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初めてのオピオイドにはヒドロモルフォンが最適です。その理由を詳しく解説します【医】#16

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「医療用麻薬の第一選択薬~ヒドロモルフォン~」です。

動画はこちらになります。

がんの患者さんが初めてがん性疼痛を訴えた時、基本的に1番最初は、医療用麻薬ではなく、消炎鎮痛薬を使います。そのことについて、別の記事で詳しく説明しています。

しかし、消炎鎮痛薬で痛みが取れなくなってきた時に、医療用麻薬が必要になってきます。今回は、医療用麻薬を使うときの私の第一選択薬、ヒドロモルフォンについてお話します。

この記事では、たくさんある医療用麻薬の中で、なぜヒドロモルフォンを私が選ぶのか、その理由と、詳しい使い方をお話します。これは1つの方法であって、これだけが正しいというものではありません。あなたが自分のなりの医療用麻薬の第一選択薬を見つける一助になればと思います。

ぜひ最後までご覧ください。今日もよろしくお願いします。


メリットの多いヒドロモルフォン

医療用麻薬の第一選択薬に、フェンタニル貼付剤を選ぶ先生は少なくないかもしれません。フェンタニル貼付剤は、張り薬で使いやすく、患者さんが麻薬を使っているという心理的負担も少ないからだと思います。

しかし、私はフェンタニル貼付剤を医療用麻薬の第一選択薬にすることはお勧めできません。

理由の1つは、フェンタニル貼付剤は、ゆっくりとしか血中濃度があげられず、素早い疼痛コントロールができないからです。

さらに、フェンタニルには速放製剤がないので、レスキュー対応ができません。レスキュー対応をする時には、ほかの医療用麻薬を使う必要があります。

フェンタニルには舌下錠があり、これをレスキューとして使っている人もいますが、これは突出痛治療薬であり、基本的にはレスキューとして使ってはいけません。しかも、モルヒネなど、フェンタニル以外の医療用麻薬は、呼吸抑制などが起こる血中濃度は、効果が出る時の血中濃度の10倍以上なのに対して、フェンタニルは、2倍くらいで呼吸抑制を起こします。つまり、安全域が狭いのです。

ほかの医療用麻薬のように1時間あけたら使って良いという指示を出すと、容易に呼吸抑制を起こしてしまいます。したがって、フェンタニル舌下錠は、1日4回まで、しかも2時間以上開けて使うという厳しい縛りがあるのです。

最も注意していただきたいことは、内服のできる患者さんには、内服のオピオイドを使うことが大事である、ということです。内服の場合、過量投与になり昏睡になったとしても、寝てしまって飲めなくなるので、よっぽど大量に服用しなければ血中濃度が下がってきて、薬の効果が切れます。

しかし、張り薬だと過量投与になった場合、薬が皮下組織に浸透しており、血中濃度がすぐに下がらず、危険です。

フェンタニル貼付剤は、過量投与になってもはがせるので安全だと思っている人も多いかもしれませんが、実はそれは大間違いです。私も昔はそう思っていましたが、様々な失敗をした結果、内服できる患者さんには、まずは内服から開始することを、自分の戒めにしています。

次に大事なことは、速放製剤と徐放製剤の両方のある医療用麻薬を使うことです。
まず、患者さんが痛いとき速放製剤を使います。一日に何回速放製剤を使ったかをみて、その量から徐放製剤の量を決めることが1つのセオリーです。これをタイトレーションといいます。

このタイトレーションは、同じオピオイドで行うほうがやりやすいのです。さらに、速放製剤、徐放製剤、注射剤の3パターンあると、さらにタイトレーションがしやすいです。

以上の条件を備えた、日本で使える医療用麻薬は、モルヒネ・オキシコドン・ヒドロモルフォンの3種類です。この3種の効果、副作用はほとんど同じです。

その中でも、私はヒドロモルフォンを医療用麻薬の第一選択薬にしています。その理由をこれから詳しく説明していきます。


メリット1:CYP代謝の影響を受けない

私がヒドロモルフォンを医療用麻薬の第一選択薬にする理由の1番目は、チトクロームP450、いわゆるCYPによる薬物相互作用がないため、他の薬物と併用しても安全だからです。

ヒドロモルフォンは肝臓でグルクロン酸抱合されるため、CYPによる薬物相互作用の可能性が低いのです。一方、オキシコドンやフェンタニルはCYP代謝の影響を受けます。

したがって、様々な薬を併用しなければいけないがん治療中には、オキシコドンやフェンタニルよりも、ヒドロモルフォンの方がストレスなく使えます。


メリット2:代謝物に活性がない

私がヒドロモルフォンを医療用麻薬の第一選択薬にする理由の2番目は、ヒドロモルフォンの代謝物に活性がないため、体内に蓄積し、眠気、意識障害、場合によっては昏睡が起こらず安全だからです。

