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【医】脳ヘルニアにならないように頭蓋内圧亢進の早期発見は重要!#120

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「オンコロジーエマージェンシー~頭蓋内圧亢進~」です。

動画はこちらになります。

今日は医療者、特に若いドクターにお話します。

皆さんは頭蓋内圧亢進の患者さんや痙攣発作を起こした患者さんを診たことがありますか。

私は研修医になったばかりの頃、当直で夜中に痙攣発作を起こし、意識消失を起こした患者さんを初めて診察し、どうすればよいか途方に暮れたことを今でも覚えています。

脳外科の主治医の先生に夜遅くでしたが、恐る恐る電話をしました。すると、すぐにでてくれて、対処法を詳しく教えてくれました。教わった通りの処置をしたところ発作は収まり、ほっとしました。

脳の疾患は、意識状態が急に変わることも多いので、初めての経験の時にはとても不安になりますよね。それは、患者さん本人やご家族であれば、なおさらでしょう。

今日は脳に腫瘍がある患者さんの、気をつけなければいけない症状についてお話します。

この記事を見ることで、頭蓋内圧亢進の症状を適切にアセスメント・治療ができ、重篤な症状にならないうちに対処できる医療者が増えればうれしいです。

今日もよろしくお願いします。


早期発見が肝要な頭蓋内圧亢進

まずは図を見てください。

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脳および脊髄は、外側から順に硬膜、くも膜、軟膜の3層の髄膜で覆われています。

くも膜はオブラート様の膜で、その下に脳脊髄液で満たされたくも膜下腔があり、脳は脳脊髄液の中に浮かんだ状態にあります。容器に入ったお豆腐をイメージするとわかりやすいです。

脳脊髄液は絶えず循環しており、1日に3~4回入れ替わります。頭蓋内圧亢進とは、通常仰臥位で60~180mmH₂Oに保たれている頭蓋内圧が増大した状態のことを指し、髄液圧が200mmH₂O以上のことをいいます。そうなると脳の機能が正常でなくなり、様々な症状が生じてきます。  

がん患者さんの頭蓋内圧亢進の原因は、脳腫瘍が一番多いですが、頭部外傷や、脳血管障害でも起こります。頭蓋内圧亢進が進行すると、痙攣や脳ヘルニアが起こり、命の危機が生じてきます。

特に脳ヘルニアはオンコロジーエマージェンシーと言えます。

この図を見てください。

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脳ヘルニアとは、頭蓋内圧が亢進することで圧力の高い部分から低い部分へ脳実質が移動し、押し出された状態をいいます。一旦、脳幹にヘルニアを起こすと重篤な経過をたどり、死亡する可能性が高くなります。

そうならないためには、早期に頭蓋内圧亢進症状を発見する事が重要です。

頭蓋内圧亢進の早期に起こる症状として、頭痛や嘔気・嘔吐があります。早朝に頭痛、嘔吐が起こったり、原因がわからない嘔気・嘔吐は、頭蓋内圧亢進の症状の特徴です。また、ものが見えにくい、2重に見える などの症状が起こることもあります。

患者さんには、そのような症状がある場合は、すぐに知らせるようにお伝えください。

脳に腫瘍があるがん患者さんの頭蓋内圧亢進の症状には、注意が必要です。気づくのが遅いと脳ヘルニアという重篤な状態に陥り、一歩遅れれば患者さんが死に至る場合もあります。できるだけ脳ヘルニアに陥る前に、早期発見・治療に努めましょう。


