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治療医の先生へ!医療用麻薬を使うかどうかのアセスメントについて解説します #55

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族の全ての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「医療用麻薬が効かない時」です。

動画はこちらになります。

このチャンネルでは医療用麻薬に関して何度か発信しています。

私は、医療用麻薬は正しく使えば痛みを取ってくれる良薬だと思っています。

しかし、正しく医療用麻薬を使うことはなかなか難しいとも思っていますし、治療医の先生から相談を受けることも多いです。

例えば、がん患者さんが痛みを訴え、医療用麻薬を使ったが、効果が無い。理由がわからない。今後使用するのに自信がない。という声もよく聞きます。

また、医療用麻薬が効く痛みと効かない痛みがあると研修会などで教えてもらったことはある。しかし、具体的にどの痛みに効くのかがわからない。

などと思っている方も多いのではないでしょうか。

今日はそのように困っている治療医の先生に対して、基本的緩和ケアとして、がん患者さんが訴える痛みのアセスメントを理解する。そして、どういうときに医療用麻薬を使うかのお話をしたいと思います。

本日もよろしくお願いいたします。


がん患者さんの痛みを理解する

あなたの前に、痛みを訴えるがん患者さんがおられます。まず、消炎鎮痛薬を使ってみました。それでも十分には痛みは取れません。

では次に、医療用麻薬を使うことを考えるかもしれません。確かに、WHOの鎮痛ラダーでも、消炎鎮痛薬が効かない時、次は弱オピオイド、あるいは強オピオイドを使いましょう、と言っています。もちろん使用することはやぶさかではありません。

しかし、その前にすることがあります。

それは、その痛みは本当に医療用麻薬が効く痛みか。そもそもその痛みはがんの痛みなのか。ということを考えることです。

がん患者さんの痛みは、がんではない痛みもあるかもしれません。

がん患者さんの訴える痛みは様々です。がんが原因で起こる痛みもあるし、そうではない原因で起こる痛みもあります。

残念ながら、がんではない痛みに、医療用麻薬が効くことはほとんどありません。
また、がんが原因で起こる痛み、いわゆるがん性疼痛の中でも、医療用麻薬が効きにくい痛みもあるのです。

すなわち、患者さんの痛みには、様々な原因で起こる痛みがあり、医療用麻薬が効く痛み、効かない痛みがあるのです。

痛がっている患者さんを目の前にして、何とかして早くその苦痛を取ってあげたいと思うのは非常にわかります。でもその前に、その痛みは何の痛みだろう、その痛みに効く鎮痛薬は何だろう、とまずは考えてください。

闇雲に医療用麻薬を処方しても、それが効く痛みでなければ効果はないですよね。

しっかりと痛みのアセスメントをして、適切な鎮痛薬を選択することが重要です。

この記事をみることで、治療医の先生方が以下の点ができるようになっていただければ幸いです。

ポイントは3つです。

①痛みのアセスメント
②医療用麻薬が有効か?
③迷ったらコンサルト

今日はこの点について学んでいただき、皆様の明日からの診察のお役に立てれば幸いです。


がん患者さんが訴える痛み

先ほどお話したように、がん患者さんが訴える痛みは様々です。まずはがん患者さんが訴える痛みについて分類して理解していきましょう。

1. がん性疼痛
がんにより引き起こされる痛みのことをがん性疼痛といいます。

これは、がんが内臓や神経を破壊したり、圧迫、牽引すること、さらには血管の圧迫などにより生ずる痛みです。

この痛みは医療用麻薬で積極的に取ってあげる必要があります。

2. がん治療によって生じる痛み
がん治療によって生じる痛みがあります。

これは手術後の傷跡の痛みや、抗がん剤治療の副作用による痛み、さらには放射線療法の副作用による痛みがあります。これらはいずれも神経障害が原因であることが多いです。

化学療法後の末梢神経障害は長期にわたって痛みが続くことがあります。このことは以前の記事で詳しく話しました。リンクを貼っておきますので参考にしてください。

これらの治療には一般的には医療用麻薬は使いませんが、治療中など使用すれば効果があることがあります。ただし、むやみに使うとケミカルコーピングを起こすこともあるので、医療用麻薬を使う際には専門家に相談してください。

3. 消耗や衰弱に伴って起こる痛み
消耗や衰弱に伴い起こる痛みもあります。

これは、筋肉や関節の委縮や拘縮で起こる痛みのことです。

がん患者さんはがんの影響で栄養不足になり、やせることが多いです。いわゆる悪液質の状態となると、筋の委縮が起きます。また長期臥床などが原因でも筋委縮が起きます。その状態で無理に動かすと筋肉、筋膜の慢性的な痛みが起こります。それを筋・筋膜性疼痛といいます。

痛みがあるため、体全体が緊張し二次的に筋肉痛を起こすこともあります。更には長期臥床が続くと褥瘡が発生し、これも痛みを起こします。

4. がんとは無関係な痛み。
がんとは無関係な痛みもあります。変形関節症、脊椎ヘルニア、すべり症などの整形外科的な病気、さらに胆石、胃潰瘍でも痛みが出てきます。

まとめると、

①がん性疼痛
②がん治療によって生じる痛み
③消耗や衰弱に伴って起こる痛み
④がんとは無関係な痛み

がん患者さんが訴える痛みには基本的にはこの4つの痛みがあります。

治療医の先生方には、基本的緩和ケアとして、これらの痛みが区別できるようになること、即ちアセスメントができるようになっていただきたいと思います。


痛みのアセスメントをする

がん患者さんの痛みの種類についてお話をしてきましたが、どのようにその痛みを判別すれば良いのでしょうか。それでは、痛みをアセスメントする方法について具体的にお話します。

