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【医】オンコロジーエマージェンシーの高カルシウム血症を見逃さないたった1つのポイントとは#118
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「オンコロジーエマージェンシー~高カルシウム血症~」です。
動画はこちらになります。
今日は、がん患者さんを日常的に診ている医療者、とりわけ若い医師にお話します。
皆さん、高カルシウム血症を知っていますか? と言っても、医師でこの言葉を知らない人はいないと思います。
カルシウム値が高くなって、電解質バランスが乱れている状態ですよね。しかし、実際に高カルシウム血症となり、苦しんでいる患者さんを見たことのある方は少ないのではないでしょうか。しかも、この状態を放っておくと、命に関わる状態にもなることがあるのです。
今日はがん患者さんの高カルシウム血症、特に早急に治療・ケアが必要なケースについてお話します。
この記事を見ることで、早期に高カルシウム血症を見つけて治療ができ、患者さんの苦痛をとることのできる医師が増えればうれしいです。
今日もよろしくお願いします。
必須にするべきルーティーン
高カルシウム血症は、がん患者さんの10~20%に起こります。
このように、がん患者さんによく起こる病態ですが、あまり経験のない医療者は見逃しやすいことも多く、治療が遅れると重篤になることもあるので注意が必要です。
まず、高カルシウム血症はしっかり治療すると改善できるということも、皆さんに知っていただきたい点です。
高カルシウム血症は、血液内のカルシウム値が正常値よりも高くなると起こってきます。ところが、高カルシウム血症の症状はこれです、というはっきりした症状はありません。
高カルシウム血症の症状は様々であり、見逃されやすい場合も多いです。しかし放っておくと、重篤になり、命にかかわることもあります。
高カルシウム血症を見逃さない方法が1つあります。それは、血液検査では必ずカルシウム濃度の測定を、ルーティーンにすることです。常に患者さんの状態をモニターしておくことが重要なのです。
進行がんの患者さんのカルシウム濃度の測定は、必ずするようにしましょう。
オンコロジーエマージェンシーの高カルシウム血症
正常の血清カルシウム値は10mg/dl未満です。少し高いくらいでは、ほとんど症状は出ません。
12mg/dl以上になると、様々な症状が起こってきます。
のどが渇きやすくなり、水分をほしがるという脱水の症状が起こってきます。
吐き気や、食欲低下も起こります。
便秘がひどくなることもあります。
倦怠感や筋力の低下も起こり、高齢者では寝たきりのようになる人もいます。
また、いらいらしたり、意欲がなくなるといった抑うつのような症状も起こります。
さらに重症になると、せん妄を起こしたり、傾眠や昏睡状態になることもあります。
そして、高カルシウム血症による脱水が重度になると、腎不全、循環不全といった多臓器障害に発展し、死に至るケースもあるのです。
このように、高カルシウム血症の症状はこれです、とはっきりしたものではなく様々です。病状が進行して全身衰弱となったときの症状や、医療用麻薬の副作用、あるいはうつなどの精神症状などと区別がつかないことも多々あります。
それではこれらの症状と区別するにはどうしたらいいでしょうか。それは、血液検査をし、血清カルシウム濃度を測定することです。
血清カルシウム濃度が正常値よりも高く、今お話した症状がありましたら、高カルシウム血症と判断し、あとでお話しする治療を早急に行ってください。その治療が功を奏して、症状が改善すれば、高カルシウム血症の症状であったと言っていいと思います。
なぜ高カルシウム血症が起こるのか
それでは、高カルシウム血症についてもう少し詳しく見ていきましょう。
カルシウムは骨に多く見られ、腎臓や腸管にもあります。
血清カルシウム濃度は8.5~10㎎/dlの範囲で厳密に維持され、細胞機能の維持に大切な役割を果たしています。そのコントロールには副甲状腺から分泌されるPTHというホルモンが重要です。PTHが多く分泌されることで、血清カルシウム濃度は上がります。
がんからは様々な物質が出されます。その中で、このPTHによく似た物質を出すことがあります。それにより、高カルシウム血症になるのです。
これを、悪性腫瘍随伴性高カルシウム血症と言います。実はこれが1番多く、全体の80%を占めます。
残りの20%は、骨転移を起こしたがん細胞が骨を溶かして起こる、局所骨溶解性高カルシウム血症です。それ以外にも、ビタミンDを分泌する腫瘍や、副甲状腺機能亢進性の腫瘍もありますが、稀です。
補正血清カルシウム値
カルシウムの値について1つ注意点があります。それは、血清アルブミンの値が低いと、見かけのカルシウムの値が低く出るということです。したがって、血液データで示されるカルシウムの値は、補正しなくてはいけません。
ペイン(Payne)の式というのがあります。4から血清アルブミンの値を引いたものに血清総カルシウム値を足したものが 補正血清カルシウム値です。