頭蓋内圧亢進の症状と治療

頭蓋内圧亢進は脳腫瘍の患者さんの60%に起こると言われています。また、頭蓋内圧亢進は脳腫瘍の患者さんの初期症状の20%に起こります。

自覚症状としては、先ほどもお話ししましたが、頭痛、嘔気・嘔吐、視力障害が3主徴です。

頭痛は、うずくようなと表現されることが多く、進行性で、頭を動かしたときとか、咳をした刺激で悪化すると言われますが、特に誘因なく起こることが多いのも特徴です。

先ほどお話したように、早朝覚醒時に起こることが多く、これは、夜間に血中の二酸化炭素が貯まることで血管が膨張して頭痛が起こる、と説明されています。頭痛と同時に嘔気・嘔吐も起こりやすいです。

視力障害は眼底にある視神経の乳頭が浮腫となるため起こります。視力障害は進行すると、失明にまで至りますので、注意が必要です。

他覚症状としては、まず意識障害です。はじめは、なんとなくぼーっとした状態であっても、急速に意識状態が悪化することもあります。意識状態の悪化は、脳ヘルニアになっている可能性が高いので、早急の診断・治療が必要です。

また、脈が遅くなり、血圧が上がります。これは頭蓋内圧亢進に対して、生体の恒常性を維持する働きで、脳血流量の減少を代償するためであると考えられています。

頭蓋内圧亢進が考えられたら、緊急にCT、MRI検査をし、頭蓋内病変を確認します。D-マンニトールなどの頭蓋内圧降下薬、ステロイドの投与で頭蓋内圧を下げます。D-マンニトールは、血管内の浸透圧を上げ、周りの細胞から水分を引っ張りそのまま排尿されるため浮腫を軽減することができます。

ステロイドは、脳浮腫の軽減ができます。


巣症状・痙攣とは

脳腫瘍によって直接脳が圧迫されると、脳の機能が障害され、運動神経、感覚神経の麻痺、しびれが起こります。これを巣症状または局所症状とよびます。

この他にも、顔面神経の麻痺や失語などの症状が起こることがあります。また、意欲低下や、活動性の低下、記憶力低下などの症状も起こすことがあり、うつ病などの精神疾患と間違うこともあります。精神疾患との鑑別には脳のCTやMRIなどで脳の器質的変化を調べる必要があります。

そしてもう1つの症状は、脳の一部が異常興奮をきたすことによって起こる痙攣発作です。刺激される脳の部位によって、片方の手または足が自分の意思に反して震えたり、言葉が喋れなくなったり様々な症状がでます。

脳全体に神経細胞の異常な興奮が広がった場合は、意識を失い全身の筋肉の震えや剛直が生じます。これを全身痙攣、または大発作といいます。脳腫瘍があると4人に1人くらいが大発作を生じるという報告もあります。

治療は薬物療法が中心になります。


脳ヘルニアとは

脳ヘルニアとは、先ほどお話しましたが、頭蓋内圧が高くなり、脳の中にある境界や隙間から、脳組織の一部がはみ出す状態のことです。特に、深部にある生命維持中枢である脳幹を圧迫すると、呼吸や心臓の機能を損ない、命にかかわります。

まず起こってくる症状は意識障害と瞳孔の異常です。一般的には、脳に障害のある側の瞳孔が開き、光に対する瞳孔収縮の反応が失われます。これを、対光反射の消失と言います。

さらに進行すると呼吸が止まります。呼吸が停止した場合は、治療を行っても救命の可能性は低くなります。次いで脈が乱れ、血圧が下がって死に至ります。

瞳孔異常の初期症状がみられたら、治療は一刻を争います。治療は頭蓋内圧亢進と同じですが、手術が可能な場合は、緊急手術を行います。

このように、脳ヘルニアを起こしてしまうと、1分1秒を争う状況になるため、先ほども言いましたが、頭蓋内圧亢進の状態を早めに見つけ、治療を始める必要があるのです。

脳に腫瘍があるがん患者さんの頭蓋内圧亢進の症状には、注意が必要です。気づくのが遅いと脳ヘルニアという重篤な状態に陥り、一歩遅れれば患者さんが死に至る場合もあります。そのため、頭蓋内圧亢進の早期発見・治療に努めましょう。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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