おばあさんが徘徊してた


僕はコンビニバイト歴3年目突入、大ベテランの最低賃金野郎である。
ドレスコードもなんにもないし、当たり前だが色んなお客さんが日々集う場所。やばい人への対処も十人十色に対応できるようにもなってくる。ただの悪質クレーマーも、ただキレたいだけの人も、だるい絡みをしてくる人も、横柄なクズも、一通り許容範囲になってしまった。
先日、一緒に入っていたスタッフがレジでおばさんと何やら大きな声で長いこと話していた。またヤバい奴が来たんだろうと僕はレジに人が並んでいないか確認しながら薄情にも品出しを続けていた。変な人に当たるのも運だ。当たったらなんとか当人がまず頑張るしか無いと思っている。
チラッと顔を見た。短髪のおばあさんだった。ゆっくりと店をあとにした。事が済んだのだと思って無心で品出しを続けた。
数十分経って僕がレジをしているところに、同じおばあさんがまた入店し歩み寄ってきた。ヤバいと思った。一度逃げ切れたと思い油断していた。案の定話しかけられる。持っていた果物を二つ僕に差し出して、「どう?」と言う。
「……」
どうしようかな。
迷った。
まだこの人の全貌を分かっていない。どう出ればいいか分からない。
しばらく会話のラリーをしたが、会話は上手くできなかった。方角を聞いたり、駅の場所を聞いたりしてきた。時刻は21時を回ったいた。特に何の決着をつけたわけでは無いけど、おばあさんはまた出口へと歩いていく。
しかし外の出口の目の前で、ずっと立ち尽くしている。自動ドアだし、何度もドアが開いた。



そっかあ……


やばい客とばかり考えてフィルター越しに見ていたが、この人はもしかしたら、帰れないのかもしれない。
いつものヤバ客同様追っ払うような相手ではないのだ。にわかに冷静に思考が巡り、外に出て声をかけてみた。財布も身分証も携帯も持っていない。僕一人ではお手上げだった。
幸いこの店の近くに交番があるので、連れて行くことにした。
おばあさんは別に怒りっぽいわけでもなく、嫌な態度をとるわけでもない。ゆっくりと穏やかに、何度も同じ話を僕に聞かせた。
なるほどそうか、と少しずつ合点がいった。
ニュースでしか見たことなかったけど、本当にこういうことって身近にあるのかもしれないと少しドキドキしながら、あっという間に交番に着いた。
嗅ぎ分ける能力は持っていなきゃいけないなと思った。
おばあさんが無事帰れたことを祈る。





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