補正血清カルシウム値= (4 – 血清アルブミン値)+ 血清総カルシウム値
今では、病院によって補正血清カルシウム値を付けてくれている検査部も多くなってきてはいますが、この計算式は覚えていてください。そして、検査データを見る時は、補正値かどうかを必ず確かめるようにしてください。
高カルシウム血症の診断と治療
次に診断についてです。繰り返しますが、補正カルシウム値が12㎎/dl 以上で、先ほど申し上げた症状があれば、治療が必要な高カルシウム血症とお考え下さい。症状がなければ経過観察することが多いです。
時々、血清カルシウム値を上昇させるような薬剤カルシウム配合のサプリメントや、抗がん剤や利尿剤などの薬剤が原因のこともありますので、そういったものを服用していないかも確認してください。
それでは治療についてお話します。
1. 輸液
まず脱水を治療するために、生理食塩水点滴が最初に行うべき治療です。 1日1000~2000mlの量が標準です。
しかし、心不全があったり、患者さんが終末期の場合は減量が必要です。ただ、これだけでは血清カルシウム値を低下させることは難しく、他の治療と併用してください。
2. ビスホスフォネート製剤の点滴
ビスホスフォネートは、骨を溶かす働きのある破骨細胞の働きを抑制し、骨からのカルシウム の放出を抑えます。
血清カルシウム値降下作用は非常に強く、高カルシウム血症の第1選択薬と言えます。ただし、最大効果発現には2~4日は必要なことも知っておいてください。
顎骨壊死の副作用もあるので、口腔内の衛生状態は良くしておかなくてはなりません。常にモニターが必要です。具体的には、ゾレドロン酸ナトリウムを、1 回 4mg 15 分以上かけて点滴静注してください。1 週間おきに使用可能です。
最近では、人モノクローナル抗体であるデノスマブは、ビスホスフォネートが効かない場合の高カルシウム血症への有効例として報告されています。しかし、高カルシウム血症へのデノスマブは、骨転移がある症例でないと保険適応外ですので注意してください。
具体的には、デノスマブは1 回 120mg 皮下投与してください。4 週間毎に投与可です。
3. その他の治療
カルストニンやステロイドも効果を発揮します。短期間で効果が出てきますので、併用も考えてください。私はステロイドをよく使います。
また、腎不全や心不全を合併した重篤な患者さんには、人工透析が必要な場合があります。そうはならないためにも、早期から高カルシウム血症を診断し、迅速な治療をお願いします。
がんの終末期の高カルシウム血症
最後に重要な点を1つ付け加えます。
それは、高カルシウム血症は進行がんやがんの終末期に特によく起こるということです。ステージⅣの患者さんは、それ以外のステージに比べ4倍起こりやすいと言われています。
また、高カルシウム血症を起こしたがん患者さんの半数が、30日以内に亡くなるという報告もあります。つまり、高カルシウム血症は、がんの進行が早くなっているというサインの1つとしてとらえる必要があるということです。
高カルシウム血症が起こるということは、ACPも含め、終末期を意識した患者さんやご家族との対応を考える時期に来ていると思ってください。
私が経験したケース
最後に私の経験した例を紹介したいと思います。外来で抗がん剤治療中の75歳の腎臓がんの男性です。
1週間前から食欲が急速に落ち、意識状態も徐々に低下したため、緊急入院となりました。入院後3日目に緩和ケアチームに紹介となりました。
私は検査データ、画像を見ましたが、病状が急速に悪化しているという印象はありませんでした。点滴治療はすでに開始されていましたが、脱水状態の改善はなく、患者さんの意識状態も入院時と比べて大きな改善はありませんでした。
主治医はご家族に「急速に病状が悪化し、厳しい状態です、場合によって1週間もたないかもしれません。」と説明していました。
私は、もう一度検査データを見たところ、血清カルシウム値の測定がされていないことに気がつきました。そして再検査してもらったところ、補正値 で16㎎/dlだったのです。
急いで主治医に連絡し、高カルシウム血症の治療を始めました。すると、数日後に意識が戻ってきました。1週間後、意識はすっかり元に戻り、食事もできるようになりました。患者さんは退院し、再度抗がん治療もできるようになったそうです。
このように、高カルシウム血症を放っておくと、どんどん状態は悪化し、終末期のように見えることはまれではありません。しかしこのケースのように、高カルシウム血症は治療すると回復できることが多いのです。
カルシウム値の測定は常にしないといけないことを、再確認したケースでした。
このように、高カルシウム血症の症状は様々であり、見逃されることもしばしばです。しかし放っておくと、重篤になり、命にかかわることもあります。血液検査では、必ずカルシウム濃度の測定をルーティーンにしましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん、ご家族、医療者向けに発信をしています。
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