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【骨転移になる前に】副作用で顎骨壊死を起こさない秘訣について、緩和ケア医が教えます【患】#129
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「顎骨壊死」です。今日は治療中のがん患者さんにお話します。
動画はこちらになります。
がんが進行して、骨に転移が起こってきたとき、その治療のために、ほぼ全員にゾメタ©やランマーク©という薬を使います。それらの薬はとても効果があります。
ところが、その副作用で歯を支える顎骨という骨が溶ける症状が出ることがあります。それを顎骨壊死と言います。
顎骨壊死は一旦起きると、治すことが難しいうえに、非常にQOLが落ちます。顎骨壊死はとても怖い症状です。でも、それを予防する方法があります。
骨転移は、がんの患者さん全ての方に起こりうる可能性があるので、全てのがん患者さんにこの顎骨壊死の恐ろしさとその予防について知っておいてほしいと思っています。
この記事を見ることで、顎骨壊死を知り、しっかり予防ができる患者さんが増えればうれしいです。
今日もよろしくお願いします。
ホスピスで経験した顎骨壊死の怖さ
今から10年ほど前、私がまだホスピスで働いていた頃です。顎骨壊死を起こした患者さんが立て続けに2名入院してきました。
1人目は、乳がんの70代の患者さんです。入院したときは特に何も症状の訴えはありませんでしたが、しばらくして口腔内の痛みを訴えられました。
痛みは日ごとに悪化したため、週1回往診してくれている歯科医に診察してもらったところ、顎骨壊死と診断されました。
この方は骨転移があり、ゾメタ©を使ったことはありましたが、数年前に使った後は、全く使っていませんでした。それからも顎骨壊死は悪化していき、食事は全く食べられなくなり、1か月後に亡くなるまで、食事はできないままでした。
ゾメタ©使用後、数年たっても顎骨壊死が起こるということは、私にとっては驚きでした。
2人目は、子宮頸がんの50代の患者さんでした。この方は、ホスピス入院前にゾメタ©による顎骨壊死と診断されていました。
入院後、顎骨壊死は急速に悪化し、とうとう顎に穴が開いてしまいました。ものを食べても、穴から外に出るのです。大学病院の口腔外科に転院して治療をしてもらい、何とか穴はふさがりました。しかし、ホスピスに帰ってきてからも、この方の顎骨壊死は根本的には良くならず、食事はほとんど取れないまま亡くなりました。
このように、顎骨壊死は一旦起こってしまうと、治療が難しく、患者さんのQOLが落ちたまま、最期を迎えることが多いのです。
私はこの2例のケースを通じて、顎骨壊死の恐ろしさを痛感させられました。
顎骨壊死は予防がすべて
顎骨壊死は、ゾメタ©やランマーク©などの骨吸収抑制剤を使用する悪性腫瘍患者さんのすべてに発症するわけではありません。
先ほどお話したように、一旦起こしてしまうと根治は難しく、患者さんのQOLを著しく損ねてしまいます。しかし、顎骨壊死には治療法が存在しません。
対症療法として悪化しないようなケアしかできないのです。それも限界があるので、顎骨壊死は「ならないように予防することがすべて」です。
顎骨壊死は何故おこるのでしょう。顎骨壊死の原因は、顎骨への細菌感染であるという考え方が、主流となりつつあります。
抜歯などの外科的処置、化学療法、糖尿病、喫煙なども顎骨壊死の原因と考えられた時もありましたが、実は直接的な原因ではありません。
その感染リスクへの対処法として最も重要なのが、厳密な口腔管理、ならびに口腔ケアを徹底することです。
ゾメタ© やランマーク©を投与する前に、虫歯などの口腔内の感染巣を取り去り、その後も徹底した口腔管理をして、口腔内の保清を保つことがベストなのです。すなわち、顎骨壊死にならないためには、予防すること、すなわち口腔ケアが一番大事なのです。
ゾメタ©やランマーク©使用後のがん患者さんに、しっかりとした口腔ケアを実施したところ、 顎骨壊死の発症が76%減少したという報告がありました。徹底した口腔清掃で、顎骨壊死は予防可能なのです。
がん患者さん全員に骨転移の可能性があります。そして、骨転移の治療を行うと、顎骨壊死という重大な副作用が起こる可能性がありますが、徹底した歯の治療と口腔清掃で、予防は可能です。
今、骨転移のあるなしに関わらず、がんと分かれば、すぐに歯医者に行きましょう。そして、口腔内のケアを続けましょう。
なぜ顎骨壊死が起こるのか
もう少し顎骨壊死について詳しくお話をします。
ゾメタ©やランマーク©は、全身の骨に作用するのに、なぜ顎骨だけに壊死が起こるのかという疑問が出てくると思います。すべての理由が明らかにされている訳ではありませんが、理由のひとつは顎骨が直接口の中の細菌にさらされている点です。
歯は顎の骨から歯肉を突き破って生えているため、細菌感染を受けやすいという解剖学的な理由があります。一方、口の中にはたくさんの細菌が生息しています。
たとえば、歯垢 1 ㎎中には なんと 10 億個の細菌が生息しており、顎の骨は非常に感染を受けやすい環境にあるといえます。
さらに、歯周病により細菌感染が 起きたり、抜歯した部位から細菌感染が起きたりと、 顎の骨は身体の他の部位の骨と比べると極めて感染しやすいので、顎骨壊死を起こしやすいと考えられます。
口腔内は体内で細菌が最多
私は先ほど、口腔内は細菌が多いと話しましたが、実は体内の中で口の中は一番細菌が多いのです。
その中でも1番細菌が多いのが、歯の表面です。
歯の表面はエナメル質と言い、まずここに細菌が付着するそうです。そして、口腔ケアを怠ると、細菌やその代謝物の塊ができます。これをプラーク、あるいは歯垢と呼ばれるものになります。
先ほど申し上げましたが、歯垢1㎎中には10億個の細菌がおり、口腔内の1000倍の細菌の巣窟になっています。さらに放置すると、歯のカルシウムが溶けてきて固まり、歯石となります。歯垢や歯石は通常のブラッシングでは取れませんので、歯科で歯科衛生士の方にケアをしてもらう必要があります。
2番目に細菌が多いのが、入れ歯です。
入れ歯は意外にセルフケアができていないそうです。また、やせてくると入れ歯が合わなくなることも多く、定期的に歯科でのチェックが必要です。
3番目は舌です。
舌には舌苔(ぜったい)といわれる細菌が付着します。これも定期的なチェックと、ケアが必要です。舌磨き専用のブラシもあるようなので、歯科衛生士に相談してみてください。
この他にも口腔内の粘膜にも細菌が付着することが多いそうです。個人では気づきにくいので、がんと分かった時点で専門家に診てもらいましょう。
口腔内の細菌は、虫歯や歯周病の状態になっていると、そこから血液を介して全身に回ります。免疫が低下している状態であれば、それが原因の感染症も起こすこともあるのです。
口腔内を常に清潔な状態に保つことはいろいろな意味で重要です。
口腔内ケアは専門家に
最後に申し上げたいことは、口腔ケアは自分だけで行うことは難しいということです。
私も毎日数回ブラッシングと歯間ブラシを使い、自分なりの口腔ケアをしているつもりですが、歯科の定期検診に行くと必ず、プラークが歯に付いている、と言われます。ですから、2~3か月には1回必ず歯科の定期検診を受けるようにしています。
もし、かかりつけの歯科を持っておられないのなら、今すぐに見つけましょう。そして、定期的に通院し、口腔ケアのやり方を学んでください。
それが、ひいては顎骨壊死にならないための秘訣と言えるでしょう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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