①患者さんに痛みを聞く
まず、痛みの部位、性状、強さ、パターンを聞いてください。痛みはどこにあるのか、その痛みはどんな痛みなのかを患者さんにまず聞いてください。

ずきずきする、どーんと重たい、ひりひりする、電気が走ったような、などのように患者さんに表現してもらいましょう。

ただ、痛みをうまく表現できない患者さんも多いので、こちらから先ほどのようなことを言ってみて答えてもらえればうまくいくことがあります。

痛みの強さは数字で言ってもらいましょう。NRSスコアなどを使えば良いですね。これは今後痛みが良くなっていったときの客観的評価にも使えます。

パターンも大事です。ずっと、時々、急に痛いのか、動いたとき痛いのか、夜が痛いのかなどです。パターンを知ることでどんなタイプの薬を使えばいいのかがわかります。

②身体診察をする
次に痛みの部位の身体診察をしてください。これは必ずしてください。

身体診察は患者さんと触れあうコミュニケーションになっていることも多いです。ここでは詳しく説明はしませんが、身体診察からは、痛みをアセスメントするための様々な情報が得られます。

③画像検査
痛みの部位について画像検査も必須です。

がん性疼痛の原因になっている病変は多くの場合、画像に現れます。もし無いのなら、非がん性疼痛の可能性が高いと言えます。

④診断
そして最後に診断です。がん性疼痛なのか、がんとは関係のない痛みなのかを判別してください。


がん性疼痛の性状・分類・特徴

では、がん性疼痛は具体的にどのような痛みなのでしょうか。

がん性疼痛は、侵害受容性疼痛である内臓痛、体性痛と神経障害性疼痛の3つに分類されます。

①内臓痛:内臓痛は、がんが周囲の組織や内臓に浸潤して生じる痛みのことです。ややあいまいで鈍い痛みと表現されることが多いです。膵がんが周りに広がったときの痛みなどが代表的です。手のひらでこの辺と表現されることが多いです。これは医療用麻薬や消炎鎮痛剤が良く効きます。

②体性痛:体性痛は、骨転移など痛みの場所がはっきりした痛みです。指先でここ、と表現されることが多いです。動くとズキッと痛みますと言われます。Nsaidsや速放型の医療用麻薬で対応します。

③神経障害性疼痛:神経障害性疼痛は、腫瘍が神経を傷害して起こす痛みで、その神経の支配領域が痛みます。痛みの性状は、ヒリヒリ、電気が走ったような、とか、痺れがあるとも表現されます。腰椎転移があり、その神経障害性疼痛ならば、患者さんの多くが、太ももをさすりながらここが痺れます、といった表現をします。この痛みには医療用麻薬だけではなく、鎮痛補助薬といわれる薬剤を併用しないと取れないことが多いです。難治性のことが多く、緩和ケアチームなどの専門家にコンサルトされることをお勧めします。

治療医の先生方には、がん性疼痛のうち、侵害受容性疼痛である内臓痛、体性痛に関しては正しくアセスメントをして、正しい鎮痛薬を使っていただきたいと思います。

神経障害性疼痛に関しては、アセスメントはできてほしいですが、治療に関してはコンサルトしてください。


非がん性疼痛の診断・治療・ケア

もちろん痛みには、非がん性疼痛の場合もあります。非がん性疼痛の診断、治療、ケアについて筋・筋膜性疼痛を例にお話します。

筋・筋膜性疼痛の痛みは頭痛、背部痛が多い印象です。そして画像には当然表れません。診察すると当該部位に筋把握痛が認められます。触診で、ある程度強く抑えて、痛みを再現してあげてください。患者さんと会話しながら、ここですね、といいながら進めてください。ご本人はがんの痛みと思っていますから、筋肉の痛みと思うと安心することも多いです。

非がん性疼痛の原因は、先ほど申し上げたように、がんの進展に伴い、消耗や衰弱により筋肉や関節の委縮などによるものです。生活習慣、心理的要因も加わり、悪化することが多いです。

非がん性疼痛の治療は、

1.消炎鎮痛薬、抗うつ薬、抗不安薬などの薬剤 
2.麻酔科の先生にお願いしてブロック注射をしてもらう
3.マッサージやお風呂で温めるなど血行促進によるケア

このようなことが有用なことも多いです。

非がん性疼痛の診断、治療については、ご自分でできれば良いですが、わからなければこれも専門家に任せていただければ幸いです。


がん患者さんの痛みを見分ける

今まで、がん患者さんの訴える痛みにどう対処すればよいかをお話してきました。

大事な点をもう一度まとめます。

痛みのアセスメント:痛みをしっかりアセスメントすることです。がん性疼痛なのか、非がん性疼痛なのかを区別することです。

医療用麻薬が有効か?:次に、がん性疼痛であっても、医療用麻薬が良く効く痛みなのか、効きにくい痛みなのかを見分けることです。

迷ったらコンサルト:そのうえで自分で対処できるかどうかの判断をしてください。できないと思ったら、緩和ケアチームなどの専門家にコンサルトをしてください。

この3点を押さえることは、基本的緩和ケアの第一歩となります。ぜひこの3点を医療用麻薬を投与する前に考えてみてください。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん、ご家族、医療者向けに発信をしています。

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さようなら。

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