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原因のわからない嘔気・頭痛にはがん性髄膜炎を疑う必要があります【医】#34

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「オンコロジー・エマージェンシー:がん性髄膜炎」です。

動画はこちらになります。

今日は、放っておくと致死的になる、がん性髄膜炎についてお話します。

私が心療内科医時代に、先輩の先生から教えてもらったがん性髄膜炎のお話をします。ある肺がんの患者さんが嘔気・頭痛を訴えたため、その先生は頭部CTとMRIを撮りましたが、特に異常がなくオピオイドの副作用だと判断しました。ところが、その症状は時間が経っても良くならないばかりか、むしろ悪化していきました。

ある時、患者さんは自宅で意識不明になり、救急車で病院に運ばれました。そこで、患者さんはがん性髄膜炎だと診断されました。この時、がん性髄膜炎はもう治療ができない状態で、がんの治療も中止となりました。

患者さんは、しばらくして亡くなったそうです。先輩の先生は、もっと早く見つけてあげていればと、とても後悔したそうです。実はこのようながん性髄膜炎のケースは少なくないのです。

この記事の中で、なぜがん性髄膜炎は早期で見つけにくいのか、どうすれば見つけることができるのかについてお話しします。ぜひ最後までご覧ください。

今日もよろしくお願いします。


画像に表れにくいがん性髄膜炎

多くの先生方は、嘔吐、頭痛の症状のあるがん患者さんには、脳に何か問題があると思って、脳の画像検査をすると思います。その画像に異常がない時、脳には問題がないと判断しがちです。しかし、そこが落とし穴なのです。

実はがん性髄膜炎はCT・MRIでわからないことがあるのです。

がん性髄膜炎の3人に1人は、画像上の変化が現れないという報告もあります。CT・MRIに異常がないということは、単に脳腫瘍・脳梗塞・脳出血などの、脳内の器質的病変がないということです。決して、がん性髄膜炎の可能性を否定しているということではないのです。がん性髄膜炎は、特に早期にはCTやMRIの画像に現れないことがあり、診断は容易ではないということを知ってください。

そしてもう一つ重要な点は、がん性髄膜炎は放っておくと、症状が進み、治療ができないばかりか、致死的になる可能性もあるのです。がん性髄膜炎は放置すると、患者さんにとっては命に関わる病態であることを知ってください。

がん性髄膜炎は、一般的には予後不良ですが、早く分かれば治療可能です。画像検査だけで判断せず、嘔吐や頭痛などの、臨床症状からがん性髄膜炎を疑った時には、脳外科や脳神経内科などの専門家にコンサルトしてください。


ケースからの学び

冒頭のケースを振り返ってみます。

肺がんの患者さんが、嘔気、頭痛を訴えたため、頭部CTとMRIを取りましたが、特に異常はありませんでした。主治医の先生は、オピオイドの副作用だと思い、経過観察としました。経過観察にしたこと自体に問題はなかったと思います。

ところが、オピオイドの副作用の嘔気は、多くの場合1週間程度で収まることが多いのです。嘔気が1週間以上たっても収まらず、あるいは増悪している場合は、オピオイドの副作用とは考えにくく、オピオイドが嘔気の原因ではないと判断しなければいけません。そして、オピオイドが原因ではないのであれば、他の原因も考えます。

そして、がん性髄膜炎の可能性も考え、すぐに専門家にコンサルトする必要があります。なぜなら、がん性髄膜炎の診断は難しく、専門家でなければ分からないことが多いからです。早期にがん性髄膜炎と診断がつけば、治療が可能かもしれません。

次に頭痛に関してお話します。

髄膜炎といえば項部硬直が典型的な症状ですが、初期症状としては、単なる頭痛のみを訴えることが多いのです。緊張性頭痛と診断して、治療をしてしまうことも多いので、嘔気・嘔吐、意識障害など、他の髄膜炎を疑う症状を伴う場合には、がん性髄膜炎の可能性も頭に置く必要があります。

主治医の先生に覚えておいてほしい、大事なことをまとめます。まず、嘔気・嘔吐、頭痛、意識障害といった症状が複数出て、その原因がはっきりしない場合、また、その症状が増悪している場合、がん性髄膜炎を疑う必要があります。また、がん性髄膜炎は専門家でないと診断が難しいので、すぐに脳外科や脳神経内科などの専門家にコンサルトしてください。


がん性髄膜炎の症状・検査方法・治療法

がん性髄膜炎は、くも膜やくも膜下腔へ、がんが転移することにより発症します。
肺がん、乳がんや胃がんなどの腺がんに多いといわれています。

注意すべき点は、がん性髄膜炎の初期の症状は、倦怠感や食欲不振などの、一般的ながんの症状と変わらないことが多いことです。しかし、進行してくると、頭痛、嘔気・嘔吐、頸部痛、項部硬直、さらにはせん妄、意識障害などの様々な症状が起こってきます。これらの症状が起こってきたときには、がん性髄膜炎を鑑別診断の1つとして考えておくことを忘れないでください。

確定診断は髄液検査ですが、これは脳神経内科などの専門家にお願いするのが良いと思います。最近は画像診断も有用であるという報告もありますが、それはあくまで、がん性髄膜炎を疑った専門家の目でみた場合の話である、ということを忘れてはいけません。

がん性髄膜炎は、一般的には予後が悪く、治療に関しても標準治療はありません。
しかし、がん性髄膜炎の治療は、患者さんの全身状態が良ければ、放射線照射や全身化学療法が可能です。

治療の効果があれば、一旦は回復できることも多いです。最近は、免疫チェックポイント阻害剤が、がん性髄膜炎に有効だという報告もあります。がん性髄膜炎の治療は進歩してきています。

しかし、これは、あくまで全身状態が良い患者さんのみに適応があるものです。
がん性髄膜炎が悪化し、全身状態がよくない時には、グリセオールやステロイドによる症状緩和が主体となります。こうなるとほとんどの場合、急速に終末期の状態に移行していきます。

以上、がん性髄膜炎の症状、検査方法、治療について話してきました。がん性髄膜炎は早期に発見し、治療可能な状態で専門家にコンサルトしましょう。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「がん性髄膜炎はCTやMRIの画像に現れないことがあり、診断は容易ではありません。さらに、進行したがん性髄膜炎の予後は良くありません。しかし、早期に見つかると治療も可能です。臨床症状からがん性髄膜炎を疑ったら、早急に専門家に相談しましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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