【禍話リライト】だんらんの村

 禍話の常連提供者に、廃墟に泊まりに行くのが趣味の甘味さんという女性がいる。これはその甘味さんが遭遇した、飴玉の話。


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 ある廃村を巡っていた時に出くわした体験談だそうだ。

 甘味さんはその廃村を一人で見て回っていたのだが、途中で自分とは別個に廃墟巡りをしていたというカップルと遭遇した。甘味さんも軽く会釈をしたものの、デートな雰囲気だった二人とは一応は気を使って距離を取り、一人で少し離れた場所を見て回ることにした。

 そうやって色々見ていくと、とある一軒の建物に甘味さんの感覚が反応したという。他の建物と何か大きな違いがあるでもなく、建物の朽ち具合も他と変わらない。
 それでもこの家は何かが違う!と直感したそうだ。
 しばらく他の建物を見て回った後、改めてビビッときた建物の入り口に向かう。

 引き戸を開け、中を見回して(やっぱりなんかここ違うな…)と考えていると、後ろから

「すみません…」

 と急に話しかけられて、百戦錬磨の甘味さんも思わず飛び上がった。

 振り返れば、先ほど遭遇したカップルの女の子の方が申し訳なさそうな顔をして立っている。

「何ですか、脅かさないでくださいよ…」

 ビックリしたのが少し恥ずかしかったらしく、甘味さんはそれを隠そうと若干つっけんどんに聞いた。

「ごめんなさい!あの…少しおかしいんですよ…」
「何がおかしいんです?」
「T君……えっとその、私の彼氏の事なんですけど……気が付いたら、口に含んでるんです…」

 口に含むと言われて、咄嗟にガムやキャンディーが甘味さんの脳裏に浮かんだ。

「それってクロレッツだとかミンティアだとか…そういう事?」
「いや、何も持ってなくて、彼はずっとカメラしか持ってなかったはずなんです。もちろんそう言う飴とかガムはあるんですけど、どれも車に置いて行ったから持ってきてるはずがなくて…
 しかも結構大き目な飴玉を口に入れてる感じだったんで、私気持ち悪くなって

『ちょっと、それ誰に貰ったの?』

 ってちょっと冗談めかして聞いたんですよ。そしたら

『おばちゃん!』

 って急に子供じみた口調で言って……あ、怖いってなって、今はちょっと彼とは距離取って好きにさせてるんですけど……
 これ、ヤバくないですか?」

 あ、ヤバいな。話を聞いた甘味さんも確かにそう思ったそうだ。

「えっと、その『おばちゃん』って言うのは、冗談で言った感じではなかった、って事ですよね?」
「そうです。急に子供になった感じというか、普段もそんな冗談を言う人じゃないので」
「あ~…ちょっと一緒に行動しようか。えっと、彼はどっちに行ったの?」
「奥の方に…」

 廃村の奥の方は先ほど甘味さんも見て回ってはいたが、草も生い茂り家も殆ど朽ち果て、物理的に危険を感じて立ち入らなかった場所だ。
 まさか廃墟巡り初心者で、そういう危険性が分からずに足を踏み入れてしまったのか?そういう別のヤバさを感じ取った甘味さんは彼女さんに聞いた。

「彼氏って、もしかして廃墟巡り初めて?」
「いえ、むしろ彼の方がこういう所好きでよく行ってて、私は今日連れてこられた方なんです」

 聞けば今日は彼の車の運転でここまで来たらしく、どちらにせよ救助しないと帰れそうにない。仕方なく甘味さんは彼女さんを連れて、廃村の奥まで進んだ。

 確かこの辺に…という彼女の案内を頼りに進むと、一軒の朽ち果てた家に辿り着いた。かろうじて家という形を保っているだけで、何かあれば今にも崩れてしまいそうである。入口を見ると新しい靴跡があり、誰かがこの家に入った事は間違いないようだ。

「ちょっと中に声をかけてあげてみて」
「はい…T君!か…帰ろうよ!」
「そうだよ危ないですよ、出ておいでよ」
「何?」

 暢気そうな声がして、奥から彼氏が出てきて、玄関で靴を履き始めた。
 つまり、彼氏はわざわざ靴を脱いで廃墟に上がり込んでいた事になる。
 これはいよいよ持ってヤバいぞ、と甘味さんは思ったそうだ。

