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鎮痛薬の使い方5原則と難治性がん疼痛の対処法について詳しく解説します #28

こんにちは、緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

今日にテーマは「入院治療中の関わり~痛みのコントロール~」です。

動画もありますので、そちらもよろしくお願いいたします。

今回は医療者向けのお話となりますが、前回、前々回も同じテーマで患者さん向けとご家族向けに記事を書いていますので、そちらもよろしくお願いいたします。

始めに、地域の病院に入院していた化学療法中の患者さんのケースを紹介します。

患者さんは50歳代の男性で、病名は肺腺がんです。左肺上葉の腫瘍が、胸椎、腕頭神経叢に浸潤していました。鎮痛薬として、フェンタニル貼付剤16.8㎎のものを8枚体に貼っていました。レスキューはフェンタニル舌下錠を使っていましたが、全く痛みが治まりません。主治医から電話で疼痛コントロールの依頼があったため、私のいる大学病院に転院し、緩和ケアチームに紹介となりました。この患者さんは、食事は何とか出来ていたので内服でのコントロールも可能かもしれないと思いましたが、効果を早めるためにエヌセイズ注射薬とキシロカイン注射薬を持続的に静脈注射しました。キシロカインは鎮痛補助薬として私は良く使います。また、腫瘍の炎症をとるためにステロイド剤も投与しました。オピオイドは、モルヒネの注射剤に徐々にスイッチしていきました。放射線治療科にお願いし、神経浸潤部位に放射線照射をしていただきました。2週間後、モルヒネ注射剤が90㎎/日となり、フェンタニル貼付剤は完全に取れ、痛みはほぼ0/10NRSとなりました。更にそれから3週間後には、ロキソプロフェン(60㎎)3T、MSコンチン錠® 60㎎/日にて疼痛コントロール可能となり、元の病院に戻り、化学療法再開となりました。

鎮痛薬の使い方に関する5原則が以前から言われています。古くて新しいものだと常日頃から感じています。これに沿って鎮痛薬は使うべきであると私は確信しております。

先ほどのケースと絡めて、この5原則を解説していきます。

1番目は、経口的に (by mouth)です。内服できる患者さんには内服で投与します。症例で示した患者さんのように食べられている患者さんにいきなり貼付剤を使うべきではありません。フェンタニル貼付剤も0.5㎎の製剤が出て、オピオイドナイーブの患者さんにも使えるようになっていますが、安易に使用すべきではないと思います。詳しい理由は後日別の動画で解説しようと思います。

2番目は、時刻を決めて規則正しく (by the clock)です。痛みが出てから鎮痛薬を投与する頓用の方式だけでは、痛みが消失した状態を維持できません。鎮痛の目標は患者さんが痛みを感じずに、日々の日常を過ごすことだと思うからです。

3番目は除痛ラダーにそって効力の順に (by the ladder)です。患者さんの予測される生命予後の長短にかかわらず、さらには痛みの程度に応じて、躊躇せずに必要な鎮痛薬を選択することが大事です。以前は、消炎鎮痛薬、弱オピオイド、そして強オピオイドという3段階ラダーが提唱されていましたが、今は消炎鎮痛薬から弱オピオイドを飛び越えて、強オピオイドの少量を加える方法も良いと言われており、私も最近はその使い方が多いです。

4番目は、患者ごとの個別的な量の調節(for the individual)が必要です。痛みは個人的な体験であり、鎮痛薬の必要量は個人により、大きな差があります。決してがんの大きさや、病気の進行度によるものではありません。

そして5番目にその上で細かい配慮(with attention to detail)をおねがいします。

さて、基本的緩和ケアを担当していただいている治療医の先生方にはぜひとも鎮痛薬の使い方について正しく学んでいただきたいと思います。

緩和ケア研修会(通称ピース研修会)では医療用麻薬をはじめとした鎮痛薬についてe-Learningで学習することができます。

緩和医療学会のHPのリンクを貼っておきますのでどうぞご活用ください。

少なくともがん性疼痛がアセスメントでき、それに対して医療用麻薬が適切に処方できること、を目標にしていただければと思います。

もしご自身のいつもの方法でも痛みが取れなければ、是非とも緩和ケアに、早めにご紹介していただければ幸いです。

難治性がん疼痛とその対処もとても難しい問題だと思います。

難治性がん疼痛は、色々定義がありますが、医療用麻薬や鎮痛補助薬などによる標準治療に反応しないがんやがん治療に関連する痛みと考えてください。発生頻度はがん疼痛のある患者の10~20%程度と言われています。

大事なポイントですが、あなたが難治性がん疼痛と感じたら、出来るだけ早く緩和ケアチームなどの専門家に紹介してください。

では次に、我々専門家が行っている対処法を紹介します。

医療用麻薬による対処法として、1つは オピオイドスイッチングです。これは違うタイプのオピオイドに変えてみるということです。例えばフェンタニルからモルヒネに変えてみるといったことです。これで意外にうまくいくことがあります。

最近ではオピオイドコンビネーションという方法もあります。これは2種類のオピオイドを同時に使うといったことです。例えば、フェンタニル貼付剤で痛みがコントロ―ルされていたところ、呼吸困難の症状が出てきたため、少量のモルヒネを加えたら、症状の緩和が図れた、などです。

メサドン、最終兵器ですね。神経障害性疼痛が加わった複雑で強い痛みにはやはり良く効きます。但し不整脈などの副作用に注意しないといけないため、緩和ケアチームなどの専門家に依頼して処方してもらってください。

非経口投与(静注、皮下注)もケースによっては積極的に行います。冒頭に出したケースも、注射で行ったら速やかに疼痛緩和できた例でした。

脊髄内投与も効果的です。これは麻酔科の先生にお願いしてください。当然、薬剤以外の疼痛緩和も常に考える必要があります。放射線照射、麻酔ブロックなどです。

今回は少し難しい話を多くしましたが、「難治性疼痛などあなたが対処できないと思った時は、速やかに緩和ケアチームなどの専門家チームにコンサルトを」ということを覚えておいてください。

ぜひ、治療医の先生方には鎮痛薬の使い方について正しく学んでいただければ幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん、ご家族、医療者向けに発信をしています。

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