熊野ミツオ

発達ナイスガイ、自称詩人。

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  • ベスト詩集「知らない国」

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【詩】ビー玉の空

きょうの空のしたに ひとりでいて 誰にも邪魔されないで 時間の廊下に散らばった ビー玉を見ていた ガラス玉の表面に映るのは 未来ではない ガラス玉の表面に映るのは いまのぼくだ 幼い顔はどこか寂しくて 恥ずかしさからは 逃れられなかった 廊下はひんやりとしていて 薄暗かった 帰っておいで 外国を旅している夢を見た とても幸せな夢だった 毎日がお祭りのようで 幸せって あんな風なことなんだね あしたの空のしたに 誰かといて 雨の匂いがしている 紫色の雷が鳴って 永遠が照

    • 【詩】ボソボソとした声で読む詩

      きょうは一日 家にいた (蟄居) いつのまにか ぼくは やさしい人間になっていた きょうからぼくは やさしい人間の仲間入りだ いつものように 曖昧な表情を浮かべて 曖昧な輪郭をして ボソボソと喋った 喫茶店で 一対一で話しても とくになにも 印象に残らないだろう あるいは 一晩 同じベッドで寝ても 次の日には おもいだせないだろう やさしいだけの人間は いないことにされる この世界に ぼくは存在しない 次の日の朝 目を覚まして 虫になっていても 文句は言えない

      • 【詩】虚しいとかんじるくらいのスピードで

        虚しいとかんじるくらいのスピードで 本のページをめくる 読んでいるようで 読んでいない 映画だって 普通の二倍のスピードで見るから あらすじがかろうじてわかるくらいだ ぼくには大切なひとなんていない ぼくにとっていちばん大切なのは アイスクリームと 孤独だ 冬でも毎日アイスクリームを食べる 駅の雑踏のなかでもぼくは ひとりぼっちだ 虚しいとかんじるくらいのスピードで 生きていた頃は すべてがそんなかんじだった いまのぼくは少し スピードを緩めることを知っていて 缶チュ

        • 【エッセイ】夏眠

           一年中、元気、というのもつまらない気がする。人生に緩急をつけたい。そういうわけで、夏はのんびりしようとおもった。最近の夏は殺人的な暑さだ。だから、あくせくしても仕方がない。夏眠(かみん)しよう。  そうおもったばかりなのに、なにかして遊びたい、という気持ちになった。それはぼくがもともとエネルギッシュな人柄だからだろう。エネルギーが高いので、それを発散させるために動きたくなる。ひとからよく行動力がある、と言われる。しかし、それはいいことなのだろうか。  とにかく、エネルギッシ

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        【詩】ビー玉の空

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          【掌編小説】彼女とはまだ口を利いたこともない

           ヤスオくんは結婚する予定だった女の子と別れたと言って、ぼくを飲みに誘った。ぼくは酒が好きなので、飲みに行けることが嬉しかった。ぼくたちは日高屋で飲むことが多かったが、この日はヤスオくんが女の子と別れたので、鳥貴族に来た。ぼくは焼き鳥が好きだ。 「あの子と結婚するつもりだったけれど、結局、別れてしまった」とヤスオくんは言った。ぼくたちはメガハイボールを飲みながら、焼き鳥を分け合い、無限キャベツを食べた。 「きょうはおれの奢りだから、飲んでよ」とヤスオくんは言った。 「なんで別

          【掌編小説】彼女とはまだ口を利いたこともない

          【詩】逆流

          これから来る季節が 冬なのか夏なのか わからなくなってしまった いまが 人生のいつなのかも わからなくなった きょうが 何曜日なのかさえわからない 自分のことを 忘れてしまいそうだった あんなに大切なひとだったのに あのひとの欠点が いつもわたしを死ぬほど悩ませた その欠点が 他人事のようにおもえた こんなところに 見慣れないほくろがあって わたしには この腕が 誰の腕なのかもわからなかった この道を曲がれば 家に帰れるだろうか いまにも 雨が降り出しそうだった そ

          【詩】逆流

          【詩】ズル休み

          きょうのぼくはズルをして バイトを休んだ しかしそのズルは どこまでがズルで どこまでが必要なんだ 欠勤の電話をいれて 今頃 職場で本来ぼくがやるはずだった作業を やってくれるであろうパートのおばさんのことをおもう ぼくは憂うつになる せっかくズル休みしたのに それをたのしむこともできない 喫茶店に行って アイスカフェオレを注文して レイモンド・カーヴァーの短編集を読む きょうはなにをしても どこかに罪悪感があって 上手くたのしむことができない なにかたのしいことがない

          【詩】ズル休み

          【エッセイ】苦しみが足りない

           バイトの後で長い散歩をするようになった。最近はバイトでもけっこう身体を動かすのでバイトが終わる頃には一万歩くらいは歩いている。それにさらにプラスして一万歩くらい歩く。いつもの散歩コースは五千歩くらいで、それを二周することにしていた。  なぜ、そういうことをするようになったかというと、ある木曜日、バイトが終わって、なんとなく気分が塞ぐので、はま寿司に寿司を食べに来た。いつもはスシローに行くけれども、最近、スシローが混んでいるので、この日ははま寿司にすることにした。  焼酎の

