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完治が難しいがんの告知をどう行えばいいか、緩和ケア医が解説します【バッドニュースの伝え方】【医】#45

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「バッドニュースを伝える〜難治がん〜」です。

動画はこちらになります。

あなたは今までの診察の中で、患者さんにバッドニュースを伝える際に困ったことはありませんか?

進行がんであること、再発したこと、積極的抗がん剤治療の中止など、バッドニュースには様々な種類があります。バッドニュースを伝えることは難しいという話を、実際に私もよく聞きます。若いころは私もそうでした。

今日は、初めての患者さんにがんを伝えること、しかも難治がんであることを伝える際のお話をします。この記事の中では、具体的に何をどう伝えるのか、医師としてどのような配慮が必要なのかについてもお話します。

患者さんにどのようにバッドニュースを伝えればいいのかを悩んでいる人、もっと上手にバッドニュースを伝えたいと思っている人、これからバッドニュースを伝えるであろう研修医や医学生の方にも、ぜひ観ていただきたい記事です。

今日もよろしくお願いします。


「難治がん」告知の際に絶対に押さえなければいけないこと

結論から申し上げます。

完治が難しい難治がんを、初めての患者さんに伝えなければいけない面談では、多くのことを一度に伝えようと思わなくても構いません。

1. がんであること
2. 完治は難しい

最初はこの2つのことを伝えるだけで十分です。

治療法や治る見込み、あるいは場合によっては余命などの詳しい医学的な話は、そのあとでも良いのです。もちろん、急性白血病などで一日でも早く治療に入ることが必要な場合や、骨転移などで疼痛があり急いで症状緩和が必要な場合などは、そのことも同時に伝えることは必要です。

しかし、そのような急を要する場合以外は、患者さんのニーズも聞きながら、日を変えて話しても良いのです。なぜなら、患者さんは「がん」しかも「完治が困難」だと言われただけで大きな精神的ショックを受け頭が真っ白になり、そのあとのことは何も頭に入ってこなかった、と言われる方が多いからです。私は緩和ケア外来で、多くの患者さんからそういう話を聞きました。

繰り返しますが、初回の面談時に医療的な話を多くする必要はありません。それよりも意識しなければいけないことは、患者さんへの「気持ちへの配慮とつらさに共感する態度」です。

先ほども述べましたが、「難治がん」を伝えられた患者さんの多くは、ショックを受け頭が真っ白になっています。バッドニュースを伝えたあなたには、そうした患者さんの気持ちに配慮し、気持ちの表出があれば、その気持ちに共感する態度をとっていただきたいと思います。

以前ある患者さんが、「がんと言われた時、そのあと主治医が何を言ったかは全く覚えていませんが、最後にその先生から『つらい治療になるかもしれませんが、私も全力を尽くします、頑張りましょうね。』と笑顔で言ってくれたことだけは覚えています。その一言で救われた気持ちがしました。そのあとのつらい抗がん剤治療も乗りきることができたんです。」と教えてくれました。

皆さんもぜひ、患者さんへの思いやりのこもった言葉をかけてあげてください。

もう一つお伝えしたいことがあります。

それは、こうしたバッドニュースを患者さんに伝える際、どんなにベテランの医療者でも緊張するということです。

患者さんの人生が変わる重要な話です。伝える誰しもが、緊張して当然です。私も今でもバッドニュースを患者さんに伝える際は緊張します。でも、緊張していいんです。逆に緊張するなという方が難しいのです。緊張しないでうまく話そうと思うと、逆にさらに緊張するものです。「緊張しても良い」と受け入れることがむしろ緊張を和らげます。

私は、若い頃はとても緊張するタイプで、大事な話をしたり、人前で話したりするときは、緊張して何を話しているのか、分からなくなることが多かったのです。しかし「誰でも緊張するものだ、緊張してもいいんだよ。」と自分に言い聞かせるようにしたところ、だんだん緊張せずに話せるようになりました。