「まあね、もう遅い時間ですし、危ないですし、いつ崩れるかわかんないですし、そろそろね」
「はあ?まあ、はあ…」

 こちらの話を聞いているのかよく分からないリアクションが返ってくる。

「ねえ、T君もう帰ろうよ…」
「あ、帰るの?」
「うん、帰ろう帰ろう!」
「そっか、じゃあまた近くに来たら教えてよ!会いに行くから」

 あ、これは完全にダメだ。そう思った甘味さんは、彼女さんを促して彼氏を無理やり車まで引っ張っていったそうだ。幸い彼氏はそこまで体格が良くなく、女二人の力でもなんとかなったという。

 そのまま車に乗せると、彼氏が急に「気持ち悪い、寒気がする…」と言い出した。

「あのさ、俺馬鹿な事言ってなかった?」

 どうやら正気に戻ったらしいと喜ぶ間もなく、彼氏はうえっと何かを吐き出した。先ほどまで口に含んでいた水に混じって、何か飴玉のようなものがごろっと口から転がり出たという。
 その後もまだまだ吐きそうにしている彼氏の看病は彼女さんに任せ、ついでにちゃっかりと町まで送ってもらう約束まで取り付け、甘味さんは自分の荷物を取りに戻った。
 その途中で、先ほど彼氏が出てきた家の事が気になり、入口から覗くぐらいならいいかなともう一度向かったそうだ。

 朽ちた家に着いて入口から中を覗くと、彼氏が出てきた部屋の中にちゃぶ台が置いてあるのが遠くから見えた。そのちゃぶ台の上には、恐らく写真立てのような小物と、何かの瓶のようなものが置かれている。
 あそこまでならギリギリ行けない事もないかな?と慎重に這って、甘味さんはその部屋まで向かったそうだ。

 部屋まで辿り着いて念のため周囲の気配を探ってみるが、取りたてて異常な気配はなさそうだ。その事を確信して改めてちゃぶ台の写真立てを見てみると、何も写真が入っていない。
 なんだ何も入ってないのか…じゃあこの瓶は何だ?と見てみる。

 瓶の中には、ビー玉か飴玉か、何か丸いものが大量に入って居たそうだ。中の丸い物がそのどちらなのかは、流石の甘味さんもとっさには分からなかったらしい。
 ただ、埃も積もって、色々と引っ付いてしまっていたという事は間違いなかったという。

 何だこれ…?と手に持った瓶をちゃぶ台に戻した反動で、写真立てが倒れてしまった。一応戻しておくか…と倒れた写真立てを手に持つと、間の悪いことに写真立てが壊れ、中から一枚の紙が出てきた。
 恐らくは、以前写真を入れていた時に使用していた当て紙なのだろう。

 落ちた紙を手に取ってみると、裏に何か書いてある。

だんらん

だんらん


だ ん ら ん

 真ん中のだんらんはカラフルなペンで、一番下のだんらんは大きく書かれていたそうだ。

 だんらんってどういう事!?

 流石に気持ち悪くなった甘味さんは、だんらんの紙と壊れた写真立てをその場に放置して、そそくさと家から退散した。

 荷物を持って車に戻ると、残っていた二人が何故か後部座席に移っている。まだ具合が悪くて看病していたのかな、さっさと帰りたいんだけどな…そう思いながらも、一応心配の声をかけるために後部座席に近づいた。


せっせっせーのよいよいよい…よいよいよい…


 二人は何故か、後部座席で手遊びのような事をしていたという。驚いた甘味さんはドアを開けて二人に聞いた。

「あんたたち…何してんの?」


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「まあ、その後なんて言われたかは何となく想像はつくと思うんだけど。

 『『だんらん』』だって。

 そっかーだんらんかー。それはいいけどあたし疲れてんだよね。早く帰りたいんだけど。
 そう言ったら、案外素直に送ってくれて、どうにか帰る事が出来たんだけど、ただ、そのだんらんって言った時、二人とも何かを口に含んでるような感じでさ。
 あれ多分彼氏があの瓶の中身をポケットに隠し持ってて、二人で口に入れたんだと思う。瓶の中身が何だったのかは、結局分からないんだけどね。

 その後別れてから二人がどうなったのかは知らないよ?
 多分今もどこかで『だんらん』してるんじゃない?」



出典
シン・禍話 第三十六夜 19:26~

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