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【家】ご家族が後悔しないために「亡くなる直前の5兆候」をお話します #100

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「亡くなる直前に現れる5兆候」です。

動画はこちらになります。

大切な人の最期の時を考えることはとてもつらいことです。また前のように元気になって、元の生活に戻ってほしい。多くのご家族はそう思っています。

その一方で「最期をきちんと看取れなかった」という後悔の気持ちを持つ遺族が多いことも事実です。そして、その後悔を何年も何年も持ち続けて、とてもつらい思いをしている遺族が本当に多いのです。

「亡くなるまでの1週間」という記事は、私がホスピスで働いていた時に、ご家族に話していた、患者さんが亡くなるまでのプロセスをお話したものです。

この記事はたくさんの方に見ていただいています。本当にありがとうございます。

この記事を作った理由は、患者さんが亡くなる前のプロセスを知って、最期の時を大切に過ごす準備ができるご家族が、増えてほしいと思ったからです。

この記事に寄せられたコメントの中に、「少しだと思って患者さんのそばを離れたちょっとの間に亡くなってしまって本当に後悔している。何年もそのことを思い出すたびにつらい。」とおっしゃる方が複数いらっしゃいました。

今日は、亡くなる直前の患者さんに現れる5兆候についてお話します。

死がいつ来るかを正確にいうことは誰にもできません。けれど、その時が近くなった時はある程度はわかります。したがって、ご家族はその時のこころの準備をどうするのかは大切なことだと思います。

この記事を見ることで後悔することなく、大切な人を見送れる方が増えればうれしいです。

今日もよろしくお願いします。


大事な人をそばで看取るために

お父さん がん図

始めにこの図を見てください。この図は、がん患者さんの自然経過を示しています。

抗がん治療が終わっても、がん患者さんは、比較的元気に過ごす方が多いです。ところが、亡くなる1~2か月くらい前から、病状は急速に悪化し、体調も目に見えて悪化してきます。このことを、私たち緩和ケアを行う医療者の間では、「週単位での変化」という言い方をします。

病状、体調が1週間前と比べて、大きく変わっている、という意味です。そして亡くなる1週間前になると、「日単位での変化」になってきます。毎日、状態が変わっていくのです。変化のスピードが速くなります。この間の変化のことは、先ほどお話した「亡くなるまでの1週間」で詳しく話しています。

そして、亡くなる1~2日前になると「時間単位での変化」になってきて、特徴的な症状が現れます。私たちはこれらのことを、亡くなる直前の患者さんに現れる5兆候と呼んでいます。

具体的には、意識混濁死前喘鳴下顎呼吸四肢のチアノーゼ橈骨動脈の蝕知不可の5つです。これらの兆候が現れてくると、私は「もうそろそろだな」と考え、ご家族に「命が今日、明日の可能性があります。できるだけ側にいてあげてください。」とお話しています。

大切な方が亡くなることはとてもつらいことだと思います。でも、大切な人の最期は、そばにいてあげてほしいのです。そのためにも、この最期の5兆候のことを知ることは、役に立ちます。大事な人のそばにいて、しっかり見送ってあげてください。


最期の5兆候

それでは、5兆候について具体的にお話していきます。

1. 意識混濁
亡くなる1~2週間前から、眠っている時間が徐々に増えてきます。亡くなる数日前になると、ほとんど眠った状態になることが多くなり、呼びかけにも反応しないことが多くなります。これを意識混濁と言います。

しかし、そばに親しい人、大事な人がいることは感じられます。また、耳の機能は最期まで残ります。最近、人の声に、亡くなる直前の人の脳波が反応したという報告がありました。最期まで大事な人の声は聞こえます。そばにいて、手を握り、話しかけてあげてください。

2. 死前喘鳴
ウトウトと眠ることが多くなってくると、唾液や痰がうまく呑み込めなくなるので、呼吸と共にゴロゴロという音が出て、 あえいでいるように見えます。このことを死前喘鳴と言います。

深く眠っている時に起こるので、皆さんが思うほど、患者さんは苦痛を感じていません。表情などからつらさがあるかどうかは判断できます。もしご心配なら、主治医・看護師にお伝えください。きちんと確認してくれるでしょう。

死前喘鳴は患者さんの 35% 程度に起こり、亡くなる2日前くらいから出現すると言われています。無理に吸引はせず、口の中に溜まったものをガーゼなどで拭ってあげてください。

