。
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とある地域に、山の一部を切り崩して作られた団地があった。いや、山の一部だけを残して切り崩した、というのがより正確な表現かもしれない。それほど半端な部分が小山のような形で残っており、どうせなら残りの部分も切り開いてしまって団地を拡張すればいいのに、そう思う人も居たそうだ。
その山の残った部分に、神社だかなんだかの何かを祀った祭壇のような建造物があり、そこがとても気持ち悪いのだという。話を聞いたKさんは、日帰りで行って帰って来れる距離だと言う事もあって、次の休みの日にでもちょっと行ってみようかと準備をしていた。
すると、どこから話が漏れたのか、「俺も行ってみたい」「私も行きたい」と知り合いが何人か声をかけてきた。一人で行くつもりだったKさんは内心(えー…)と思ってはいたが、付き合いの関係で結局四、五人ほどのグループで行くことになったという。
ただ、当日は各人とも都合があり、どうしても団地近くのどこかに現地集合せざるを得なかった。とは言え、Kさん含め件の場所に初めて行く人ばかりで、適当な場所を集合場所にしてしまっては、ちゃんと全員集まれるかは怪しい。
どうしたものかと考えていると、団地近くに住んでいた一人が、
「団地の中に第七公園って言うのがあって、場所が分かりやすいからそこ集合にしよう」
という。それは近隣に住む人間にとっての分かりやすさなのでは?と聞くと、団地入口に地図が掲示してあって、地図の中で第七公園が目立つのだそうだ。そこまで言うなら、と第七公園に集合することになった。
当日、Kさんが団地に辿り着くと、言われた通り入口に地図が掲示してあり、話に聞く第七公園も団地の入り口近くの目立つ位置にある。
なる程これなら確かにわかりやすい。
集合時間までまだ15分ほど時間があったが、えっちらおっちら集合場所まで向かう事にした。
「Kちゃーん」
一緒に廃墟に行くことになっていた女友達も早めに到着していたらしく、Kさんに向かって声をかけてきた。せっかくなので二人で第七公園に向かう事にした。
「それにしても、人が居る感じがしないねこの団地…」
この日は休日で、集合時間も昼前の明るい時間帯だったのに、子供が遊ぶ声も、老人が散歩する姿も、全く見当たらない。言われてKさんも不思議には思ったそうなのだが、
「郊外にある大きいショッピングセンターに、たまたま皆して行ってるんじゃないの?」
深く考えずにそんな返事をしたそうだ。
しばらく歩いて第七公園に辿り着いた。入り口には「○○団地第七公園」と立派な看板が取り付けてある。Kさんと女友達は公園の入り口近くのベンチに座って、残りのメンバーを待つことにした。
しかし、待ち合わせ時間になっても残りの男子達が来ない。約束の時間を過ぎてしばらく待っても来る気配がなかったため、電話をかけてみるが繋がらない。そのまま留守電になったので、
「あと30分だけ待ってあげるけど、それ以上は待たないで先に行くからね」
と伝言を残して電話を切った。
「せっかく昼間に待ち合わせたのに、夕方になっちゃったら馬鹿みたいだよね」
女友達とそんな話をしていると、急にKさんの背中がゾクゾクしてきた。
「あれ?あれあれ?」
「Kちゃん…どうしたの?」
友達が心配そうに聞いてきたが、Kさんもなぜ急にゾクゾクしてきたのかが良く分らない。ただ急速に違和感が広がってきた感じがあったという。その時になって初めて、Kさんは公園の中をちゃんと見たのだそうだ。
最初に目についたのはブランコだった。
ブランコの座る板の部分が地面に転がっており、なる程鎖が切れて壊れているんだな、と最初は思ったそうだ。ところが、よくよくこのブランコを観察して見ると、吊るす鎖が余りにも長すぎて座る板が地面に転がっていたのだという。このままではどうやってもブランコを漕げない。
「あそこのブランコ……鎖が長すぎない?」
Kさんに言われて、友達もようやくおかしなブランコに気が付いたらしい。
「本当だ…あのブランコ、どうやって遊ぶんだろう…」
ブランコの周囲にはそれなりの長さの草が生えており、昨日今日設置されたものではなさそうだ。仮に設置時に長さを間違えたとしても、鎖の長さを再調整すればいいだけの話で、長すぎるまま放置する理由が分からない。
