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【患】がん患者さんの多くに起こる食欲低下は改善できます #104

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「QOLをあげる~食欲低下の改善~」です。

動画はこちらになります。

食欲があり、食事がおいしい、というのは健康のバロメーターですよね。逆に、食欲がない、食事がおいしくない、ということは、身体からの不調のメッセージです。

多くのがん患者さんは、食欲低下を起こします。食欲が無くなると、栄養低下の悪化を招き、治療や生活など様々な分野に影響します。しかし、食欲低下は多くの場合、原因が分かれば改善できるのです。再び、おいしくご飯を食べられるようになります。

今日は、がんの患者さんによく起こる食欲低下についてお話します。

この記事で、食欲低下を起こす原因が分かり、対処することで、また食欲が出てきて元気になる患者さんが増えればうれしいです。

今日もよろしくお願いします。


食欲低下の原因を見つける

食欲低下は多くのがん患者さんを悩ませ、QOLを低下させます。

食欲低下はがん患者さんの60~70%にみられ、進行がんの患者さんの80%に見られるようになります。そして、終末期の患者さんはほぼ全例で食欲が低下します。

食欲低下の原因は大きく分けて4つあります。その原因を明らかにして、症状の改善をすることで、再び食欲は戻ってきます。

1つ目は身体的な症状が原因の食欲低下です。

がんがおなかの中にできたり、腹膜に転移すると、消化管の通過障害が起こります。消化管の動きが悪くなるため、食欲は低下します。便秘も多くのがん患者さんが経験する症状ですが、その時も食欲低下を起こします。

高カルシウム血症などの電解質異常でも、食欲低下が起こります。腎臓や肝臓などの臓器障害が起こったときも、食欲が低下します。

脳転移があっても、脳圧亢進という症状が起こり、吐き気とともに食欲が落ちます。

このような身体症状が原因の食欲低下の場合、症状の原因を見つけ、治療あるいは症状緩和をすることで、食欲低下の改善ができます。

2つ目は薬剤が原因の食欲低下です。

特に多いのは、抗がん剤による食欲低下です。

点滴の抗がん剤をした時、治療後、数日から1週間の間、倦怠感とともに食欲が低下する患者さんはとても多いです。しかし、その後は楽になり、食事が取れるようになる人がほとんどです。

抗がん剤は、同じものを何週間かあけて繰り返すパターンが多いので、食欲が落ちる時期、回復する時期を見定め、その時どんな食事をするのが良いか、自分に合った方法を見つけることが大事です。分からなければ、主治医の先生に栄養士を紹介してもらい、相談してください。

抗がん剤の他にも、医療用麻薬を服用した直後に食欲が落ちる方もいます。しかし、1週間程度で、良くなることが多いので、その間は様子をみてください。驚いて、医療用麻薬を勝手にはやめないでくださいね。

そして、3つ目は悪液質が原因の場合です。

悪液質が原因で食欲低下が起こることは、進行がんの患者さんではとても多いです。悪液質については、以前の記事に詳しく説明してありますので参考にしてみて下さい。

悪液質になると、がんから出るサイトカインという悪い物質による影響で、全身の筋肉が落ちて、痩せてきます。そして、倦怠感、食欲低下の症状が起こります。

この悪液質による食欲低下については、正しい対処法がありますので、後ほど詳しく解説します。

最後の4つ目は、うつなどの精神症状の悪化が原因の場合です。

これに関しては、うつが原因で食欲が落ちていることは、患者さん本人はもちろん、ご家族、さらには医療者でも気が付きにくいことがあります。しかし、うつと気づき治療すれば、再び元気になり、食欲も回復することができます。

このように食欲低下の原因を明らかにして対処をすることで、再びおいしくご飯を食べられるようになるのです。まずは、食欲低下の原因を知って、あなたにあてはまるものを探りましょう。


うつが原因の食欲低下の対処法

それでは、食欲低下の対処法についてお話します。

先ほどお話したように、食欲低下が何らかの原因で起こっているものならば、その原因を取ることです。したがって、主治医の先生への相談が必要です。治療できるものであるならば治療し、症状緩和ができるものはしてもらいましょう。

うつなどの精神症状が悪化すると、食欲低下も同時に起こります。先ほど申し上げたように、うつが原因で起こる食欲低下は、医療者も含め、なかなか分からないことも多いのです。

