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ただ歩きたい日、元たい焼き屋さんと、あんみつと。

ただどこかに向かって歩きたい日というのがあります。

何か買い物をしようとか、あれが食べたいとか、そういった目的のようなものはありません。ごちゃごちゃと散らかってしまった頭のなかを空っぽにして、ただ外の空気を吸ってお日さまの下を歩きたい。目的はないけれどどこかに向かってずんずん歩きたい。そういう日がわたしにはあります。

そういう日、たいていの場合はひとつ隣の駅に向かって歩きます。時間にして30分くらいです。無印とカルディとユニクロがあって、わたしの生活で必要なものの大半はそこで揃うし、必要なものがないときにもぶらつくにはちょうどよいのです。

今日も隣駅に向かって歩きました。少し気温は高いけれど湿度は低くて風が涼しいです。いつの間にか秋になったんだなと思いました。家の周りは住宅街で、あるのはスーパーとドラッグストアと、チェーンのファミレスと居酒屋、車屋さんとドン・キホーテくらいです。

途中、小さなたい焼き屋さんがあります。今日通りかかったら閉店していました。だから正確には元・たい焼き屋さんです。一度だけ、ここのたい焼きを買ったことがあります。日本人の9割が頭に思い描くことのできるふつうのたい焼きでした。お腹に詰まったあんこは火傷しそうに熱かったと思います。

以前は毎日お店をやっていたはずです。人通りのたいして多くない少し大きめの川沿いの通りで、そのお店は毎日毎日、あんこやクリームの入ったたい焼きを売り続けていたはずです。

「事情により閉店することになりました。ご愛顧ありがとうございました。みんな元気でいてくださいね。」

毎日やっていたお店は、いつの間にか週の半分はお休みになって、週末だけになって。そして今日は、閉ざされたシャッターにこの貼り紙がありました。

「事情により閉店することになりました。ご愛顧ありがとうございました。みんな元気でいてくださいね。」

事情。わたしたちの生活はすっかりこの事情に飲み込まれてしまいました。

「事情により閉店することになりました。ご愛顧ありがとうございました。みんな元気でいてくださいね。」

元気でいてくださいね。黒のマジックでそのメッセージを手書きしたあのおばさんも、お店を閉めて穏やかな日々を過ごしているのでしょうか。ご家族とともに、のんびりと。どうかそうであってほしいなと思いました。わたしは急にあんこが食べたくなりました。

少しだけかたちの変わってしまった街を、わたしはずんずん歩いて通り抜けます。もう見知った道なので、あっという間に隣駅に着きます。

駅ビルと言うには少し小さいショップ街に入って、それが当然の義務であるかのように無印とカルディとユニクロを通ります。ついでなので本屋を眺めます。特にほしいものはなかったので、諦めて食品コーナーに向かいます。

そこでふと、あんこが食べたかったんだと思い出しました。そうしたら目の前にあんみつが売っていました。買いました。田中圭御用達のお店のやつでした。

わたし、あんみつはそれほど好きではありません。というかあの茶色っぽい豆が苦手なんです。甘いのかしょっぱいのかわからなくて、ちょっとしょっぱいが勝つ、みたいな味の豆。でも買ってしまいました。田中圭に釣られたわけではありません。たぶん。

お店の人に「黒蜜と白蜜、どちらにしますか?」と聞かれました。「あーじゃあ、黒蜜お願いします」と答えました。すごく知っている風に答えましたが、黒蜜と白蜜の違い、よくわかりません。

疲れたので帰りは電車に乗りました。びっくりするくらいすぐ着きます。ああやっぱり楽だな、と思います。

家について、お腹が空いたので早速あんみつを食べました。夕飯前だけど、歩いたからカロリーゼロということでいいですよね。こしあんと寒天、みかんとくず餅、求肥とあの豆。黒蜜をかけて食べました。美味しかったけど、やっぱりそんなに好きじゃないなと思いました。

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でもあんみつって、響きから可愛いじゃないですか。偏見なんですけど。わたしもあんみつ好きな女の子になりたかった時期がありました。でもあんまり好きになれなかった。だから逆に、ちょっとしたあんみつコンプレックスで、街であんみつを見かけるとつい、買っちゃうんです。

なぜわたしはこんな文章を書き始めてしまったんでしょう。どこに向かっているのかよくわかりません。たぶん、どこかに向かってただ歩きたい、みたいに、ただキーボードを叩きたい。そんな気分だったんです。

そんな日があってもいいじゃないですか。ものごとには必ず理由や根拠があるって、あれ、嘘だと思うんです。「無」に宇宙が生まれたみたいに、考えちゃいけない、概念がないから説明のしようがない、みたいなことって普通にあると思うんです。

そういう日。そういう日でした。

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