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患者さんのために終末期の余命をどのように伝えたらよいのか【医】#18

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「終末期の余命」です。今日は若い治療医の先生にお話します。

動画はこちらになります。



皆さんは、積極的抗がん治療を終え、終末期を迎えた患者さんに、余命を伝えていますか?

「命の限られた患者さんに、余命を告げるなんて、死刑宣告をするようでつらくて言えない」という先生もいるでしょう。

「残された時間が短いからこそ、悔いなく過ごしてほしいと思って余命を言っています。でも結構外れてご家族に恨まれた経験があります」という先生もいるかもしれません。

確かに正確な時間を予見することは、難しいと思っている先生方も多いと思います。今日の記事では、終末期の余命についてお話します。

この記事を見ることで、終末期の余命をかなり正確に知る方法がわかるようになりますのでぜひ最後までご覧ください。今日もよろしくお願いします。


終末期の余命を伝えることの大切さ

終末期の患者さんに残された余命を告げることについては、様々な意見があると思います。

「言うべきではない」と思っている医師も多くいます。その中には、かわいそうだからという意見もあるでしょう。

「神様でもあるまいし、医学的に余命はわからないよ」と思っている先生もいるかもしれません。

以前、記事にも書きましたが、治療している最中の方の余命は正確に言い当てることはできません。

しかし私は終末期の余命については、かなり正確に知ることができるし、できるだけ患者さんに伝えたほうが良いと思っています。なぜなら、患者さんが、自分に残された時間を自分らしく有意義に使うためには、余命を正確に知る必要があるからです。

多くの患者さんは終末期を迎えた時「残された時間の中で、自分がどれくらい元気でいられるのか」「自分にとって大事なことができるのか」と考えています。また、自分の身体が悪くなったとき、どのようなケアが受けられるのかとか、最期をどこで過ごすのかということも、終末期の患者さんにとっては大きな関心事であり、自己決定をしたいと思っている人は多いのです。

そんな患者さんたちは、主治医から、自分に残された時間を聞きたいと思っています。私は、主治医である先生方には、勇気をもって患者さんに余命をお伝えして、これからどう生きるかの手助けをしていただきたいと思っています。

そこで、皆さんに知っておいてほしいことが1つあります。それは、終末期の患者さんの余命を、主治医は長く見積もる傾向があるということです。

考えてみてください。1~2か月程度しか残された時間がない患者さんに、余命は半年~1年です、というと、患者さんの終末期の最期の良い時間を奪ってしまうことになりかねません。

ではなぜ、主治医は余命を長く見積もる傾向にあるのでしょうか。経験不足、知識不足でよくわかっていない場合もあります。しかし、長く患者さんと治療を共にしてきた主治医ほど、患者さんに余命をつい長めに伝えてしまうことはないでしょうか。

これは、「余命が短いというと、患者さんが悲しむのでかわいそうだ」と思うからかもしれません。また逆に「患者さんが悲しむ姿を自分が見たくない」と無意識に思っているからかもしれません。

そしてこれも無意識にですが、「苦楽を共にしてきた患者さんに少しでも長く生きてほしい」と思うバイアスがかりやすいことも事実です。これを、主治医バイアスと言う人もいます。

私もホスピス時代に主治医だった時はそうでした。むしろ看護師の方が正確に予測できたこともしばしばありました。

実は、患者さんのことを思う医師ほど、そうなりやすいのです。しかし、これは本当は患者さん・ご家族のためにはなりません。患者さん・ご家族のためを思うなら、終末期の余命を正確に知ってもらい、少しでも良い時間を長く過ごしてもらうことが重要です。

終末期の余命を正確に予測し、患者さんに伝えて、最期まで自分らしく生きることを援助してあげてください。


終末期の余命を正確に知るために

正確に余命を知るにはどうすればいいのか教えてほしい、という声もあるでしょう。

実は、経験が少ない医療者でも簡単に使えて、ある程度正確な予後がわかるツールがあります。PPI(Palliative Prognositic Index)という予後予測ツールです。

全身状態・食事・呼吸状態・むくみ・意識がPPIの予後予測の指標です。

例えば、

横になることが多くなってくること。

食事量が減ってくること。

息が苦しくなること。

むくみや腹水が強くなること。

意識がぼーっとする状態が多くなってくること。

これらにはそれぞれ点数があり、合計点が高いほど最期が近いと言えます。(1か月以内、週単位)