うつを見つける2つの質問があります。ご自身でもしてみてください。

1つ目は、1日中気持ちが落ち込んでいませんか。
2つ目は、今まで好きだったことができなくなっていませんか。

この2つのうちどちらかがあり、2週間以上続いていたらうつを疑ってください。そしてうつかもしれないと思ったら、主治医に相談して、必要なら、緩和ケアチーム、心療内科、あるいは精神科を紹介してもらってください。


悪液質が原因の食欲低下の対処法

特に何も原因が無いのに、体重が落ちて筋肉が減り、倦怠感・食欲低下が起こってきたのならば、悪液質が起こっていると考えられます。特に食欲低下を放っておくと、さらに悪液質が進行し、がんの進行も早めます。したがって、適切な対処が必要となります。

悪液質が原因の食欲低下に対する対処法をお話します。

①栄養サポート
食欲が落ちたからといって、食べやすいものや、栄養バランスの偏ったものを食べていたのでは、良くないことが多いです。

あなたの通っている病院の、栄養士に相談してください。主治医の先生、あるいは緩和ケアチームにお願いすれば紹介してくれます。栄養士はあなたの状態にあった食事、栄養指導をしてくれるでしょう。

②運動療法
悪液質になると、倦怠感が起こり、身体を動かすことが億劫になりがちです。身体を動かさないことで、さらに筋力低下を引き起こします。したがって、身体の活動性を維持していくことが、とても重要なのです。

しかし、動かしすぎは逆効果になります。あなたの身体にあった、適切な運動量というものがあります。これも、リハビリ担当の理学療法士が専門ですので、ぜひ紹介してもらって指導を受けてください。

③薬物療法
悪液質の食欲低下を改善する薬剤はいくつかあります。ステロイドがその代表的なものでしょう。ただし、副作用もあるので、主治医の先生とよく相談してください。

六君子湯や人参養栄湯などの漢方薬も私はよく使います。いずれにしても、薬剤に関しては、主治医や緩和ケア医などの医師と相談してください。


実はうつだったがん患者さん

私がホスピスで働いていた時のことです。ある80歳の肺がんの男性患者さんが入院してきました。

抗がん治療をやめた後、自宅で過ごしていましたが、痛みや呼吸困難の症状が悪化し、更には食欲もほとんどなくなり、急激に痩せてきました。

主治医の先生は「肺がんが悪化して、悪液質も進行しています。数週間の余命だと思います。終末期のケアをお願いします。」と言ってきました。

入院後、本人も「ホスピスは最期の場所だと思ってきました。よろしくお願いします。」と言いました。

私は「確かに終末期かもしれないな、でも暗い表情が気になるな。」と思い、精神症状の質問をしてみました。「1日中気持ちが落ち込んでいませんか?」と聞くと

「しんどくて横になることが多いので、気分はいつも暗くつらいです」

「他に、以前と比べて気持ちの変化はありませんか?」と聞くと

「毎日イライラしています。些細なことで妻にあたってしまいます。あとで申し訳ないと思います。」

「今まで好きだったことが楽しめなくなっていませんか?」と聞くと

「最近はテレビも新聞も読む気がしません。何よりも趣味のカメラに手をつけられないことがつらいです。」

「すべてを終わりにしたいとか、生きていてもしかたがないと感じることがありますか?」と聞くと

「こんなにつらいのなら早くお迎えが来てほしいといつも考えています。」

抑うつ感・焦燥感・自責感・興味の消失・希死念慮、それに加えて、食欲低下・倦怠感・不眠、この患者さんにはうつの症状が全てあてはまりました。

医療用麻薬で、呼吸困難と疼痛の治療をし、抗うつ薬も加え、治療をはじめたところ、2週間後には食事も十分できるようになり、3週間後にはほとんどの症状が緩和され、外泊できるようになりました。

その後、彼は退院し、元気に暮らし始め、それから8か月後、彼は家で旅立たれました。

彼の食欲低下の原因は悪液質ではなく、うつだったのです。うつが原因の食欲低下は、うつが良くなると必ず回復します。

食欲低下の原因がはっきりしない場合は、うつが隠されているかもしれないことも、知っておいてほしいと思います。

食欲低下は多くのがん患者さんを悩ませ、QOLを低下させます。しかし、原因を明らかにして、対処をすることで、再びおいしくご飯を食べられるようになりますので、このことをぜひ知っておいて下さい。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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