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がん終末期の持続性・難治性しゃっくりには要注意!~個別の治療法・ケアが重要です~【医】#1

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「終末期の症状~しゃっくり~」です。

動画はこちらになります。

皆さん、しゃっくりは経験したことがありますよね。でもしばらくすると、止まります。それが、1日中続くとどうでしょう。さらに何日も止まらないとしたら。想像するだけでつらいですよね。

ところが、終末期では、このしゃっくりが止まらなくなる症状が出ることがあるのです。

今日は、がんの終末期に起きる、止まらないしゃっくりについてお話します。

この記事を見ることで、持続性・難治性のしゃっくりは、患者さんにとってとてもつらい症状であるということを知り、それに対する治療・ケアに向き合う医療者が増えたらうれしいです。

今日もよろしくお願いします。


しゃっくりで鎮静?

まずは、私の忘れられない患者さんのお話をします。私がまだホスピスで働き始めた頃です。食道がんで70代の男性の患者さんでした。

ホスピスに入院してから、しゃっくりが出てきました。はじめは、私も、本人もいずれ止まるであろう、と思っていましたが、数日たっても止まらないのです。

しかし、効くだろうと思う薬剤を使いましたが、全く効果がありませんでした。CT検査をしてみたところ、腫瘍が横隔膜に達していました。その刺激でしゃっくりが止まらないのか、と私は思いました。

ある日、担当看護師が、彼が窓から外に出ようとしているところを発見しました。
彼はしゃっくりが苦になり、自殺を図ろうとしたのでした。止まらないしゃっくりは、彼にとって死ぬほど苦しいものだったのです。

私は彼に、点滴薬で寝ることを提案しました。彼は同意し、夜間のみベンゾジアゼピン系睡眠薬の点滴をしました。そのことで夜は寝られるようになりました。寝ている時が唯一幸せ、と彼は言いました。

しかし、昼間のしゃっくりは止まりませんでした。そして、最期は24時間持続鎮静を行い、その後彼は旅立ちました。

終末期の症状としてのしゃっくりは、本当に難治性でとてもつらいものであり、最期は鎮静が必要なほどだということを、彼から教わりました。


終末期の持続性しゃっくり

しゃっくりは、ほとんどの場合は数秒~数日以内に止まる一過性のもので、まず問題とはなりません。私たちの多くが経験することです。

一方で、48時間以上持続するものを持続性しゃっくり、1ヵ月以上持続するものを難治性しゃっくりと分類します。終末期のがん患者さんの約4%に起こるとも報告されていて、女性よりも男性で生じる割合が高いそうです。持続するしゃっくりは、患者さんに多大な苦痛をもたらします。

終末期のがん患者さんのしゃっくりの原因として多いのは、胃の膨満です。 膨満した胃が迷走神経を刺激することで起こります。次に多いのは腫瘍による横隔神経の刺激です。はじめに私がお話した患者さんの原因はこれでした。

持続するしゃっくりは、息をしづらくし、会話・集中力・食事などの日常生活に悪影響を及ぼします。さらに倦怠感・不眠・疼痛などの症状を悪化させます。その結果、全身の衰弱を促進し、精神状態も悪化します。私が先ほどお話した患者さんのようにうつとなり、自殺を考えるようになる人もいます。

とくに、残された時間が限られてきた終末期の患者さんにとって、持続するしゃっくりにより大切な時間が奪われるとしたら、本人はもちろんご家族やケアをする医療者にとってもつらいものになってしまいます。

この持続性・難治性しゃっくりのスタンダードな治療法は、実は残念ながらありません。患者さんと相談しながら、個別の治療法・ケアを考えるしかないのです。

スタンダードな治療がなくても、患者さんに寄り添いながら、患者さんの苦痛をしっかりと受け取り、その時できることを考え抜いて、患者さんのために薬物療法・ケアを模索し続けましょう。


しゃっくりに対するケア

それでは、この持続性・難治性しゃっくりのケア・薬物療法についてお話します。
ケアとしてまず大事なことは、患者さんの姿勢です。座る時背中が丸くなって、横隔膜や胸郭が圧迫されることで誘発されやすいので、座位になって食事をとる時に姿勢をよくするように気を付けましょう。

排便の際は、いきむことで、腹圧により横隔膜を圧迫しないように注意しましょう。また、便秘にならないようにすることも大切です。

冷たいもので、のどを冷やすことも良いようです。冷たいタオルを首に巻いたりすることは有効です。冷水を飲んだり、かき氷を食べたり、冷水で口腔内を口腔ケアする、などの方法も良く取られます。

また、炭酸飲料を飲みすぎると、胃が拡張してしゃっくりを起こしやすくなります。終末期に患者さんは口喝で、炭酸飲料を飲みたがるので、ほどほどにしてもらうことも大事です。

以上ケアについて話しました。簡単なことのようですが、意外に効果もあることがありますので、お試しください。


しゃっくりに対する薬物療法

次に薬物療法についてお話します。一般的には、プリンペランが良く使われます。また日本では柿のへたを煎じて使いますし、市販薬としてエキス剤も販売されています。

その他には、保険適用薬としてはコントミンがありますが、鎮静作用が強く、使い方も難しいので、使用経験がない場合は、緩和ケア医などに聞いてから使ってください。

私は、リオレサールという薬をよく使います。筋弛緩作用があり、ある程度のエビデンスがあります。ただし、ふらつき、めまいの副作用に注意してください。さらにこれにリリカ、タリージェを併用することもあります。

ところが、難治性のしゃっくりには、これらの薬剤が全く無効という時もあります。そんな時には、キシロカインの持続投与が効くこともあります。さらには、ベンゾジアゼピン系であるミタゾラムの点滴も、夜間の睡眠を確保するという意味で使用しても良いと思います。

しかし、ベンゾジアゼピン系はしゃっくりを悪化させるという報告もあり、先ほどの例のように、何をしても患者さんの苦しみが取れない場合の最後の手段としてください。

いずれにしても、持続性・難治性しゃっくりは、患者さんにとってとてもつらいものであると知り、患者さんに寄り添う姿勢が大事です。時にはマッサージをしながら患者さんの話を聞いたり、散歩に連れて行って気分転換を図ることも重要です。

患者さん一人一人で対処法が変わることも多い症状だと思います。患者さんに向き合い、少しでも症状が楽になり、その結果大事な時間をその人らしく過ごせるような治療・ケアを考えましょう。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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