見出し画像

自分にぴったりのパン屋の始め方

2023年春。
小学校5年のときに初めて好きな子にバレンタインチョコを渡しに行ったときとと同じくらい緊張していた。
一度息を整えたら逆に緊張して話せない気がしたので、早歩きで到着、勢いを緩めることなくそのままインターホンを押す。

そこは、うちから自転車で5分ほどの距離にある小さなパン屋さん。
理由はわからないけど、1年ほど前から休業中となっている。

私は、パン屋の経営を挫折して4年ほど経っていた。辞めてすぐの頃は、もうパン屋はいいかなと思っていたはずだった。自宅で酵母を育ててパンを焼いたり、ママ友にパン教室をしてあげたりして、これでいいと思おうとした。

だけど日が経つほどに「私はやっぱりパン屋でありたい。パン屋であることが自分のしあわせなんだ」という想いが膨らみ続けた。
何度蓋をしても吹き飛ぶその想いの強さに我ながらあきれた。

もう一度、今度は楽しさを忘れずに、無理せずにしあわせに続けられる道を模索した。
まずは月に1回でもいい。パン屋である状態になろうと思った。
パン屋であるためには営業許可を取った工房がどうしても必要。
そこで「間借り」という形を検討し始めたとき、近所の閉業中のパン屋さんの存在を意識するようになった。

工房‥、使ってなさそうだな。使わせてもらえたりしないかな。そんなことを突撃で言ったら失礼だと思われるかな。悶々と考えたけど、ええい、聞いてみなわからん!!と決意したのだった。

少しして、インターホンの向こう側から「はい」と男の人の声がした。
さぁ、なるべく明るい口調で感じよくハキハキと。落ち着いて自分の言葉で。そんな意識をしながら軽い自己紹介と、事情を説明した。

すると、少し戸惑ったような反応のあとに「ちょっと待っててください」と言い、1分ほど待つと声の主の男性が表に出てきてくれた。

自分が初対面の人相手にこんなに図々しいお願いをする日が来るなんて。

そこから、1~2か月ほど、LINEでのやりとりが続いた。

店主さんは周りに相談し、「怪しいからやめとけ」と反対されたらしく、一旦は望みが薄くなった。怪しい女と思われたのか…ガーン。
他にネックとなったのは、動力の料金。
月に1回の使用であろうと、オーブンとミキサーを動かすためには動力の契約をしなければならない。これがけっこうかかるので、少ない営業日の売上でまかなうのは大変だ。
それならばと、もう一人、私の知り合いで間借り工房を探している方を呼んできて会ってもらったのだけど、双方の希望のすり合わせがうまくいかず。

ここは諦めたほうがいいかなと、別の道を模索し始めたころに、久しぶりにご連絡を頂き、色々な条件を再度すり合わせ、最終的には週3日、厨房をお借り出来ることに決まった。

こうして晴れて 2023年6月、パン屋JollyJollyが始動した。

間借りでまずはお店を始めてよかったなと思うことは、肩書きがあることで堂々といろんな場所に足を運ぶことが出来るようになったこと。

その結果、色んな新しい出会いに恵まれた。
起業仲間、パン屋仲間、小麦農家さんとも出会えた。

例え週1回しか焼いていなくても、「パン屋を始めようと思っている人」なのか「パン屋やってる人」なのかで相手からの見られ方も変わるし、それ以上に自分が堂々としていられたのが大きい。
たかが肩書き、だけど私のような気弱な人間にはとても大きかった。

思い通りにならなかった部分は、夫の会社に週5日出勤しているのを少し減らしたかったのだけど、減らせなかったこと。
そのため、10時の出勤時間までにパン焼きを終わらせて、販売は委託をメインとする形になっている。

週に1日、パン焼き上げ日の金曜日だけでも仕事を休みにして、お店をオープンして対面で販売したいなと思っていたけど、難しかった。

だけどそれで、じゃあどうしようか?と考えて動いた結果、委託販売料はかかるけれど自分の時間を使わずにパンを売ってもらえる形をある程度作れたので、結果オーライなのかもしれない。

時間が足りないので、パン作りに関しても、日本一時短なパン屋じゃないかなと思うほど、無駄を削ぎ落としている。
焼くパンはカンパーニュとバゲットに絞り込んでいて、製造〜片付けまで含めかかる時間は、水曜日30分、木曜日2時間、金曜日2時間ほど。
この形は、夫の会社の仕事を減らせていたら多分辿り着かなかった。

それに、会社でのお給料をパン屋の経費の足りない部分に充てて、無理せず、自分の心がそうしたいと思えることだけをやって、まずはそれでいいじゃないかと思えている。

イベント出店もたまにするし、直接DMでのやり取りでパンを買ってくれる人もいるのでお客様との接点はある。

委託販売がメインだと、説明不足になりがちだなと感じたので、自分でイベントをやってみたりもした。
酸味のあるパンを美味しく食べるコツをお伝えする会みたいなもの。マニアックな会なので、コアなお客様と出会えてとても楽しかった!


私が使わせて頂いている工房では、店主のお母さんと、伯母さんが「どうせ工房を稼働させるなら」と、週2日のドーナツ屋さんを始めた。
さらに、外で働いていた店主さんも、仕事を辞め、工房が空いている週2日、パン屋をまた開けようと思っていると教えてくれた。
どちらも、私の行動を見ていてやってみようと思えたと言ってくれて、なんかすごく嬉しかった。

ド緊張しながらインターホンを押したあの日がたった1年前とは思えない。すごく昔に感じるほど、この1年は楽しくてワクワクに溢れて、自分でも生き生きしてる。
パン屋以外に、コーチングという、やりたいことが出てきたり、もっともっと理想の人生を追求してもいいんだ、と自分にOKを出せるようにもなってきた。

パン屋の始め方、というタイトルなのに細かい情報やノウハウみたいなことは書いていないのだけど、期待したのに!とか、もしも何か知りたいことがあれば、聞いてください。
私もまだまだ道の途中ですが、めちゃくちゃ応援します。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?