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【医】オンコロジーエマージェンシーとしての腹水・胸水について緩和ケア医が解説します#98
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「オンコロジーエマージェンシー~腹水・胸水~」です。
動画はこちらになります。
本日は、がん治療医の先生方にお話します。
がん患者さんが終末期になると、腹水や胸水が貯まってくる事はよくあることです。腹水や胸水を廃液することについての是非はあると思いますが、ずっと抜かないままでいるとオンコロジーエマージェンシーになる場合があります。
今日の記事では、オンコロジーエマージェンシーとしての腹水・胸水についてお話します。
この記事を見て、オンコロジーエマージェンシーとしての腹水・胸水の危険性を回避できる医師が増えればうれしいです。
今日もよろしくお願いします。
致死的な状態になる腹水・胸水
がんの場合、がんが腹膜・胸膜に転移し、そこで炎症反応を起こします。その結果、血管・リンパ管の浸透圧を下げること、つまり血管・リンパ管の穴が大きくなることで血漿成分、リンパ液が漏れだすのです。これが、がんの場合の腹水、胸水が貯まる理由です。浮腫が起こる理由と同じですね。
まず、腹水・胸水で皆さんにお話したいのは、早急に貯まった水を抜かなければならない場合のことです。
いわば、腹水・胸水のオンコロジーエマージェンシーともいえる場合があります。
①腹水が貯まり、呼吸困難の症状が起こっている場合。
②胸水が貯まり、呼吸困難の症状が起こり、かつ胸部レントゲン写真で縦隔偏位が起こっている場合。
この2点が腹水・胸水のオンコロジーエマージェンシーです。いずれも、そのままにしていると、患者さんは急変を起こし、死に至る場合があるのです。
オンコロジーエマージェンシーとしての腹水・胸水
先ほどお話した、2つのオンコロジーエマージェンシーについて詳しく説明します。
まず、①の腹水が貯まって呼吸困難が起こっている場合とは、腹水が横隔膜を押し上げて横隔膜の動きを妨げている時です。
我々の呼吸は、2種類あり、肋骨の間の肋間筋を動かして呼吸をする場合、これを胸式呼吸と言います。もう1 つは、横隔膜を上下させて行う呼吸です。これを腹式呼吸と言います。
腹式呼吸のほうが、多くの酸素を取り入れられます。腹水が溜まりすぎると、腹式呼吸ができなくなり、呼吸困難を起こします。場合によっては、これが原因で呼吸不全となり、命を落とすことがあります。
私は、こんなケースを聞いたことがあります。
50代の大腸がんの男性が、ある病院に転院してきました。救急車で来られ、研修医が同乗していました。
腹水がかなり貯まっており、到着した時は、強い呼吸困難の症状がありました。
そして、着いたとたん、血圧が急に下がり、そのまま亡くなってしまいました。
腹水の横隔膜の圧迫により、呼吸不全が起こり、車の移動中に循環不全を起こして亡くなったのだと思いました。
その病院の主治医は研修医に聞きました。
「そちらに入院中になぜ腹水を抜かなかったのですか?」
彼は「上司が、腹水を抜くと栄養が抜けるので抜くなと、言ったんです。」と答えました。
こんなケースです。
確かに腹水を抜くと栄養が抜けるという説もあります。でも、ここまで腹水がたまり、呼吸困難を起こしている患者さんを、腹水を抜かずに車で連れてくると、循環不全にまで発展してしまいます。非常に残念なケースですが、とても教訓的なケースであると思い、今回皆様にお話しました。
次に、②の胸水のオンコロジーエマージェンシーは、胸水が貯まって、縦隔偏位を起している場合です。
縦隔偏位を起こしているということは、縦隔にある臓器を圧迫しているということです。縦隔にある臓器とは心臓ですよね。これも、圧迫すると循環不全を起こします。ですので、早急に胸水を抜いてあげる必要があります。私は縦隔偏位を起した患者さんを何例も診てきましたが、いずれも胸水を抜いてあげると、全く呼吸困難の症状が無くなりました。
もう一度お話します。
①腹水が貯まり、呼吸困難の症状が起こっている場合。
②胸水が貯まり、呼吸困難の症状が起こり、かつ胸部レントゲン写真で縦隔偏位が起こっている場合
このような場合は、早急に水を抜いてください。
急いで排液をしないといけない、腹水・胸水のオンコロジーエマージェンシーに遭遇した際には、至急排液をお願いします。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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