3. 下顎呼吸
さらに時間が経過すると、呼吸が荒くなり、顎を上下に大きく揺らすような呼吸になってきます。下顎呼吸という状態です。

呼吸しているように見えても、胸は動いておらず、有効な呼吸ではありません。ただ、この状態になると、意識はほとんどありません。しかし、患者さんは苦痛は感じていませんので、慌てずに見守ってあげましょう。

下顎呼吸は 95% の患者さんにみられ、亡くなる7~8時間前からみられることが多いです。

4. 四肢のチアノーゼ
亡くなる5~6時間くらい前には手足が紫色になったり、冷たくなったりします。これは心機能をはじめ全身の循環動態が低下するために起こります。これを四肢のチアノーゼと言います。

この時期になると、尿もほとんど出ない状態となります。四肢のチアノーゼは 80% の患者さんに起こります。

5. 橈骨動脈の蝕知不可
橈骨動脈は手首にあり、触ると脈動が感じられます。橈骨動脈を触診し、拍動が全くなくなったら、亡くなる2~3時間前だと思ってください。これはほぼ全ての人に起こります。

そして、呼吸停止 、心拍停止 、瞳孔散大・対光反射の消失という、死の三大徴候を示した時、この世の死が訪れます。魂は、疲れ果てた肉体の衣を脱ぎ捨て、自らの故郷へ帰っていくのです。


最期を看取れた遺族の話

私が前に勤めていたホスピスでは、遺族ケアを定期的に行っています。そこに来ていた2人の遺族が話してくれました。

まず、1人目の方です。

「主人が亡くなった前日は朝からうとうとしていることが多く、ちょっといつもと様子が違うような気がしていました。のどのゴロゴロという音がとても大きく感じたので先生に聞いてみたら、最期が近くなった人の兆候の1つだと教えてくれました。のどの音がとても大きくて気になりましたが、先生がおっしゃるように、表情をよく見てみると穏やかだったので、苦しくないことはわかりました。

もしかしたら、もう近いのかもしれないとなんだか気になったので、子どもたちに頼んで着替えを持ってきてもらい、その日は病室に泊まりました。主人は朝方亡くなったのですが、最期は手を握って、お父さんありがとうって言って見送ることができました。

先生に亡くなる頃のお話を聞いていて、毎日少しずつ準備ができていたことがよかったと思います。」


最期を看取れなかった遺族の話

2人目の遺族の方のお話をします。

その女性はある朝、お母さんと些細なことで喧嘩をしたそうです。そして、その夜、お母さんはくも膜下出血で急に亡くなりました。彼女はお母さんとの最後の会話がけんかだった事を、ずっと後悔していたそうです。

そして、ご主人ががんで亡くなりました。そんな彼女が話してくれました。

「主人が積極的な治療が終わってホスピスに入った時には、もう母の時のように後悔したくないと思っていました。だから、亡くなるまでにたどるプロセスを先生から聞いた時に、主人と一緒にいる時には笑顔と感謝でいつも過ごそうと決めました。

特に家に帰る時にはいつも、これで最期かもしれないと思いながら、でも、必ず笑顔で今日もありがとうって別れました。

帰りの車の中ではつらくて、泣きながら帰ったこともありました。そんな日には、家に帰ってから、聞いてくれる友人に気持ちをしっかりと受け取ってもらっていました。それが、本当に助かりました。

主人が亡くなる数日前から寝る時間が増えて、しんどそうに呼吸する感じでした。その日は病室に泊まることにして、食事をして、着替えをもって病室に向かっているときに、呼吸が止まったと病院から連絡が来ました。結局20分、間に合わずに、最期を看取ることができませんでした。

もう少し早く病院に行っていたらと思うことはあります。でも、毎日2人とも笑顔でまた明日って言葉をかけて、ありがとうっていつも言っていた。主人がいなくなったのは悲しいけれど、主人を思い出す最期の顔は笑顔と感謝なんです。それが、毎日の慰めになっています。」

今日のお話は、もしかしたら考えたくない内容だと思う方もいるかもしれません。しかし、私がこの動画を作ったのは、少しでもご家族に後悔してほしくないからです。

2人目の例の方のように、最期、ご主人を直接看取ることはできないこともあります。やはり、どんなに準備しても、ほんの少しの時間の差で看取れないことも中にはあります。

それでも、最期の時を覚悟して、いつその時が来てもいいように、ご主人と別れる時は必ず笑顔と感謝で締めくくると決めていた、彼女のような準備をしていくことも大切なことだなと私は思うのです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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