せん妄を起こしやすい3つの薬とその具体的な対応法を緩和ケア医が説明します【医】#41
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「せん妄を起こしやすい3つの薬」です。
動画はこちらになります。
最近消化器内科の医師から、医療用麻薬で困っていると相談を受けました。彼は言いました。
「がん性疼痛になった患者さんに医療用麻薬を使いました。すると翌日から、夜間に不穏になり点滴を抜こうとしました。しかも昼間は寝てばかりです。
医療用麻薬が原因かと思いやめてみたところ、不穏は治ったのですが、痛みが再び現れました。ロキソプロフェンでは全く痛みが取れなかったので、医療用麻薬が必要かなと思います。
でも不穏になるのも困ります。不穏か痛みかどっちを取ればいいのでしょうか。」
このような話でした。このようなケースはよくあります。
実はこの不穏はせん妄という状態なのです。
この先生は不穏か痛みかの二者択一で困っていましたが、痛みをコントロールしながら、せん妄をとることは可能なのです。
今日は、せん妄を起こしやすい3つの薬と、その対処法についてお話します。
この内容は基本的緩和ケアの範囲ですので、治療医の先生にも十分対応可能ですし、これを知っておけば患者さんの助けになりますので、ぜひマスターしてください。
今日もよろしくお願いします。
せん妄を起こしやすい3つの薬とは
せん妄の直接因子となるものは様々ありますが、薬剤によるせん妄は比較的頻度が高いと思います。その中でも、頻度の高い3種類の薬剤はぜひ知っておいてください。
頻度が高い順に言うと
この3種類です。
せん妄を改善する方法は、その原因となるものを取り去ったり、治療して原因を改善することです。
例えば、感染が起こり、さらに脱水となりせん妄となった時には、感染症の治療と輸液による脱水の改善が必要です。このケースの場合、感染と脱水のみがせん妄の原因だとすれば、治療が功を奏すれば、おそらくせん妄は改善します。
一方、薬剤によるせん妄であれば、その薬剤を中止すれば、せん妄は改善します。薬を止めて問題がなければ、できるだけ早めに中止するべきです。しかし、はじめにお話したような、薬を止めにくいケースはどうでしょう。がん性疼痛があって医療用麻薬を開始し、痛みは取れたものの、せん妄になったという場合です。
先ほど申し上げたように、医療用麻薬を止めてしまえば、確かにせん妄は改善するでしょう。しかし、患者さんの痛みはまたもとに戻るでしょう。
先ほどの先生のように、二者択一で迷ってしまいますよね。こんな場合どうすればよいでしょうか。
がん性疼痛は、患者さんにとって非常につらいものです。医療用麻薬が必要なくらいの痛みがあるのに、医療用麻薬をやめてしまうということは、再び患者さんに苦痛を与えてしまうことになります。私はお勧めできません。
できれば医療用麻薬を継続しながら、せん妄を改善する方法を考えることが必要となってきます。この方法は後で詳しくお話します。
次にせん妄の頻度の高い薬剤であるステロイドはどうでしょうか。
緩和ケアでは、ステロイドは様々な症状緩和に有用な薬剤です。いろいろな場面で私はよく使います。ステロイドも、長期間大量に使用すれば、せん妄を起こしやすくなります。これも使い方にコツがありますので、後程解説いたします。
3番目のベンゾジアゼピン系向精神薬はどうでしょうか。
これは結論から言えば、中止が望ましいと思います。最近はせん妄を起こしにくい睡眠薬も登場していますので、わざわざせん妄を起こす可能性のあるベンゾジアゼピン系向精神薬を使う必要はないと思っています。
また、ベンゾジアゼピン系向精神薬は、せん妄にならないまでも、がん患者さんに使用するにはメリットよりもデメリットが多いのです。詳しい理由はあとで説明しますが、ベンゾジアゼピン系向精神薬は、はじめから使わないことをお勧めします。
それぞれの薬剤にはメリット・デメリットがあります。それを考えて、使用するかどうか選択するといいと思います。
医療用麻薬がせん妄の原因の場合の対応
それでは、それぞれの薬剤について詳しく説明していきます。
まずは、医療用麻薬がせん妄の原因の場合についてお話します。
医療用麻薬を使っている場合は、ほとんどの場合患者さんにがん性疼痛があると考えなければいけません。したがって、単純にやめれば良いというわけにはいきません。止めると再度疼痛が生じて来るからです。
また、痛みもせん妄を悪化させる促進因子ですから、単にやめてもせん妄が良くならないことも多いのです。
医療用麻薬を使ってせん妄が起こったと思っても、それ以外の原因で起こっている場合もあるので、注意が必要です。医療用麻薬以外の薬物の可能性はないか、中枢神経系の病変、高カルシウム血症・低ナトリウム血症などの電解質異常、高アンモニア血症、脱水、感染症、低酸素血症などがないか、チェックしましょう。
もし、治療ができるならしてください。それでせん妄が改善するかもしれません。
私はいつも3つのステップで、痛みの緩和をしながら、せん妄を改善できないか考えています。
1. 医療用麻薬以外の方法を試す
1つ目は、ひとまず使っている医療用麻薬は止めて、消炎鎮痛薬などで疼痛緩和ができないかを考えます。