          【エッセイ】苦しみが足りない

          【エッセイ】六月

           カウンセリングを受けた。カウンセラーさんは少しずつぼくのことがわかってきたのだという気がした。話しているとそれがわかった。カウンセラーさんは元ギャルというような雰囲気があるひとだ。いや、ほんとうは違うのかもしれない。  最近の仕事の悩みを話した。店舗全体でする仕事が変わって、ぼくのする仕事も以前とは変わった。その結果、やりがいを失ってしまった。作業中に、ストレスがかかってひとりごとを言うようになってしまった。もちろん、たいしたことを言っているわけではない。  でも、カウンセ

          【エッセイ】六月

          【詩】懐かしいことはぜんぶ嘘

          ほんとうのことを言うと ぼくは 昔に比べると 柔らかい草むらのようになったんだ ただ風に吹かれてザワザワと揺れて 雨が降るとしっとりとする ぼくは生まれつき小柄で 他のひととは違っていた だからあの子の少し尖った耳を 齧りたいなんておもうんだろう 罪深いことだ いまとなっては笑える話だけれどね いまはひとりで暮らしている ひとりでテレビを見ながら お茶を飲んでいると 懐かしいことはぜんぶ嘘だとわかる 昔に比べると これでもずいぶんよくなったほうだよ 最初の方は違っていた

          【詩】懐かしいことはぜんぶ嘘

          【詩】きょうはなにも起こらない

          きょうはなにも起こらない なぜならすべての勤め人の休日だからだ ぼくは家にひきこもって 外でやっているお祭りの音を聞いていた うるさいので ノイズキャンセリング機能付きの ヘッドホンをつけて アンビエントを聴くことにした きょうのような夏のはじまりの一日は 神さまが 果物として創造した一日だ だからあなたは どこか薄暗いところに 恋人といるのかもしれない きょうはなにも起こらない なぜならすべての犯罪者の休日だからだ ぼくがヘッドホンを外す頃には お祭りは終わっていて

          【詩】きょうはなにも起こらない

          【詩】昼でもあかるい月

          わたしに必要なのはリズム感覚だろうか それとも色彩感覚なのか いや 金銭感覚かな わたしには金がない そういえば金がない 考えてみれば金がない でもそんなこと言ってなんになる? きょうはいつも通りの一日だった いつもとすこし違ったのは 足の指の爪を切ったことだ でもそんなことはすぐに忘れてしまう わたしに必要なのは 水槽の底に沈めるのにぴったりなサイズの石 新しいティーシャツ 明晰夢が見られる装置 ほんとうはそんなものいらないんだけれどね わたしに必要なのは 昼でもあ

          【詩】昼でもあかるい月

          【エッセイ】エネルギーの放出

           ぼくは鈍感なのかもしれない。自分のかんじていることがよくわからないのだ。きのうは眠るのに時間がかかった。浅い眠りのなかで、ぼくは、友人に言われたことや、知り合いのことや、ツイッターのフォロワーが言っていたことを考えるともなく、考えていた。そして、自分が案外、他人のことを気にしていることをかんじた。ぼくは基本的には孤立して生きている。それなら別に他人のことを気にすることなんてない。それが孤立して生きることのいいところだ。  ぼくは、いま、ガルシア・マルケスの『族長の秋』を読

          【エッセイ】エネルギーの放出

          【詩】夜のハグ

          ぼくは夜のなかで名前をなくした ぼくは影になった ぼく以外のものも影になった 影になったぼく 影になったベッド 影になったテーブル 影になった冷蔵庫 影になったカーテン 影になった窓 影と 影が重なりあって すれ違って 混ざりあって 夜のなかで ぼくは幸せを見つけた それはいつか見つけるために 大事に隠されていた ぼくのための幸せだった 夜のなかで ぼくはぼくに戻った 夜は深く 夜は暗く 地球の半分くらい大きかったので ぼくの昼間の鋭い光を 寂しく震える涙のナイフを やさ

          【詩】夜のハグ

          【詩】半分透明

          半分透明になった ぼくは濁ることしかできない ぼくの血は 汚れることしかできない ぼくの涙は 海になることができない ぼくはどこまでも 中途半端に透き通る やさしさを疑う ぼくが あなたの鏡だと知ったときに 孤独を自覚する 薄暗い廊下で砕け散ってしまいたい それともぼくは臆病な兎になって 草原を駆けるのかな 人生の意味は 魂を 賭けることでしか生まれない あなたの瞳の虹彩が 運命の転がる ルーレットになる ぼくはあなたの 生きる意味になりたかった

          【詩】半分透明

          【詩】手触り

          ぼくはつまらない仕事をしている 仕事を終えて 部屋に帰ってくると 部屋にはやさしい気持ちがある 誰もいない部屋に向かって 小さな声で話しかける ぼくには話し相手がいないから ひとりでも話すことがある ぼくの話すことはどうでもいいことだ ぼくの話すことは単調な鳴き声だ 孤独にも手触りがあって 触れることができるということが ぼくを慰める 撫でることができるということが ぼくを生かす かなしいときに かなしいと言えないくらいには 弱っているときに すこしだけ明るい未来を想

          【詩】手触り