「語る」という種族
サンソン・フランソワという稀有なピアニストがいる。
彼の演奏をはじめて聴いた時期を正確には思い出せないのだけれど、10年以上も前のことだったように思う。
それはドビュッシーの「月の光」で、「なにごと?」というのが第一印象だった。
だって、全く「月の光」に聞こえない、というか、フランス音楽の響きにさえ聞こえなかったのだ。
ひとことで言えば、現実感。しっかりと地に足がついたような意志的な一音一音が、まるで宣言しているかのような発音だった。
ドビュッシーの響きの特徴として、浮遊感と