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【医】緩和ケアチームに紹介が必要な患者さんをどのように見つけるか #59

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「患者さんの気持ちのつらさ①:対処が必要な患者さんの見つけ方」です。

動画はこちらです。

医療者の皆さん。とりわけ、がん治療をしている主治医の先生方。気持ちがつらそうながん患者さんに対して、あなたはどうしますか?

がんだからつらいのは当たり前だ、頑張って良くなるように励ますべきだ、と思う方もいるでしょう。気持ちがつらいというのだから、まずは話を聞いてあげようと思うけど、どう聞けば良いか分からないと思われている方もいるかもしれません。
あるいは、私は患者さんから気持ちがつらいなんてことは言われたことがない、と言われる方もいるかもしれません。

気持ちがつらそうながん患者さんがおられるとき、あなたはどうしますか?という私の問いに対する、先生方の反応は様々だと思います。気持ちのつらそうな患者さんに、自信を持って対応できる先生は少ないのではないでしょうか。

基本的に、がん患者さんは多かれ少なかれ、気持ちのつらさを持っています。でも、その中で専門家に紹介しなければいけないケースを見逃すと、うつや適応障害になったり、最悪の場合、自殺に至るケースもあります。専門家に紹介するまでもないケースでも、主治医のあなたが基本的緩和ケアをすることで、患者さんは気持ちのつらさが和らぎます。

これから、がん患者さんの気持ちのつらさについて、

①専門的緩和ケアに紹介しなければならない患者さんの見つけ方

②基本的緩和ケアの方法、専門的緩和ケアへの紹介の方法

③希死念慮のある患者さんの見つけ方と対処法、について、3回に分けて発信いたします。

ぜひ3回ともご覧になってください。今回は、専門的緩和ケアに紹介しなければならない患者さんの見つけ方です。

本日もよろしくお願いいたします。


患者さんの気持ちのつらさとは

がん患者さんの気持ちのつらさとは、精神的な苦痛が、軽いものから、重いものまで、幅広いものがあります。軽いものですと、悲しいとか、心配であるとか、恐れがある、などの通常の心理反応で、一般の医療者でも扱えます。

一方、重くなると、うつ病、適応障害と言った病的な状態となり、緩和ケアチーム、心療内科、精神科による専門的な対応が必要になってきます。

がん患者さんは多かれ少なかれ、気持ちのつらさを持っています。ところが、患者さんの方から、主治医の先生に精神的なことを話すのは、実はかなりハードルが高く、ほとんどないのです。

私の経験上、特に、希死念慮を持っているような患者さんほど、自分の気持ちを話さない傾向があると思います。ですから、気持ちのつらさは、医療者から患者さんに聞いてあげることが大事なのです。

基本的に、がん患者さんは、気持ちのつらさを持っていると思って、患者さんのつらさを見つけてあげてください。そして、緩和ケアチームなどの専門家に紹介しなければいけないケースを除いて、基本的緩和ケアとしての対処は、主治医のあなたが患者さんのためにしてあげてください。

主治医が、患者さんの気持ちのつらさに気付き、対処するということは、患者さんとの信頼関係を深めることになります。その結果、治療効果も高まります。

そして、患者さんは、主治医のあなたが、気持ちのつらさに気づいて、対処しようとすることが何よりもうれしいのです。ですから、私はすべての先生に基本的緩和ケアをマスターしてほしいのです。


専門家に紹介が必要な患者さんを見つける方法

日本のがん患者のうつ病の有病率は14%、適応障害の有病率が34%であったという報告があります。一般人のうつ病有病率は7.5%、適応障害は5~20%と言われているので、がん患者さんの、うつ病や、適応障害になる率は倍近くあります。

しかし、がん患者さんの、うつ病や適応障害は見逃されやすいという事実があります。ですので、しっかりアセスメントする必要があるのです。

さらに、がん患者さんの気持ちのつらさは様々な悪影響をもたらします。

患者さんの全般的QOLが低下します。

がんに対する治療意欲を奪います。

「死にたい」という思いが強まり、最悪の場合自殺に繋がります。

がん患者さんの自殺は、一般の人の約2倍と言われています。また、患者さんの気持ちのつらさが強まると、ご家族の気持ちのつらさも同様に強くなります。

気持ちのつらさに対処することで、患者さんや、ご家族を助けることになるのです。

それでは、どんな状態のがん患者さんが、気持ちがつらくなりやすいのでしょうか。やはり、進行・再発がんの患者さんが多いです。進行・再発がんの診断直後には自殺率が高まると言われています。

痛みなどの身体症状のコントロールができていなかったり、全身状態が悪くなると、気持ちがつらくなりやすいことが多いです。また、比較的年齢が若い人、神経質な性格の人、うつ病などの精神疾患の既往がある人、身寄りがないなどの、社会的サポートが乏しい人は、気持ちがつらくなりやすいと言われています。

気持ちのつらさをしっかりとアセスメントをして、対処する必要があるのです。

それでは、患者さんの気持ちのつらさを、どう聞いていけばよいのでしょうか。
私がいつも行っている方法をお伝えします。

私は、いきなり気持ちのつらさを聞くのではなく、「調子はいかがですか?」「今日の体調はどうですか?」とまずは、オープンクエスチョンで、聞くようにします。

次に、少しずつ気持ちのつらさに焦点を絞ります。例えば、「看護師さんから聞いたのですが、最近気持ちがつらくなっているんですか?」とか、「不安に感じていることは無いですか?」などと聞きます。

患者さんから、「気持ちがつらい」と言われたら、次に、専門的緩和ケアが必要かどうかの判断が必要になります。専門的緩和ケアまでは必要ないと判断できた場合は、主治医のあなたが基本的緩和ケアで対処してあげてください。

その方法は次回の記事で詳しく説明します。

今から、専門的緩和ケアが必要かどうかの判断をするための、2つの質問をお教えします。とても大事ですので、ぜひ、覚えておいてください。

1つ目は「1日中気持ちが落ち込んでいませんか?」

2つ目は「今まで好きだったことが楽しめなくなっていませんか?」

1つ目の質問は、憂うつ気分に関する質問で、2つ目の質問は興味の喪失に関する質問です。どちらも、うつ病の診断基準の中の質問内容です。

このどちらかがあれば、患者さんの気持ちはかなりつらくなっています。この状態は基本的緩和ケアではなく、専門的緩和ケアの治療が必要です。緩和ケアチームなどの専門家に紹介してください。

もう1つ、専門的緩和ケアが必要かどうかをアセスメントする方法があります。
それは、患者さんに質問紙を渡して記入してもらう方法です。最近では、多くのがん診療連携拠点病院で行っている方法です。

私たち専門家は「つらさと支障の寒暖計」と言っています。

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疼痛のNRSスケールと同様に、患者さんに、点数を0から10までつけてもらいます。気持ちのつらさと、それによる生活の支障について、0がない、10が最高にあるとして、記入してもらいます。

つらさが4点かつ、支障が3点以上の場合、対処が必要です。緩和ケアチームなどの専門家に紹介してください。具体的な紹介の方法については、次回の記事で詳しくお話する予定です。

このように、がん患者さんの気持ちのつらさが、専門家に紹介しなければいけないのかどうかの判断は、治療医の先生にやってもらいたいことです。そして、その判断そのものが、基本的緩和ケアなのです。ぜひ、基本的緩和ケアをマスターしてください。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん、ご家族、医療者向けに発信をしています。

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