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『専門家を目指す人のための緩和医療学』南江堂

PPIの中の1つの指標にPPS(Palliative Performance Scale)というものがあります。

PPSとは、患者さんの全身状態を表す指標です。正式にはPPSを出すには、細かく状態を点数化する必要があるのですが、私は簡易的に次のようにPPSを出しています。

常に寝ている状態をPPS:10~20
寝ている時が多い状態をPPS:30~50
ほとんど起きている状態をPPS:60以上とします。
そしてそれぞれを4点、2.5点、0点と計算します。

また、食事量が数口以下だと2.5点、食欲が落ちていれば1点、正常なら0点です。
浮腫があれば1点、なければ0点。

安静時の呼吸困難があれば3.5点、なければ0点。

最後にせん妄があれば4点、なければ0点です。せん妄の評価は難しく、可逆性のせん妄は点数に入れないことになっていることに注意してください。

合計点が6点以上となれば、余命3週未満、4点以上なら6週以上あるとされています。このPPIを使えば大まかに余命がわかると思います。

まだ慣れていない人は、これらのことを点数化することは難しいと思います。

これらのことに慣れていくためには、始めは週に最低2~3回は点数化していくことが大切だと思います。そのうち慣れてきて、点数化しなくても患者さんの予後を予測できるようになると思います。

次に熟練した緩和ケア医や看護師が、終末期の余命を見積もる別の方法についてお話したいと思います。それは、月単位・週単位・日単位・時間単位で余命を考えることです。実は、その方法が余命を判断するのに一番実践的なのです。

例えば、患者さんの状態がひと月前と違うときは、月単位の変化と考えます。具体的には、先月に比べて痩せてきた、食欲が減った、活動量が減った時に、そう判断します。そして、週ごとに変化すると週単位、毎日変わってきたら日単位という感じに患者さんの状態が変わってきます。

お父さん がん図4

このグラフは、がんに特有です。変化のスピードが重要なのです。

やりたいことをしたいのなら、月単位くらいの時にするべきです。週単位、日単位になるとやりたいことがあってもできなくなります。

月単位の変化だと思った時点で、患者さんに余命をお伝えください。


終末期の余命を伝えるために

最後に余命をどう伝えればいいのかについてお話します。

大事なことは、患者さん・ご家族の気持ちや心情に配慮して伝えることです。患者さん・ご家族の両方に同席してもらって伝えてください。余命など、死を連想させる話は、自分一人で聞くことは耐えられないと感じる患者さんが多いからです。

しかし、患者さんが聞きたくないと言い、ご家族は知りたいといった時は、ご家族だけに伝えることもありますし、逆もあります。そこでのポイントは、なぜ知りたくないかを聴くことです。それを十分理解してください。

さらに、なぜ医師であるあなたが、終末期の余命を患者さんにお話したいのかということも伝えなければいけません。

患者さんが聞きたくないと言った場合、無理強いをせず、伝えないままでも、終末期を良い時間にするためにはどうすればいいか考えてください。そして後で、「聞きたくなったらいつでも聞いてください」と伝えておくことが大事です。

また、面談にはできるだけ時間をとってあげてください。それくらい、この話をすることが大切なことだと、患者さんに認識してもらいましょう。

伝える際には、余命何か月といった「中央値」の数字を単に告げるのではなく、先ほど述べた月単位、週単位など幅をもってお伝えください。

例えば、今10月で、余命2~3ヶ月の患者さんに対しては、「余命2月です」と言わずに、「年を越せて、お正月が迎えられることを期待していますが、もしかすると難しいかもしれません」と私なら伝えます。

そして残された時間で、何をしたいのかを一緒に考えるという態度が必要です。

例えば、患者さんが大好きな娘と最期まで家で元気に暮らしたいという目標があれば、その目標をかなえるために、在宅で緩和ケアをすることが最善であるといった風にです。

以上、患者さんの余命を正確に知り、伝えることの重要性についてお話してきました。

患者さん・ご家族が最期まで悔いなく過ごすため、あなたができることをしてほしいと心から思っています。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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