皆さんも、大事な話の時には、緊張しても良いと自分に言い聞かせて話すとうまくいくかもしれませんので、ぜひ参考にしてください。


難治がんを伝えるときのポイント

それでは難治がんの具体的な伝え方についてお話します。

1. 事前の準備

まず伝える場所の配慮が大事です。昔は先輩方が詰め所などの雑然とした場所で話をしていましたが、これはやめましょう。

大事な話なのですから、プライベートが保たれる、静かな場所を選んでください。
外来の途中や、終わった後でする場合も多いとは思いますが、誰にも聞かれないような配慮が必要だと思います。

また、時間を十分取ることも大事です。このようなバッドニュースを伝える場合、最低でも30分~1時間ほどの時間を確保しましょう。忙しい時間は避け、外来が終わった後や、自分の自由になるタイミングに時間を取るようにしましょう。

2. 面談時に気をつけること

もしあなたが患者さんと初対面なら、自分の名前を名乗り、礼儀正しく接しましょう。服装も襟を正し、患者さんに不快な思いをさせないように、身だしなみは整えてください。

大事な話なので、あらかじめご家族などの第3者の同席も勧めておくことは大事です。初回が無理でも、具体的な治療の話をするときなどには、必ずご家族も来てもらうようにしましょう。

また、患者さんが同意すれば、看護師などのスタッフが同席するのもよいでしょう。後で、スタッフによる精神的なケアも可能となるからです。

3. アイスブレイキング

面談を始める際は、いきなり病気の話題に入らないでください。

まずは、お互いの緊張を解く、いわゆるアイスブレイキングをしてください。これは患者さんのためでもありますが、あなた自身の緊張を解くためでもあります。

「今日はわざわざこんな時間に来てくださってありがとうございます。今日は蒸しますね、こんな日は寝苦しいですが、昨夜は寝られましたか。」などと聞いてください。

4. 患者さんの気がかりや病状認識を尋ねる

次に、患者さんの気がかりなことや、懸念を聞いてください。

「今何か気になっていること、ご心配なことはありますか。」と聞いてください。これらを聞くことで、患者さんが思っていることや、大事にしていることが聞けるかもしれませんし、患者さんにしても自分の思いを医師に伝えられたということで、気持が楽になることもあります。

さらに、患者さんが今自分の病気をどう思っているかといった、病状認識も聞いてください。例えば、

「前のクリニックの先生からどのように聞かれましたか?」
「病気のことをどう思われていますか?」
「病気のことをご家族で話し合われましたか?」

これらを聞くことで、患者さんが自分の病気をがんだと知っているかそうでないか、完治できるがんだと思っているかどうかなどが把握できます。

バッドニュースを伝えたあと、患者さんの気持ちに配慮する準備のためには、病状認識を聞くことは必要です。

5. バッドニュースを伝える

準備ができたと感じたら、バッドニュースを伝えてください。先ほども申し上げましたが、がんであることと、完治が困難であることは分けて伝えてください。
まずは「がんである」ことを伝えてください。

がんだと言われるだけでも、頭が真っ白になる患者さんは多くいます。そのため、「がんである」と言った後に、患者さんの表情や状態を観察してください。

その際、患者さんの気持ちに寄り添うことが大切ですが、詳しくは後でお話します。そして、がんだと伝えた後、少し時間をおいて完治が困難であることを伝えましょう。

完治が困難であることを説明する際には、医学的な内容も多いので、患者さんは容易に理解ができないことが多いです。それでなくてもショックで頭が真っ白になっている状態で難しいことは理解できなくなっているかもしれません。できるだけわかりやすい言葉で伝えるよう心がけましょう。

紙に書いて説明することも良いかもしれません。家に帰って、冷静になった時に見返すことで、理解できることも多いからです。ただ、ほとんどの人は一回で理解するのは難しいので、次の面談で治療方針の話をする際にも、もう一度改めて説明するようにしましょう。