入院中であれば、Nsaidsやアセトアミノフェンの点滴を使うと、効果が大きいことがあるので、それらを使ってみることには意味があると思います。しかし、消炎鎮痛薬だけでは、疼痛緩和ができないことも多いので、もし痛みが取れなければ、すぐに次の手を考えてください。すなわち、神経ブロック、放射線照射、IVRなどの導入も検討してください。
2. オピオイドスイッチ
2つ目は、オピオイドスイッチです。
例えば、オキシコドンを使っているのであれば、モルヒネやヒドロモルフォンに変えてみることです。あるいは、投与経路を変えてみることも効果があることもあります。モルヒネなら、内服を皮下注に変えてみるととかです。
それだけで治るの?と思う方もいるかもしれませんが、実はそれだけで治ることもあります。
モルヒネは肝臓で代謝を受け、非活性物が生じるため、それがせん妄の原因になることがあります。皮下注や静注なら、肝臓での代謝を受けないで直接レセプターに作用するので、せん妄にならないことが多いのです。
3. 経過観察
今までお話した方法でも改善しない場合、そのまま経過観察という方法をとります。驚かれるかもしれませんが、意外にこれで良いこともあるのです。
特に医療用麻薬を導入直後にせん妄になった時は、しばらく使い続けると、少しずつ慣れてきてせん妄が無くなる場合があります。1週間くらいは様子を見ても良いかもしれません。
医療用麻薬を導入すると、嘔気や眠気が起こりますが、しばらくすると消失するのと同じ原理なのではないかと思います。あるいは投与量を減らすことも試してください。
患者さんの痛みを見ながら、量の調整は必ず行ってください。そしてその場合、せん妄の症状を抑える効果のあるセレネース®やセロクエル®などの抗精神病薬は併用してください。
ステロイドがせん妄の原因の場合の対応
次に、せん妄がステロイドで起こった場合についてお話します。
まず私が言いたいことは、ステロイドを短期間、例えば数週間程度使った時にせん妄を起こしたケースを見たことは、ほとんどないということです。
せん妄を起こすのは、大量のステロイドを長期間使った場合に起こりやすいと思います。
例えば、脳浮腫などの症状緩和のため、リンデロン®10㎎/日以上を1カ月以上使い続けた場合などです。
この場合のせん妄の対処法は、減量です。少ない量、例えば、リンデロン®で1~2㎎/日程度なら、1カ月以上使ってもせん妄は起こりにくいと思います。
つまり、せん妄を起こさないようにするためには、ステロイドは最初は比較的大量から開始し、徐々に減量していくという使い方が望ましいのです。そして必要が無くなったら、早めに中止することが大切です。
私の経験上、この方法でステロイドを投与すると、せん妄はほとんど起こりませんでした。
ステロイドの使い方については、以前の動画で詳しく説明していますので、参考になさってください。
ベンゾジアゼピン系向精神薬がせん妄の原因の場合の対応
ベンゾジアゼピン系向精神薬でせん妄が起こった場合は、できるだけ早急に中止してください。そして、せん妄になりにくい睡眠薬に変えてください。
例えば、トラゾドンなどの抗うつ薬、ベルソムラ®やデエビゴ®などのオレキシン受容体拮抗薬です。これらはせん妄を起こしにくく、むしろせん妄を防止する効果もあるといわれています。このことはぜひ覚えておいてください。
さらに言うと、ベンゾジアゼピン系向精神薬は睡眠の目的で定期的に使わないことを強くお勧めします。なぜなら、ベンゾジアゼピン系向精神薬には多くのデメリットがあるからです。
1つ目のデメリットは、長期使用で依存が生じるということです。
デパス、ハルシオンなどの短期作用型のベンゾジアゼピン系向精神薬は依存を起こしやすく、要注意です。
2つ目のデメリットは、筋弛緩作用があることです。
これは夜間のふらつきや転倒などの医療事故につながります。高齢者や終末期のがん患者さんには決して使用しないでください。
3つ目は、過量投与で、呼吸抑制を起こすことです。
多くはミダゾラムなどの点滴で使う際に起こります。
4つ目にせん妄の原因になるということです。
以上のようなデメリットが多いベンゾジアゼピン系向精神薬を、基本的に睡眠薬として定期的に患者さんに投与するべきでないと私は思っています。
以上、せん妄を起こしやすい薬剤と、もしせん妄を起こしたときにどうするかについてお話してきました。
冒頭にも述べましたが、これは基本的緩和ケアの範囲です。患者さんのお役に必ず立ちますので、治療医の先生にぜひマスターしていただけたらと思います。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん・ご家族・医療者向けに発信をしています。
あなたのお役に立った、と思っていただけたたら、ぜひ記事にスキを押して、フォローしてくだされば嬉しいです。
また、noteの執筆と並行してYouTubeでも発信しております。
患者さん・ご家族向けチャンネルはこちら
医療者向けチャンネルはこちら
お時間がある方は動画もご覧いただき、お役に立てていただければ幸いです。
また次回お会いしましょう。さようなら。
ここまでお読み頂きありがとうございます。あなたのサポートが私と私をサポートしてくれる方々の励みになります。 ぜひ、よろしくお願いいたします。