モルヒネも同様にグルクロン酸抱合されますが、その代謝物であるM3G、M6Gは腎臓から排泄されます。腎障害時には代謝物が体内に蓄積し、眠気、意識障害、場合によっては昏睡を起こします。

したがって、腎障害時には、モルヒネよりもヒドロモルフォンの方が使いやすいのです。


メリット3:患者さんが飲みやすい

私がヒドロモルフォンを医療用麻薬の第一選択薬にする理由の3番目は、ヒドロモルフォンの速放製剤が錠剤であり、しかも味がない点です。

モルヒネ速放製剤は液剤、オキシコドン速放製剤は粉末、ヒドロモルフォンの速放製剤は錠剤です。実は、オプソ、オキノームは苦みが口に残るのです。以前私が患者さんに聞いてみたところ、約9割の患者さんが錠剤を選択しました。

ヒドロモルフォンの速放製剤、徐放製剤はともに錠剤なので、間違う人が多いのではないかと、危惧する方もいると思います。私も導入するとき、その危険性を心配しました。

ところが、実際に間違う人はほとんどいませんでした。その理由は、速放製剤は5角形で口のなかで溶けること、そして徐放製剤は丸い錠剤で硬いからです。
不思議ですが、間違えないのですね。

また徐放製剤もヒドロモルフォンは1回/日で良い製剤ですが、モルヒネ、オキシコドンは2回/日飲まなければいけません。

したがって、服用コンプライアンスの点からも、モルヒネ、オキシコドンよりもヒドロモルフォンの方が良いと思います。


メリット4:呼吸困難に効果がある

私がヒドロモルフォンを医療用麻薬の第一選択薬にする理由の4番目は、ヒドロモルフォンはモルヒネと同程度に呼吸困難の症状緩和に効果があるからです。

モルヒネには呼吸困難症状にも効果あるというエビデンスがあり、臨床でも効果があることは実感できます。それに比べ、フェンタニルはほとんど呼吸困難症状には効果がなく、オキシコドンも弱いと感じます。

明確なエビデンスがないので、断言してはいけないと言われていますが、私の臨床上の所感では、ヒドロモルフォンはモルヒネと同等の呼吸困難症状に効果があると思います。

呼吸困難症状を持つ患者さんにもメリットがあると私は思いますので、今後、研究・治験が進んでほしいと思っています。

以上の4つのメリットより、私は医療用麻薬の第一選択薬にヒドロモルフォンを選択しています。あなたの参考になれば幸いです。


ヒドロモルフォンの内服薬の使い方

それでは、ヒドロモルフォンの内服薬の使い方を、事例を用いて紹介します。

60代男性、すい臓がんの患者さんで、肝転移で抗がん剤治療中です。数日前より心窩部痛が起こり、私の外来に来ました。ベースになる消炎鎮痛薬のカロナール500㎎錠を4錠 食後3回、寝る前1回の分4で処方しました。数日後には痛みがましになったので、抗がん剤治療も継続できるようになりました。

それから2か月後、同じところの痛みが増し、夜中に起きることが多くなりました。私は、カロナール錠®に加え、ヒドロモルフォンの速放製剤であるナルラピド®1㎎錠を頓服で処方しました。これは疼痛時、1時間以上あけて使用と指示しました。嘔気時、便秘時の頓服も同時に処方しました。

2日後に患者さんが外来に来ました。患者さんが言いました。

「もらった薬は効きました。でも4時間くらいで切れるので、4回使いました。吐き気はなかったのですが、少し便秘になりました。」

1㎎錠を1日に4回使ったということは、この患者さんの疼痛緩和には1日に4㎎必要だと考え、私は1回で1日効く、ヒドロモルフォンの徐放製剤であるナルサス®2㎎錠を、1日2錠、カロナールに加え、19時に定期内服するように指示しました。

ナルラピド®1㎎錠はそれまでと変わらず、痛い時に頓服で飲むよう言いました。
これが先ほどお話したタイトレーションです。便秘への対策として、スインプロイク錠も同時に処方しました。1錠朝食後に定期内服です。

7日後に来院した時、患者さんは

「痛みは殆どありません。ナルラピドも1日1回か2回程度の使用です。夜も良く寝られています。便も2日に1回は出ていて、快調です。」と話してくれました。抗がん剤治療も変わらず継続しています。

以上、私がなぜヒドロモルフォンを医療用麻薬の第一選択薬にしているのか、さらには、その具体的な使い方についてお話してきました。これは私の1つの意見です。

皆さんも、オピオイドの第一選択薬にふさわしい薬を、自分なりに納得して使えるようになってほしいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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