ブランコの違和感に気が付いてから改めて公園内を見回すと、公園内のどの遊具も少しずつ何かがおかしい事に気が付いた。
例えば滑り台。
滑り台の登った先に、ジャングルジムのような棒が大量に設置されており、どう頑張っても登れそうにない。頑張って登れた所で、滑る側まで移動できそうにない。
そんな風に所々何かがおかしい遊具の数々を見て、Kさんは余計に気持ち悪くなってきた。
公園というものを全く知らない何者かが、見よう見まねで適当に作った設計図のまま、公園のようなものを建てたという感じに見えたそうだ。
「ちょっとここ出よう。これ公園としての体をなしてないわ」
公園のような場所から外に出て、気持ち悪いね、何この場所…と言い合っていると、友達が「あれ?」と声をあげた。
「Kちゃん!ここ違ったんじゃないかな!?」
「何が?」
「私たちが間違えたんだよ、待ち合わせ場所」
「は?」
――この団地の名前は詳しくは明かせないため、あくまで仮名として、この団地が「斎藤団地」という名前だったとしよう。
公園の看板には、「斉東団地第七公園」と言う風に、同じ読みで全く違う漢字の団地名が書かれていた。
「え?」
「ほら、私たち違う所に来ちゃったんだよ、ほら!」
そう言った瞬間、友達も自分の言葉のおかしさに気が付いたのだろう、「あれ、うわ、あれ!?」とパニックになっている。
「ダメだ、一旦この団地からも出よう。ここダメだ」
Kさんが友達をなだめすかして団地の外に向かう間も、誰一人としてすれ違う事もないどころか、自分たち以外の人間を見かけなかったそうだ。
団地の外へ出て、バスに乗って駅前まで戻り、手近な喫茶店に入った所でようやく落ち着くことが出来た。
「おかしいよね、団地の入口に書かれてたのは確かに『斎藤団地』だったよね?」
「いくら何でも名前間違えて掲示しないだろうし、あの公園ヤバいんじゃないの?」
そんな話をしていると、友達が自分のスマホを見て、「あれ、メール来てた」と言う。
「誰から?」
「一緒に行くって言ってた他の連中から」
「ああそう言えば」
Kさんはこの時まですっかり忘れていたらしい。
「私の携帯にはメール来てないや。何て来てたの?」
「えっとね、何か画像が添付してある……うわっ」
いきなりスマホを雑に投げ捨てたため、Kさんはびっくりして「スマホ!危ない!」と声を掛けた。
「あ、ごめん…いやでもちょっと見たくない…」
「どうしたの、お化けでも写ってた?」
そう言いながらスマホを拾って、メールの内容を読んでみた。
メールの文面にはそれだけが書かれており、続けて友達が見たくないと言っていた画像を開いてみる。この画像が完全にぶれていて、はっきりとは断言は出来ないそうなのだが。
メールには、全力でブランコを漕いでいる誰かの写真が添付されていたそうだ。
「うわっ!」
思わずKさんも友達のスマホを放り投げてしまったが、友達は怒る事はなく。
「ね、そりゃ放るでしょ?」
「この画像、消した方がいいよ。あいつらはもしかしたら間違ってない方の公園に行ったのかもしれないけど、これはそう言う事じゃない」
「うん…」
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「その日は気温が高くて、友達と二人で頭がぼうっとして、実は幻覚だったとか、ただの見間違えをしたってだけなのかもしれない。それに、男連中とはもう連絡取ってないんだけど、特に失踪したとかいう事もなくて、ちゃんと家に帰って今も普通に生活しているみたいよ。
ただね、あいつら、廃墟とか心霊スポットに行こうって一切言わなくなったんだって。もしかしたら、あの日何かを見たのかもしれないね。
そうそう、あとで別の休みの日に、別の友達連れてもう一回あの団地に行ってみたんだけど。団地の中も公園の中も、どこも親子連れがいっぱいいて、結構やかましかったんだよね。
その時になってようやく、ああ、あの時は本当にヤバい状況に置かれてたんだなって、そう実感したね。
そういうのマジであるからね。変な所に行く時は気を付けた方がいいよ」
Kさんはそう言って話を結んだ。
出典
シン・禍話 第十七夜(初見さんに優しい仕様) 1:19:22~
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