6. 患者さんの気持ちに寄り添う

バッドニュースを伝える時にとても重要なことは、患者さんの気持ちに寄り添うことです。

多くの患者さんは、がんと言われ頭が真っ白になって、言葉が出ずに黙ってしまいます。沈黙の時間が流れます。その時、その沈黙に耐え切れず、あなたの方から声を掛けることはしないでほしいのです。

患者さんにとって、その沈黙には意味があります。患者さんの頭の中には、整理できない様々な事柄が渦を巻いているかもしれません。仕事のこと、家族のこと、治療費のこと、さらには自分は死ぬかもしれない、ということなどです。

患者さんが話しだすのを、やさしく待ってあげてください。あるいは、患者さんが顔を上げてあなたの目を見た時には、あなたから声を掛けてもよいでしょう。例えば「驚かれましたよね。」などと言ってあげてください。

また、患者さんが「まさか自分ががんになるなんて信じられない。」と言ってきたとき、あなたは「そうですよね、まさか自分ががんになるなんて信じられませんよね。」と返してあげてください。これは「反復」というコミュニケーションのスキルです。患者さんの言葉を「反復」することで、患者さんは気持をわかってもらえたと思えます。

そして「そんな風に思われるのは、あなただけではありません。多くの患者さんもそのように思われます。」と言ってください。これもコミュニケーションのスキルで、「保証」と言っています。患者さんは、自分だけではないと思うことで安心します。医師のあなたから「保証」してあげてください。

こうしたあなたの対応で、患者さんは少しずつ気持ちが穏やかになっていくでしょう。

7. 付加的情報に関して

以上のことを患者さんに伝えられたら、初回の面談は終了としても良いと思います。その時には、「治療などの詳しい話は次回の面接でお話したいと思っています。その際には、できるだけご家族も同席していただきたいと思います。」と伝えましょう。

しかし、患者さんがさらに質問してきたり、あなたがもう少し話せると判断した時には、さらに話を続けても良いと思います。具体的には、あなたの側からは、治療法、症状緩和、余命、セカンドオピニオンなどでしょう。また患者さんの側からは、仕事、家庭、治療費のことなどを聞いてくることが多いです。

これらのことは、付加的情報と言われています。

繰り返しますが、あくまで付加的情報なので、これらのことを話題にするのは、急ぐ場合や患者さんの希望があるときを除いて、初めての日に必ずしなければいけないことではありません。次回にしても良いのです。

面談を通じて大事なことは、患者さんに「何かご質問はありませんか?」と聞くことです。医師の方から聞いてあげないと、聞きたいことも聞けない患者さんは多いからです。患者さんに質問を促し、質問してきたら、その質問に答えてあげてください。

ただ先ほども言ったように、患者さんはがんだと言われ、完治が困難だと言われショックを受けています。ここで聞いたことも忘れているかもしれませんので、大事なことは次回の面談でもう一度話すようにしましょう。

8. 面談の最後に

面談の最後はとても大事です。全力で治療・サポートをすること、わからないことは何でも聞いてよいこと、などを言ってあげてください。

冒頭でも言いましたが、医師の最後の言葉が、患者さんの頭に残っていることは多いのです。「一緒に頑張りましょうね。」と言って、面談を終えてください。

以上、バッドニュースの伝え方、難治がんを伝える時の大事なことについて話してまいりました。

しかし、やりかたはわかっても実際に自分で話してみなければ、身には着きませんよね。いくら泳ぎ方を頭でわかっても、実際に水に入って自分で泳いでみなければ泳げるようにはならないことと同じことです。自分で直接やることが一番の勉強だと思います。

緩和医療学会・サイコオンコロジー学会で、コミュニケーションスキル・トレーニング:CSTというものをしています。模擬患者さんを相手に、難治がん、再発、積極的抗がん治療の終了を伝えるなどのトレーニングをしています。

ホームページを載せていますので、皆さんもぜひ参加してみてください。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「患者さんに難治がんであることを伝える時、治療法などたくさんの情報を一度に伝える必要はありません。最初は「がんであること」「完治は困難であること」を伝えるだけで十分です。患者さんの気持ちに配慮し、つらさに共感する態度が重要です。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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